多くの企業が目指すイノベーション:イノベーションの基礎知識1

イノベーションの基礎知識

更新日:2022年5月27日(初回投稿)
著者:関西学院大学 専門職大学院 経営戦略研究科長 玉田 俊平太

バリュー・フロム・イノベーション(富士フイルム)、イノベーション・バイ・ケミストリー(東レ)など、イノベーションを企業の目標に掲げている会社が多く見られます。これは、なぜでしょう? イノベーションは、技術革新や新結合であるといわれたり、新しい技術の発明(インベンション)と誤認されたりするケースがあるようです。実際には、イノベーションとはどういったものをいうのでしょうか? また、イノベーションとは、どのようなタイプに分けられるのでしょうか? 本連載では、全6回にわたりイノベーションの基礎知識について解説します。

1. イノベーションは何のため?

企業がイノベーションを目指すのは、それによって競争力が得られるからであり、また、環境の変化に適応できるようになるためです(図1)。競争力には、差別化によるものと、コスト・リーダーシップによるものの2つがあります。イノベーションは、これら両方の競争力の向上に寄与するため、多くの企業が目指す目標となっています。

図1:イノベーションの企業にとっての意義

図1:イノベーションの企業にとっての意義

近年のビジネス環境は、変動が激しく(Volatility)、不確実(Uncertainty)かつ複雑(Complexity)で、行き先を決めることができない(Ambiguity)ものとなっています。こうした状況は、それぞれの頭文字をとってVUCAという言葉で表されます。そのような外部環境に適応するためにも、企業がイノベーションを次々と生み出す能力が、今こそ必要不可欠です。

2. イノベーションの意味と種類

さて、多くの企業が目指すイノベーションの意味について考えてみましょう。語源からの意味は、in(中に)+ nova(新しくする)+ ation(こと)と分解でき、「何かを新しくすること」となります。イノベーションの代表的なものには、プロダクト・イノベーションとビジネス・プロセス・イノベーションがあります。

プロダクト・イノベーションとは、製品やサービス(=プロダクト)を新しくすることをいいます。この場合、新しいプロダクトを取り入れるのは顧客になります。新しいプロダクトは、それまでにない新しい特徴を持つことで、差別化を通じた企業競争力の向上に役立ちます。

ビジネス・プロセス・イノベーションとは、企業のビジネス・プロセスを新しくすることをいいます。新しいものを取り入れるのは自社の内部になります。新しいビジネス・プロセスの導入により生産性が向上すれば、コストが下がるため企業のコスト競争力が向上します。

3. インベンション(発明)とイノベーションとの違い

イノベーションとよく似た言葉に、インベンション(発明)があります。例えば、あなたが人工知能(AI)技術を基に、あるサービスのアイデアを考えついたとしましょう。そのアイデアが、他者が容易に考案できないほど新しいものであり、技術的に実現可能であれば、そのアイデア(インベンション)を書面にして特許庁に出願することで、特許を取得できるでしょう。しかし、特許を取ったアイデアだからといって、そのアイデアを盛り込んだサービスが必ずしも顧客に取り入れられ、ビジネス的に成功するという保証はありません。

E.マンスフィールドが行ったアメリカ大企業のケーススタディによれば、調査したプロジェクトにおいて、新しく産み出されたアイデアが技術的に成功した確率は80%あったものの、それらのアイデアが顧客に取り入れられて商業的にも成功した確率は、技術的に成功したアイデアのうちのわずか20%に過ぎなかったそうです(参考文献:Mansfield, E., J. Rapporport, J. Schnee, S. Wagner and M. Hamburger Research and Innovation in the Modern Corporation, Macmillan, London, 1972)。つまり、技術のハードル(勝率8割)より顧客のハードル(勝率2割)の方が高かったということです(図2)。

図2:イノベーション実現のハードル

図2:イノベーション実現のハードル

4. イノベーションとは「創新普及」

イギリスのイノベーション研究者キース・パビットは、イノベーションとは、技術や顧客の変化などの「機会を新しいアイデアへと変換し、それを広く普及させるようにするプロセス」だと述べています(参考文献:キース・パビット、ジョー・ティッド、ジョン・ベサント、イノベーションの経営学、NTT出版、2004年、P.49、下線は筆者補足)。つまり、あるプロダクトやプロセスのアイデア(=インベンション)は、商業的に成功し、顧客(=市場)に広く受け入れられて、初めてイノベーションと呼び得るのです。

大学の先生やエンジニアの中には、あるアイデアが技術的にうまくいき、特許が取れた時点で、もう商業的な成功をも約束されたかのように思ってしまうこともあるようです。しかし、前述のマンスフィールドの調査からも分かるように、アイデアの技術的な成功は、実はゴールではなくスタートに過ぎません。筆者は、こうしたイノベーションの意味を日本語に訳す場合、従来の「技術革新」や「新結合」では誤解を招きかねず、不適切だと考えています。イノベーションとは、新しい製品やサービス(創新)を、顧客や社内に広く普及させることであるので、「創新普及」と訳すのが適切なのではないかと提唱しており、多方面からの賛同をいただいています。

いかがでしたか? 今回は、多くの企業が目指すイノベーションについて、その目的、意味、種別と本質について解説しました。次回は、企業の競争力とイノベーションとの関係について取り上げます。お楽しみに!

参考文献 玉田俊平太、日本のイノベーションのジレンマ第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ、翔泳社、2020年