前回、前々回と、国際的スマートシティビジネスにおける日本の強みを紹介しました。他のビジネス同様、国際的スマートシティビジネスにも、日本が強いエリア、弱いエリアが存在します。日本企業は戦後の加工製造業の名残で、製品力において強みを分析しがちです。しかし、このビジネスにおいては、製品そのものの強みのほか、組織の強み、戦略の強み、場所の強みがあります。また、それぞれに大きな弱みや、踏み入れてはいけない場所や考え方が存在します。今回は、今、日本が置かれている状況を考慮しながら、このビジネスの日本の強みや弱みをどう考えるべきかを解説します。
1. 強いエリア、弱いエリアとは何か
戦後の日本の産業は、アメリカとの関係で作り上げられ、成長したといっても過言ではありません。アメリカが考え、戦略を作り、必要な物を具体的に日本に説明、指示し、作らせる。戦後の日本は、この加工貿易の定型パターンで、1945年の終戦から1964年の東京オリンピックまでの20年を過ごしてきました。日本は、1964年に首都高速道路や東海道新幹線を急に作ることができたわけではなく、この20年間に、アメリカからの製品や技術に対する強烈な要求に真面目に応えてきたことで、国内に技術や、それを持つ人材を育むことができました。
実は、日本国内には、この表面的な歴史の影響が色濃く残っています。それは、国際的スマートシティビジネス競争への参画を遅らせる大きな原因にもなっています。
アメリカが考え、日本が作る、という戦後のモデルの影響で、日本企業は加工貿易の延長にある、部品輸出国になりました。日本の代表的産業は自動車です。トヨタが自動車を作るには、大きく2種類の産業群が必要です。それは、駆動系と、電装系です(図1)。

駆動系の産業群は、車体も含めると、製鉄、アルミホイール、タイヤに加え、内燃機関の振動を抑えるゴム系、塗装などに広がります。一方、電装系は、パナソニックや日立のモータ、基板などの電機製品が必要とされ、その下位に位置する電気電子製品には、TDKや村田製作所などが供給する電子部品が多用されています。近年では、電子部品は超小型積層コンデンサや超小型サーボモータが導入されるようになり、半導体やマイコンが積まれ、そこに組み込まれる各種のソフトウェアも、もはや自動車の重要部品となっています。
この日本の産業構造の考え方に、日本が国際的スマートシティに参入できない大きな問題が隠れています。日本を代表する自動車産業で、最も重要なものは、頂点の自動車でも、微細な半導体でもなく、この産業構造の設計者なのです。車社会を作ったアメリカがかつてのリーダーです。これが日本の産業構造に最も必要な発想です。そのため、戦後の経験から、図1のそれぞれの要素や部品こそ、日本の強いエリアだと勘違いしがちです。
日本企業は、自分たちの強いエリアは、個々の製品・部品であると想定しています。しかし、最も重要なのは、図1の三角形そのものを設計する「都市作りビジネスのプロデューサー」なのです。この「都市作りビジネスのプロデューサー」は、そもそも歴史的には日本が強いエリアです。日本のデベロッパーや商社の多くが、アジアを中心にスマートシティ産業で勝利を続けています。彼らの仕事は、まさにこの「都市作りビジネスのプロデューサー」であり、だからこそ、勝つことができるのです。
2. 日本が強いと勘違いしているエリアの現実を見る
国内のスマートシティでよく取り上げられるソリューションやビジネスについて、現状を見てみましょう。
例えばMaaSです。MaaSは、Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)の頭文字を取った略語で、自立交通などを中心にした次世代交通を、インターネットを使った自立交通のサービスビジネスにするものです。このエリアに、電気自動車や自動運転車、ソフトウェアを売り込むことはできないものかと、日本政府や企業は検討します。しかし、この仕組みの発想はフィンランドから生まれています。使われる部品はどうでもいいのです。
街の防犯カメラによる画像認証、映像認証もいい例です。アメリカJFK空港にいる全ての旅行者、従業員の顔をカメラで認証し、ニューヨーク警察の持つ犯罪歴データーベースと照合し、必要な人間を特定する仕組みが実装されたのは、10年以上前の2010年です。シカゴの町中のカメラでも同様のサービスが行われ、ロンドンでは地下鉄の構内にいる人間とその持ち物の距離が10m離れたら爆弾犯として警告する画像処理の仕組みも、同じころに実用化されていました。
