人間中心設計とユーザインタフェース:ヒューマンインタフェースの基礎知識1

ヒューマンインタフェースの基礎知識

更新日:2022年3月15日(初回投稿)
著者:東京農工大学 名誉教授 北原 義典

私たちは日頃、テレビやスマートフォン、洗濯機や車など、さまざまな製品に囲まれて生活しています。こういった機器やシステムでは仕様の標準化も進み、性能も製造会社間でほぼ同程度の水準に達している場合が多くなっています。そうなると、製造者側は他社製品との差別化要因として、開発の重心を外観デザインやユーザビリティ(使い勝手)に移すことになります。本連載では、このユーザビリティに焦点を当て、解説します。第1回は、ヒューマンインタフェースの概念と、人間中心設計の重要性について紹介します。

1. 人間中心設計の重要性

人間中心設計とは、人間(ユーザー)を中心としたものづくりのことをいいます。あるオイルヒータの操作パネルにおける設計性と、メンタルモデルの概念から人間中心設計の重要性を説明します。

1:あるオイルヒータの操作パネルにおける設計性

地球温暖化が進んでいるとはいえ、冬はまだまだ厳しい寒さです。最近は、火を使わず優しく温まるオイルヒータが人気です。図1は、あるオイルヒータ製品の操作パネルと、その温度設定部分とタイマ設定部分の拡大写真を示します。

図1:オイルヒータの操作パネル

図1:オイルヒータの操作パネル

まず右上の温度設定を見て、温度設定の手順がすぐに分かるでしょうか? IおよびIIのスイッチが、どうやらそれぞれMIN(Minimum:最小)とMED(Medium:中)に対応していて、どちらかをONにすればMINやMEDの温度になり、両方ONにすればMAX(Maximum:最大)に設定できそうなことが分かります。

では、どのようにONにするのか? 両スイッチとも右側にランプがあるので、右側に倒せばONになりそうです。ところが、スイッチのさらに右側には数字の「0」の表記があります。これは「〇(まる)」には見えないので、「0」と「1」の「0」だと推測されます。しかし、左側に「1」の表記がないため、悩んでしまいます。実際には、左に倒すとONになるのです。「1」「0」という表記は、いかにも設計者の発想です。一般の使用者には「ON」と「OFF」の方が、直感的に分かりやすく親和性があります。このヒータでは、この部分を「電力切り替えスイッチ」と呼び、温度設定部分の上にあるサーモスタットつまみとの連動で暖かさを決めます。この連動の関係が、使用者には分かりにくくなっています。

さらに、タイマ設定の操作方法は分かるでしょうか? 上・中・下スライダ式の運転セレクトピンと、大きなリング状に並ぶ赤いピンから構成されています。他の器具のタイマ設定と同じように、まず時刻を設定し、タイマセットするという手順であるものの、その操作方法はマニュアルをよく読まない限りすぐには分かりません。手順は、まずセレクトピンを時計マークに合わせ、▲マークにダイヤルで現在時刻を合わせます。それが終わったら、ONにする時間やOFFにする時間を設定する、という流れです。

そこで、まずセレクトピンを時計のマークに合わせるため、一番下にスライドさせます。ところが、「一番下は時計マークではない」ことが、マニュアルに書かれています。よく見ると、実は時計マークからラインが出ていて、スライダの中央部を指しています。つまり、このつまみスイッチは、上が「0」で下が「1」、中央が「時計」なのです。昨今、マニュアルレスが叫ばれているにもかかわらず、まるでルーペを使うように表示の細かいところを見て、さらにマニュアルを詳細に読まないと、このタイマ設定は使えないのです。

作る側の論理では、きちんとマークの先を見てくださいよ、といわんばかりの表示になっていても、人間には近接した表示を仲間だと認識する特性があるので、使う側は引き出し線の先にまではなかなか視線が届きません。そして、ONにする時間やOFFにする時間を設定する段になると、赤いリング状に並ぶピンがなんと96個もあり、しかも非常に小さいので指が太いと扱いが難しいのです。

