国際的スマートシティプロジェクトにおける日本モデル、コングロマリット:国際的スマートシティの基礎知識6

国際的スマートシティの基礎知識

更新日:2022年12月7日(初回投稿)
著者:亜細亜大学 都市創造学部 都市創造学科 教授 岡村 久和

前回は、勝ち組としての日本製スマートシティチームを紹介しました。今回は、日本のスマートシティにおけるコングロマリットについて解説します。国際的なスマートシティは、産業でありビジネスです。ただし、最もスマートシティに向いている業種というものはありません。まちには元来、さまざまな産業があり、要求があるからです。そこで、自治体や国ではなく、企業を中心にした広い産業エリアをカバーする、コングロマリットの存在が浮上します。多種の企業が一丸となってビジネスに当たるモデルこそが、国際的なスマートシティビジネスの真のリーダーシップの姿と考えられます。

1. スマートシティコングロマリット

まちには、数多くの企業体や市民が存在します。企業にはさまざまな業種や職種があり、その活動への要求は多岐にわたっています。スマートシティは、このような大きなまちという場をビジネスのフィールドとして考えるため、一つの企業が、何か一つのものを売るという考え方は、スマートシティのビジネスモデルには当てはまりません。スマートシティでは、さまざまな業種や特徴を持った企業群が集まり、賢いまちを作っていくというビジネスモデルが求められています。

これは、コングロマリットと呼ばれるビジネスモデルに大変よく似ています。コングロマリット(Conglomerate)とは、業種の異なるさまざまな企業同士が、合併や買収などによってできた大きな企業体を意味します。日本にかつて存在した財閥も、コングロマリットの一形態です。ただし、スマートシティは財閥が推進すべきという意味ではありません。

スマートシティ産業や、スマートシティの実際のビジネスでは、必ず自治体や国が管理するさまざまな場所やマーケットなどがあります。そこには、交通やエネルギー、福祉など、さまざまな副産業やそれに関連した多岐にわたる課題が集結され、解決が求められます。このマーケットに対して、一企業だけでは、課題解決のための提案はできません。そこで、ビジネスを行う側は、多岐にわたる機能や知恵、人材を集結して、解決に当たる必要があります。すなわち、スマートシティは集合体に課題があり、集合体がそれを解決するビジネスであるといえます。かつての日本の財閥が持っていたような、多くの産業エリアを持つコングロマリットが必要不可欠なのです。

図1:スマートシティコングロマリット
図1:スマートシティコングロマリット

第2次世界大戦後、アメリカでは、自動車メーカーのゼネラルモーターズや、コンピュータメーカーのIBMは、それぞれの分野で特化し、戦後の経済を押し上げてきました。専門特化企業が、大きな飛躍を遂げ、巨大化したのです。この影響により、日本の財閥系企業グループでも、事業部制が導入され、縦割りが進められました。日立や三菱などの企業グループは分社化し、個々の企業内は、事業部制の縦割りに分業化していきました。しかし、それらのグループでは、本当の意味での分割は行われておらず、巨大なコングロマリットを維持していました。例えば、日立製作所は、大型コンピュータを作りながら、発電所や新幹線の製造も続けました。

この一見アメリカ風な日本企業の事業部化と、アメリカ企業の特化型、専門型企業の構造を比べてみましょう。どこかに、日本の真の強さが見えてくるはずです。

ここでは、大型コンピュータ産業の変遷を見てみましょう。1960年代後半から1990年代初頭まで、日本国内でも大型コンピュータを製造販売し、国内市場でしのぎを削っていたコンピュータ企業は数多くありました。アメリカ資本の日本IBM、ユニバック、スペリー、デックなどに並び、国産メーカーの富士通、日本電気、日立製作所など、多くの企業が存在しました。

分業化、専業化の視点から、これらの企業の違いを考えてみましょう。日本IBMは、アメリカIBMの子会社です。1960年代から、大型のコンピュータを中心に順調にビジネスを伸ばし続けてきました。ところが、1990年代初頭に、大型機による集中処理から小型機の分散処理へと移行します。すなわち、クライアントサーバ型処理を提唱する企業が台頭してきたことで、日本IBMは経営危機に陥りました。

当時台頭したのは、クライアントサーバを掲げたオラクルや、新しいハードソフトを使ったUNIXといった商品群でした。1990年代後半からは、現在も続いているシステムインテグレーション(SI:System Integration、システムの企画・導入から運用まで一貫して担当するサービス)、すなわちプログラムの大規模開発という業務モデルが追加され、それまでハードウェアを売るだけだった企業が、顧客のシステム開発を支援するビジネスモデルへと大転換を図りました。これが、現在のSIビジネスの誕生です。

