水素エネルギーの使われ方:水素エネルギーの基礎知識2

水素エネルギーの基礎知識

更新日:2023年4月28日(初回投稿)
著者:一般社団法人 水素エネルギー協会 顧問 西宮 伸幸

前回は、水の電気分解による水素の生成や、グリーン水素を紹介しました。エネルギーの生産地で作られた水素は、地産地消されることもあれば、遠隔地まで配送されて使われることもあります。また、作られたときからそれほど間を置かずに使われることもあれば、水素の形でしばらく貯蔵されてから使われることもあります。今、最も代表的なのは、燃料電池としての使われ方です。将来的には水素発電という大規模用途に向かうでしょう。今回は、燃料電池や水素発電、ニッケル水素電池など、身の回りの水素の使われ方を解説します。

1. 燃料電池のいろいろ

水素ガスは、空気中の酸素と反応して水になります。この反応を勝手に行わせるのではなく、水素ガスを強制的にプロトン(H+)と電子(e)に変えてから行わせるのが燃料電池です。

燃料電池では、図1のように、膜を挟んだ電極上で、水素はプロトンと電子に分かれます。プロトンは膜を通り抜け、電子は遠回りして、右側の電極に到達します。そこに酸素が供給されると、プロトンと電子と酸素が反応して水になります。電子が外付けの回路を通って流れるということは、電流が流れた、発電ができたということを意味します。燃料電池は、「電池」と呼ばれるものの、発電機なのです。

図1:燃料電池の発電原理(固体高分子形、リン酸形)
図1:燃料電池の発電原理(固体高分子形、リン酸形)

膜は高分子でできており、PEM(Polymer Electrolyte Membrane)と呼ばれています。この固体高分子形燃料電池は、家庭用燃料電池エネファームや、燃料電池自動車などで広く使われています。歴史的には、リン酸が作る液膜にプロトン透過機能を持たせた燃料電池が先行していました。いわゆる、リン酸形燃料電池です。

図2、および図3では、プロトンの代わりに、酸化物イオン(O2-)や炭酸イオン(CO32-)が膜を透過します。逆側の電極で水素が待ち構えていて、最終的には水を生成します。電子が遠回りして発電するのは図1と同じです。ただし、プロトンなら100℃以下で膜を透過できるのに対して、サイズの大きいイオンの場合は、膜を数百℃に加熱しておく必要があります。

図2:燃料電池の発電原理(固体酸化物形)
図2:燃料電池の発電原理(固体酸化物形)
図3:燃料電池の発電原理(溶融炭酸塩形)
図3:燃料電池の発電原理(溶融炭酸塩形)

固体酸化物形燃料電池には、電力への変換効率が高いという特長があり、市場は成長中です。溶融炭酸塩形は、水とともに生成する二酸化炭素を元の電極に戻す手間がかかるものの、大規模な発電には適しています。

2. 水素発電という大規模用途

2017年3月、アメリカのFuelCell Energy社、および韓国のPOSCO Energy社は、2万kWの溶融炭酸塩形燃料電池をソウル近郊で運転開始しました。エネファームは1kW、ないし750Wのため、これと比較するとかなり大規模です。

他方、水素の燃焼によるガスタービン発電も、社会実装に向かっています。NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)事業において、大林組と川崎重工業は、神戸市ポートアイランドで、水素燃料100%のガスタービン発電による熱電供給を、世界で初めて達成しました。ただし、開始時の規模はそれほど大きくなく、2018年4月のNEDOのニュースリリースには、電力供給1,100kWと記されています。なお、このときの熱の供給は、2,800kW相当と報告されています。その後、この形式の水素発電は世界的な広がりを見せ、大規模化も進んでいます。

まず、大きな注目を集めているのが、オランダのMagnum社による、天然ガス火力を水素だきに転換するプロジェクトです。三菱パワー株式会社が提供するガスタービンを用いて、2025年に水素専焼運転が開始される計画で、出力は4万4千kWです。もう一つの進行中のプロジェクトは、これも同社のガスタービンを用いるもので、アメリカユタ州政府による、84万kWの先進的クリーンエネルギー貯蔵(Advanced Clean Energy Storage)事業です。2025年までに、水素30%混焼、2045年までに水素専焼とされており、水素を岩塩空洞に閉じ込めて貯蔵する取り組みが並行して実施されます。

水素の燃焼によるガスタービン発電は、2017年12月に関係閣僚会議で決定された「水素基本戦略」に明記されており、2030年に水素量30万t、水素コスト30円/Nm3(Nは標準状態(0℃、100kPa)での値という意味)という目標値を達成するのに必須のものと考えられています。水素消費量30万tは、発電容量100万kW(ほぼ原発1基分)に当たります。その後、2020年10月の菅首相(当時)のカーボンニュートラル宣言を契機に、2030年の水素量の目標値は300万tに上方修正されています。大規模化を志向する動きは、今も続いています。

3. ニッケル水素電池も水素エネルギー

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