設計の段階で、人間の特性を考慮したり、使用者にプロトタイプ(試作品)を使わせ観察したり意見を求めたりすることで改良を行えば、もう少しユーザビリティが向上したのではないかと思われる残念な製品です。言い換えれば、使用者の視点からの設計が十分でないということです。他にも、あるソフトウェアの「キャンセルしますか?」の確認ボタンが「OK」と「キャンセル」だったり、自動改札機の残金表示の位置が使用者の視線の先になかったりなど、どう考えてもユーザーの視点に立って設計されたとは思えない例が身の周りに散見されます(参考:中村聡史、失敗から学ぶユーザインタフェース、技術評論社、2015)。

2:メンタルモデルの概念

メンタルモデルとは、人間が無自覚のうちに持っている思い込みや価値観のことをいいます。皆さんは、おそらく私のことを知らないと思います。従って、私がどういう人間か分からず、何か問い合わせをしても答えてくれるか分からない、いや、下手に質問したら怒り出すのではないかなど、さまざまに考えるでしょう。これは、私という人間の人物像が、皆さんの頭の中に出来上がっていない状態と考えられます。このように、頭の中に作られる像がメンタルモデルです。

一般に、初対面の者同士では、お互いに相手のメンタルモデルが構築されていない状態といえます。このため、相手が何に興味があるのか、どんな話をすれば喜ぶのか、どんな話を嫌がるのかなど、さっぱり分からないのです。しかし、対話をしたり、その人の言動や行動を観察したりすることにより、例えば「この人は既婚者で子供が2人いる。ゴルフが大好きで、日ごろは子煩悩である。性格は温厚で、キレることはまずない」など、徐々に相手に対するメンタルモデルが構築されていきます。メンタルモデルができてくると、この人にはこう言えばこう反応するといったことが分かってきます。そして、安心感や親しみが湧いてきます。逆に、メンタルモデルが作りにくい相手だと「なかなかつかめないやりにくい人だ」ということになってしまいます。

このメンタルモデルの概念は、人間の場合だけでなく、機器やシステム、ソフトウェアにおいても使われます。購入したばかりのスマートフォンは、どこをどうすれば写真が撮れるのか、どうすれば撮った写真を見たりそれを消去できたりするのかなどが、すぐには分かりません。しかし、説明書を読んだり使ったりしていくうちに、ユーザーの頭の中にスマートフォンのメンタルモデルが構築されていき、これらの操作ができるようになります。使い勝手のよい機器やソフトウェアであれば、メンタルモデルが早く容易に構築され、逆に、メンタルモデルが構築されにくいものであれば、ユーザビリティが悪い製品だということになります。一般に、設計者が開発製品に対して抱くメンタルモデルと、ユーザーがその製品に対して抱くメンタルモデルとが近ければ近いほど、その製品はユーザーに受け入れられやすくなるといえます。要するに、設計者がユーザー側の視点に立ち、ユーザーのメンタルモデルに類推して製品設計することが、極めて重要な製造姿勢であるということです。

2. ユーザインタフェースと設計原則

ヒューマンインタフェースという言葉は、非常に幅広い概念を持っています。似た言葉に「ユーザインタフェース」や「マンマシンインタフェース」があります。ここで、これらの語を整理しておきましょう。

人間と人間がコミュニケーションを行う状況を考えます。このような状況に関しての問題を議論する学問は、主に人間単体を扱う心理学と、対人関係や集団の心理を扱う社会心理学です。現代のように、人間と人間のコミュニケーションに、道具としての機器やソフトウェアが介在する場合の問題を検討するためには、工学の立場からさまざまな要素を考える必要が出てきます。これが、学問分野としてのヒューマンインタフェースといっていいでしょう。ヒューマンインタフェースとは、ユーザインタフェース、ヒューマンコミュニケーション、作業環境の3つの概念の総称です(図2)。

図2:ヒューマンインタフェースの定義

図2:ヒューマンインタフェースの定義

・ユーザインタフェース

人間と機器やソフトウェア間の接点を扱う。マンマシンインタフェースとも呼ばれる。また、狭義のヒューマンインタフェースとされることもある。

・ヒューマンコミュニケーション

スマートフォンやパソコンなど機器を介した人間と人間のつながりを扱う。

・作業環境

人間の作業する環境を扱う。

本連載では主に、このユーザインタフェース、すなわち人間と機器やソフトウェアとの間の接点に焦点を当てて話を進めます。

ユーザインタフェースは、ユーザーが別のユーザーとコミュニケーションをとるという状況でなくても存在します。例えば、洗濯機など家電品の操作パネル、テレビのリモコン、ATMの端末画面などがそれです。ここでは、特にATMや情報端末など、ユーザーと装置・ソフトウェアがやり取りをしながらタスクを行う、インタラクティブ性を持つユーザインタフェース(以下UI)を考えていきます。

