なぜ大企業は破壊的イノベーションが起こせないか:イノベーションの基礎知識5

イノベーションの基礎知識

更新日:2022年9月20日(初回投稿)
著者:関西学院大学 専門職大学院 経営戦略研究科 教授 玉田 俊平太

前回は、破壊的イノベーションとは何かを解説しました。今回は、なぜ大企業は破壊的イノベーションが起こせないかについて解説します。

1. 大企業は合理的判断を繰り返すことで破壊される

破壊的イノベーションは、既存大企業から見ると、自社の主要顧客が重視する既存製品の性能が、少なくとも一時的には低下するタイプのイノベーションです。このため、破壊的イノベーションの製品やサービスは、既存大企業の顧客にとっては求める性能が不足しているので、「そんなのオモチャだ、私には必要ない」と言われてしまいます。

大企業には、合理的な意思決定プロセスが整備されています。まず、最も重要な顧客の声に注意深く耳を傾け、出されたアイデアの中から一番顧客の要望に応え満足させるものを選び出します。そして、資源を優先的に投入して、いち早く製品化していきます。この経営メカニズムにより、利潤を最大化することができます。そのため、より顧客満足を得られる性能向上(持続的イノベーション)のプロジェクトには、すぐにゴーサインが出され、十分な経営資源が投入されるため、持続的イノベーションの競争で負けることはまずありません。

しかし同時に、この合理的経営メカニズムがあるために、破壊的なアイデアは「誰に・いくらで・どの程度売れるか」が不確かだったり、低い利益率しか見込まれないため排除されてしまいます。そして合理的なメカニズムによって、より確実に短期間で利益が見込まれる持続的イノベーションのプロジェクトへと経営資源が振り分けられてしまうのです。他社の破壊的イノベーションから生まれた製品の性能が徐々に向上し、自社の主要顧客が求める性能に達したのに気付いてから、大急ぎでそこに参入しようとしても、既に手遅れになります。その時には、破壊的イノベーターに市場を奪われ、打ち負かされてしまうことがほとんどです。

2. 原因は非対称的なモチベーション

株式を上場している企業では、多くの場合、ROI(Return On Investment:投資収益率)などの経営目標を株主に対して示しています。企業は、この約束を守る立場にあります。従って、低い利益率しか見込まれない破壊的なアイデアに経営資源を割り当てることは、極めて困難といえます。つまり、企業が株主に対する約束を誠実に守ろうとすればするほど、利益率の高い上位市場には移行できる一方、利益率の低い下位市場を攻略することは困難になるのです。

この上がれるが、下がれないという状況は、企業のモチベーションが非対称であるからだといえます(図1)。アングロサクソン型の経営では、経営者は株主に雇われており、投資された資金に対するリターンを最大化するのが第一の使命です。そして、それができない経営者は、あっという間に解雇されてしまいます。

図1:敗因は大企業の非対称的なモチベーション(参考:クリステンセン著・玉田俊平太監修・櫻井祐子訳、イノベーションへの解、翔泳社、P.45)を基に筆者加筆
図1:敗因は大企業の非対称的なモチベーション(参考:クリステンセン著・玉田俊平太監修・櫻井祐子訳、イノベーションへの解、翔泳社、P.45)を基に筆者加筆

このような状況で、下位市場からコストパフォーマンスのよい破壊的な製品が攻めてきた場合、合理的な経営者は不採算部門から撤退し、より利益率の高い上位市場へと移行するでしょう。そして、技術が進歩して、当初はオモチャのようだった製品の性能が向上し、さらに上の市場に攻めて来た場合、その市場も既存大企業にとっては不採算となるため、さらに上位市場へと移行するのが合理的経営です。

こうして、既存大企業は、合理的な経営判断を繰り返しただけなのに、気付いたときには最上位市場に追い込まれ、行き場を失って破壊されてしまうという現象が起きるのです。

3. 顧客の需要の上昇速度と技術進歩の速度差が破壊を生む

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