実ビジネスの事業者とアプローチを考える:国際的スマートシティの基礎知識8

国際的スマートシティの基礎知識

更新日:2023年2月15日(初回投稿)
著者:亜細亜大学 都市創造学部 都市創造学科 教授 岡村 久和

前回は、ヨーロッパ、中国、アメリカにおけるコングロマリットモデルを紹介しました。国際的なスマートシティでは、どのような企業が、どの段階でビジネスを行っているのでしょうか? 国内のスマートシティコンペの提案者は、自治体です。では、国際的スマートシティでは、どうでしょうか。海外で大活躍しているスマートシティ日本企業は、数多くあります。ただし、イニシアチブを取れない企業も存在します。効果的なアプローチとは、どういったことでしょう? 今回は、交通システムを一つのモデルとして考えてみます。

1. スマートトラフィックをケースとして設定

今回は、少し具体的なユースケース(想定事例)をもとに、話を進めていきましょう。この例は、ある国の交通に関するスマートシティプロジェクトです。スマートトラフィックという産業分類で、交通状態の監視、その情報に基づく信号などの一括制御、市民への交通情報の提供、高速道路や有料道路の自動課金制御などにより、渋滞解消と通行収入の増大を考えるといった仕組みです。このスマートトラフィックは、現場の情報をもとに、中央でコントロールセンターを持ち制御を行うもので、スマートシティ交通関連産業でも、多く行われている取り組みです。

交通関連産業に関するスマートシティの、最も古い仕組みの一つは、1995年に三菱重工が開発した、シンガポールのERP(Electronic Road Pricing:電子道路課金制度)です。これは、朝夕の混雑時間帯における、首都中心部への車両流入を防ぐための仕組みです。日本のETCと似ています。ただし、乗車人数の把握や、流入制限も行うなど、ETCより一歩踏み込んだ仕組みであるといえます。前回取り上げた、ストックホルムをはじめとする取り組みも、その後数多く世界中に広がっています(図1)。

図1:シンガポールのERP
図1:シンガポールのERP

この取り組み構造における、末端のセンサ設置から、中央コントロールセンターの流れを見てみましょう。ビジネスモデルは簡単です。道路上に車の感知センサを設置、それらを集約して、中央コントロールセンターでさまざまな施策を打つモデルです(図2)。従来の交通管制センター業務とは違い、ビッグデータを集約し、自動的に施策を打つという点が特長です。

図2:ビッグデータを集約した交通管制システム例
図2:ビッグデータを集約した交通管制システム例

ビッグデータには、車両や車両動態情報、天候、その他膨大な数の事故などのイベント情報(起こった個々の事象情報)が含まれています。また、施策には信号制御、料金所の閉鎖、制限速度や通行料金の動的変更、各種メディアへの交通情報提供、作業員派遣指示などが含まれます。

このビジネスモデルを、コングロマリットモデルを念頭に置いて考えてみましょう。例えば、どんな産業群に分けることができ、どんな企業が参入できるのでしょうか? また、どこに、どのようにアプローチしたらよいかといった考察がその入口となります。

2. ビジネスデベロップメント事業者

スマートシティビジネスの構築における、最初の活動は、戦略作りです。この点については、その他の多くのビジネスと全く違いはありません。しかし、最も違うのは、戦略作りをコングロマリットモデルにより、複数の組織が協力して行うという点です。目標、目的の策定、予算規模算定などから、実際の戦略策定コンサルティング、資金調達交渉、自治体・政府との交渉などが業務範囲となります。

図3では、この業務活動を行うグループを、左のビジネスデベロップメント事業者として定義しています。すなわち、スマートシティのビジネスを企画することを生業とするグループです。高度なシミュレーションをもとに、予算や投資、回収の分析を行います。中央の実際に参入する業種、右の実際の商材については後述します。

図3:交通管制システムビジネス例
図3:交通管制システムビジネス例

ここでは、ビジネスデベロップメント事業者について詳しく考えてみましょう。ビジネスデベロップメント事業者には、他のビジネスと同様に、ビジネスを初期発想する要員が存在します。「このような商品を世の中に出したらどうだろうか」、「どのくらい売れるだろうか」、「どのような企画で、どの工場で作り、どのような特徴を前面に出したらいいか」、「よりよく進めるためには、どのような企業に集まってもらい、知見を集める必要があるか」。ビジネスデベロップメント事業者は、そのようなことを考えるグループを構成する人材です。また、こうした企業には、コンサルティング会社、商社、デベロッパー、不動産会社、大手ゼネコンなどが多く含まれます。

しかし、それぞれが何を目的とするかは、微妙に異なります。コンサルティング会社はコンサル料金や後続のシステム開発、商社は価値を上げた土地、建物、工業団地などの不動産売却、デベロッパーは土地を中心とした不動産取引、大手ゼネコンは土木、建築工事や高速道路敷設などです。日本企業の特徴として、鉄道会社などもここに入ります。日本の鉄道会社は、まちづくりを基本とし、不動産を扱っていることが多いからです。JRをはじめ、各鉄道会社も高い確率で駅周辺のまちづくりや沿線の不動産開発を行っています。

かつてアメリカの鉄道会社は、専門企業化構造を特徴とし、広い国土の中での移動を主目的としていました。そのため、まちの開発や不動産などには、あまり手を出しませんでした。日本でも、移動を目的とした地下鉄(東京メトロや、都営地下鉄)は、大手鉄道会社とは違い、駅周辺の開発にはあまり手を広げていません。この点では、アメリカの鉄道会社によく似ています。

ところが、近年、アメリカでも、スマートシティビジネスの流れを受け、TOD(Transit Oriented Development)と呼ばれる、駅中心のまち開発の動きが出始めています。駅前再開発という日本のお家芸が脅かされているようにも感じられます。

3. 自治体は事業者ではない

著者のもとには、「スマートシティを始めたいが、自治体へのアプローチをどうしたらよいか?」とか、「どうしたら自治体から巨大ビジネスを受注できるのか?」といった質問がよく寄せられます。しかし、ビジネスデベロップメント事業者に、自治体は含まれていません。また、その事業のオーナーでもありません(図4)。

図4:自治体はスマートシティ企業ではない
図4:自治体はスマートシティ企業ではない

スマートシティを一つの産業と考えれば、自治体がオーナーになりえない理由が分かります。自治体は、役割としてビジネスを行うことができないからです。つまり、スマートシティを含めた産業をリードすることができません。予算もなく、専門要員もいません。自治体がスマートシティを推進する目的は、市民生活の向上です。その結果、人口や事業者が増えれば、固定資産税、事業税、住民税なども増えます。すなわち、地域サービスを行う対価として、税収などがあり、自治体の予算や人材は、あくまでも、地域サービスの一環としての仕事にしか使うことはできないのです。

スマートシティのビジネスでは、必ず場所が指定されるため、自治体がそのオーナー、またはリーダーであるという誤解が生じます。確かに、内閣府や経済産業省、総務省などが補助金を設定して行う、日本国内でのスマートシティ系の多くのプロジェクトでは、申請者を自治体に限定することが多くあります。そのため、スマートシティのオーナー自体が、自治体であると誤解されてしまうのです。しかし、自治体が国の補助金を使って行うスマートシティのコンペは、国際的なスマートシティのプロジェクトとは明らかに違います。

4. 実際に参入する業種、サブインダストリー

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5. 実際の商材

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6. これまでの日本の参入の形と今起きていること

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