インタラクティブ性を持つUIについて、メリーランド大(アメリカ)のベン・シュナイダーマンが、30年ほど前に提唱した設計原則が知られています(参考:B.シュナイダーマン著、東基衛・井関治監訳、ユーザインタフェースの設計、日経マグロウヒル社、1987)。例えば、「用語や位置などに一貫性を持たせよ」、「熟練ユーザーには近道を用意せよ」といった8つの原則です。その他にもさまざまな人が設計原則を唱えており、これらにおいて以下の項目の登場頻度が高くなっています。

  • 一貫性を持たせよ
  • 近道を用意せよ
  • エラー処理を単純化せよ
  • 逆操作(Undo)を許すようにせよ
  • 短期記憶の負担を軽減せよ
  • マニュアルレスで使えるようにせよ

多くのUI研究者が共通して指摘するこういった事項は、大切なUI設計ポイントといっていいでしょう。

3. ユーザエクスペリエンス

昨今、UIの上位概念としてユーザエクスペリエンスの重要性が叫ばれています。ユーザエクスペリエンスとは、単にユーザビリティの高い機器や作業効率の高い製品・サービスを提供するだけでなく、ユーザーに満足感や快適、感動なども含む価値ある体験をもたらすことが重要であるという姿勢です。従って、ユーザエクスペリエンスの概念は、システムと人間の接点ともいえるUIの概念を包含するものです。

UIの研究では、使いやすさや効率性の向上に焦点を当て、画面デザインやキーのタッチ感、出力音声の聞きやすさなどの項目を取りあげて検討します。言い換えれば、物理的価値の提供を目的とした検討です。これに対して、ユーザエクスペリエンスは、使いやすさや効率の良さのみにとどまらず、製品やソフトウェア、さらにはサービスまでを含め、ユーザーを満足させ感動させる体験・経験を提供しようというもので、感性的価値をも提供するところまで検討すべきだという考え方です。

例えば、e-ラーニングのウェブサイトを考えてみましょう(図3)。e-ラーニングは、単に使いやすいとか処理が速いというだけでは、ユーザーが満足しません。

図3:e-ラーニングのウェブサイトにおけるユーザエクペリエンス設計

図3:e-ラーニングのウェブサイトにおけるユーザエクペリエンス設計

学習という使命を考えると、以下のようなユーザーの行動につながるような設計も、学習効率向上には必要になります。

  • 達成感が得られる、
  • モチベーションが上がる、
  • 長続きする、
  • 気軽に取り組める

そのために、例えば以下のような具現化方法が考えられます。

  • 学習の進行度が分かるように、バー表示や円グラフ表示をする
  • モチベーションを上げるために、学習成績の記録を表示する
  • 長続きするように、遊園地メタファ(メタファは身近なものに例えるインタフェース)を導入したりキャラクタを起用したりする など

こういった工夫によって、ユーザーに対し、例えば以下のような満足度の高い体験を提供できるようになります。

  • 使って良かった
  • 学習が進んだ
  • 成績が伸びた
  • 面白かった など

ユーザエクスペリエンス設計の基本は、人間の知覚・認知・感覚特性のみならず、記憶・学習特性や、欲求・情動など、ユーザーの深層特性をも考慮した検討を行うことです。また、製品やサービスをユーザーがどう使うのか、使った結果どういう変化をもたらすのか、どういう反応を示すのかなども、仕様にフィードバックさせることが大切です。そのために、製品やプロトタイプを使用させるなどして、ユーザーを積極的に関与させることが重要になってきます。

いかがでしたか? 今回は、ヒューマンインタフェースの概念と、人間中心設計の重要性について紹介しました。次回は、ヒューマンエラーと、その予防および対処法を取り上げて解説します。お楽しみに!

参考文献
北原義典、イラストで学ぶヒューマンインタフェース 改訂第2版、講談社、2019