破壊的イノベーションを起こすには:イノベーションの基礎知識6

イノベーションの基礎知識

更新日:2022年10月12日(初回投稿)
著者:関西学院大学 専門職大学院 経営戦略研究科 教授 玉田 俊平太

前回は、合理的に経営されている大企業は、それ故に破壊的イノベーションに対抗できないという、イノベーションのジレンマの原因について解説しました。最終回となる今回は、この性質を生かして、大企業が裸足(はだし)で逃げ出す破壊的新規事業を起こすにはどうしたらよいかを解説します。

1. 新規事業開発の4象限

ある企業にとって破壊的なイノベーションとは、その企業の既存顧客が重視する性能が低すぎるため、「そんなものはオモチャだ」と買ってもらえないような新製品や新サービスのことでした。そしてこの、ある企業とは、自社である場合も、ライバル企業である場合も考えられます。従って、新規事業のアイデアは、

  • 自社にとって破壊的か持続的か(自社の価値基準との適合度)
  • ライバル企業にとって破壊的か持続的か(他社の価値基準との適合度)

によって、2×2=4通りに分類できます(図1)。

図1:破壊的イノベーションの4通りの分類
図1:破壊的イノベーションの4通りの分類

2. 自社にとっては持続的だが他社にとっては破壊的なアイデアが最強

図1に示す4種類のイノベーションのうち、最優先で検討すべきは、左上の「自社にとっては持続的」かつ「他社にとっては破壊的」なアイデアです。こうしたアイデアであれば、自社の価値基準との適合性が高いため、社内での優先順位が高くなりやすく、また、経営資源を投入する意思決定も容易になります。さらに、それは他社から見ると、簡単には対処できない破壊的イノベーションの形をとっているのだから、まさに理想的です。

例えば、セイコーエプソンのビジネス向けインクジェット複合機がこれに当たります。同社は、以前からパソコン用のインクジェットプリンタを製造していました。インクジェット複合機は、このプリンタにコピーやスキャン、ファクス送受信などの機能を追加したもので、エプソンからすると持続的イノベーションの商品です。

しかしこれは、レーザプリンタをベースにした複合機を製造する富士フイルムビジネスイノベーション(以下、富士フイルム)などからは、どう見えるでしょうか。レーザプリンタの特徴である鮮明で速い印刷や、マーカがにじまない画質などを売りにしてきた富士フイルムからすると、インクジェットプリンタはそれらの性能が低いため、彼らの顧客からはオモチャだと受け入れられない商品かもしれません。

しかし近年、インクの改良やプリンタエンジンの性能向上により、印刷の速度や鮮明度、マーカを引いてもにじみにくいといったレーザ並みの特徴を持つインクジェット複合機の製造が可能になってきました。インクジェットプリンタは、消費電力や待機電力が低く、一枚当たりの印字コストやメンテナンスコストもレーザプリンタに比べるとはるかに安い、破壊的イノベーションです。また、エプソンが採用するピエゾ式のインクジェットプリンタは、熱を多く使うレーザ方式とは異なり、電圧を加えることで収縮するピエゾ素子の機械的な動きによってインクを紙に吹き付けます(図2)。そのため消費電力も低く、ゼロカーボンシティを宣言している長崎市に大量採用されています。

図2:熱を使わないエプソンのピエゾ方式インクジェットプリンタ(セイコーエプソン株式会社ウェブサイト)
図2:熱を使わないエプソンのピエゾ方式インクジェットプリンタ(セイコーエプソン株式会社ウェブサイト

しかし、富士フイルムなどからすると、自社の既存のレーザ複合機と競合するため、おいそれとはインクジェット方式の対抗製品を打ち出しにくいでしょう。つまり、インクジェット複合機は「自社(エプソン)にとっては持続的」であり、「他社(富士フイルム)にとっては破壊的」な、理想的アイデアなのです。

3. 自社にとって破壊的なイノベーションは新しい革袋(別組織)に!

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