図2:国産コンピュータ企業と専業企業(アメリカIBM)
図2:国産コンピュータ企業と専業企業(アメリカIBM)

同じ時期には、日本の富士通や日本電機、日立製作所なども、大型コンピュータの製造販売を行っていました。クライアントサーバの台頭により、これらの国産メーカーにおいても、コンピュータ関連の事業部門はビジネスが大きく縮小しました。しかし、IBMとは違い、その本業や屋台骨が揺らぐことはありませんでした。日本特有のコングロマリットモデルの経営が、その強さの源です。

例えば、富士通は、その名前のとおり「富」は古河グループの「ふ」、「士」はシーメンス社(ドイツ語では「ジーメンス」社)の「じ」の提携活動下で設立された富士電機の子会社として生まれ、その哲学の元に通信産業を担い、関連する多くの分野でも業務を行っています。決して、大型コンピュータ専門のメーカーではありません。また、日本電気も、大型コンピュータの製造販売において巨大なビジネスを続ける一方で、企業としては白物家電から重工業まで、広い範囲の業種に対応する機能を有していました。特に、日本のインフラを支える鉄道に関する電気電子や、通信に関する分野においては、長く広いビジネス実績があります。日立製作所は、日本鉱業(当時の久原鉱業所)のモータ開発部門から独立して以来、その電動機技術における躍進はとどまるところを知らず、製造分野は白物家電から新幹線まで多岐にわたります。

日本における大型コンピュータ業界を考えたとき、日本IBMは大型コンピュータの専門製造企業であり、システム開発にも携わってはいたものの、やはりコンピュータ関連の仕事しか持っていませんでした。一方で、国産コンピュータメーカーにおいては、コンピュータ製造部門は全体の一部でしかなく、日本の社会インフラを支える通信、重工業、電気電子から、生活を支える白物家電まで、非常に広い範囲のまちのインフラ業務をその主たる産業とし続けていました。コンピュータ専業の日本IBMと、国産コンピュータメーカーの大きな違いがここにあります。コンピュータ開発に特化した専門企業と、広い業種をグループカバーしているコングロマリット型企業の違いです。

2. 日本の強み、コングロマリット型企業モデルとマーケット

海外では、一社で多くの業種をカバーしたコングロマリット型の企業は、あまり見つけることができません。特にアメリカにはその数が非常に少なく、ヨーロッパには、ドイツのシーメンスや、フランスのブイグなどがあるものの、広範囲業種をカバーする日本の企業形態は多くはありません。

日本や韓国では、このようなコングロマリット型の企業の多くは、長い歴史を持つ財閥から継続されていることも事実です。韓国には、財閥を基本にしたヒュンダイやサムスンなど、日本のコングロマリット型の企業とよく似た巨大企業が存在し、広い範囲の業種をカバーしています。

スマートシティのビジネスにおけるフィールドでは、さまざまな種類の課題があり、産業や企業への対応要求が上がってきます。商業、住まい、ビジネス、娯楽から、エネルギーなど、買い手、すなわちバイヤーの要求が広い業種にわたっています。このようなマーケットに対応すべき企業が、ビジネスを成就させるには、この広い業種をカバーしている必要があります。すなわち、多くの要求が存在するマーケットにおいて、多くの要求に対応できる企業だけが生き残ることができるのです。

このように、スマートシティビジネスでは、広い範囲をカバーする日本のコングロマリット型企業は、その需要と供給にしっかりと合っています。もちろん、韓国のコングロマリット型企業もこれに適合します。しかし、これまでのところ、韓国のコングロマリット型企業が繁栄した歴史は、それほど長くはありません。日本のように、明治初期に始まり、安定したビジネスを続けてきた企業モデルは存在しません。韓国でコングロマリット型の巨大企業が現れたのは、戦争や政治のため不安定な国家の状態が続いた1970年代以降です。ただし、2022年の現在、その躍進は目覚ましく、スマートシティ産業においても軽視することはできません。

スマートシティ産業におけるコングロマリットモデルとは、日立、三菱、三井など、同じ財閥やグループ企業の集まりをいうのではありません。実際のスマートシティ開発、すなわち新たな技術を使ったまちづくり産業では、財閥や企業グループの枠を超えて、巨大なチームが出来上がることが多く、財閥や企業グループに属していない企業も、次々とその輪に加わり、活躍することができます。また、ライバル企業に対しても提携や営業譲渡などを実行し、団体戦の組織を広く作っていく企業もあります。

3. 日本の失われた10年におけるスマートシティの動向

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