日本企業が、画像処理用のカメラやソフトウェアの開発を盛んに始めたのは2015年ごろです。しかし、空港内で犯罪者を探す、街に隠れた悪者を見つける、地下鉄の爆弾破裂を未然に防ぐという根本的な戦略と、日本のカメラ・画像解析ソフトの販売では、ビジネス規模が全く違います。
ドイツで2011年に発表されたインダストリー4.0を見てみます。例えば、ドイツのメルセデスベンツは、製造発注先である、オーストリアの工場の製造状況を把握するために、進捗状況を連携させたものです。かつて日本では、同じ課題の解決にトヨタがカンバン方式を生み出し、主工場と外注先の進捗を連携させました。
このインダストリー4.0に必要な仕組みは、計画をする生産システムと、機械で実際にモノを作る製造システムの連結機能、そして、主工場と外注先の協力体制の構築です。ネットでつながれたコンピューターシステムにはセンサも含まれ、IoTや人間ではないものがインターネットを利用する仕組みも含まれます。
しかし、日本の各メーカーは、これらを視察し、センサ、ネットワーク、IoT機器を単品で売ろうとします。また、国もその路線で応援しています。どの視点も部品ビジネスで、かつて日本が先鞭をつけたトヨタカンバン方式に変わるビジネス構造を提案する企業はありません。
トヨタは日本の自動車産業最大の企業であり、研究、設計、開発、製造、販売、保守、全ての組織と人員が、内燃機関を前提とした教育と運用になっています。欧米市場に出ている電気自動車は、10年前までは日産リーフが圧倒的な強さを誇っていました(図2)。しかし、中国国内を除けば、現在その地位をテスラに譲っています。

中国国内は、当然、中国車の独壇場です。特に、中国国内の電動オートバイの普及率は100%に近く、日本はとても太刀打ちできません。世界の流れの中で、内燃機関が終わりを迎えようとしている中で、中国とアメリカが電気自動車という個別部品で、世界一を競っています。その充電設備において、数年前までトップだった日本のチャデモ(CHAdeMO)方式に陰りが見え始めています。アメリカではその採用を廃止する傾向にあり、ドイツでは対抗システムのCCS(Combined Charging System)に1位を奪われてしまいました。充電設備インフラはどうあるべきかと、法律や政治まで持ち出してくる各国で、部品だけで戦いを挑んだ結果といえるかもしれません。
筆者が2023年2月に行ったカリフォルニア州ロサンゼルスで、あちこちのショッピングセンターに、延々と並ぶテスラ専用の充電設備と、上流層の知人のほとんどがテスラに乗っているのを見て、日本の弱さを感じざるを得ませんでした。
他にもたくさんの例があるものの、今、世界のスマートシティビジネスで日本が苦戦している理由は、この部品単品ビジネスにあります。中国は一帯一路、ヨーロッパはかつての日本モデルをまねたコングロマリット方式、韓国は海外転勤による韓国ビジネス街の構築により、それぞれ強いチームを作り、ビジネスの上流設計やプロデュースビジネスを取りにいっています。そのようなビジネスが取れると、実装の工事や、施工、ショッピングセンター内の商業施設など、下流のビジネスもごっそり取ることができます。
日本の企業は、商社、デベロッパー、電鉄などが例外的にスマートシティプロデュースを取りにいき、善戦しています。しかし、日本がそもそも強い製造業やサービス業の各企業は、システム設計やプロデュースするのでは無く、相変わらず部品だけを販売するという発想のままです。今の日本の発想が、既に世界では強くないことを認識してもらいたいところです。
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3. 本当に日本が強く支持されている、哲学に基づいたシステムビジネス
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4. 具体的な提案へのヒント
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