ライフサイクルとファシリティマネジメント:病院建築の基礎知識5

病院建築の基礎知識

更新日:2022年10月5日
著者:東京大学名誉教授 工学院大学名誉教授 一般財団法人ハピネス財団理事長 長澤 泰

前回は、病院の各部門計画について紹介しました。今回は、病院全体のライフサイクルと経営管理を、建物との関係を踏まえて解説します。

1. 病院建築のライフサイクル

建物の建築を発案してから、最終的に取り壊されるまでのサイクルは、次の8段階に分けることができます(図1)。

  1. 1:企画・計画
  2. 2:設計
  3. 3:申請
  4. 4:発注
  5. 5:施工
  6. 6:竣工検査・調整
  7. 7:使用・保守
  8. 8:解体・廃棄・再利用

こうした、建築物の一生に費やされる費用をライフサイクル・コスト(LCC:Life Cycle Cost)と呼びます。さらに、1と2をまとめて設計段階、3・4・5・6を施工段階、7を使用段階、8を廃棄段階としてくくることができます。

図1:LCCの分類
図1:LCCの分類

では、各段階において、どれほどのコストかかるのでしょうか? オフィスビルと病院を例に説明します(図2)。

延べ床面積が約6,000m2のオフィスビルの、実質的な耐用年数を50年として概算すると、設計段階は全体の0.5%、施工段階は24%、使用段階は75%、廃棄段階は0.5%となります。このように、使用段階でのコストが最も大きな割合を占めます。

病院の場合には、設計段階は全体の0.5%、施工段階は19%、使用段階は80%、廃棄段階は0.5%となり、使用段階の割合がさらに増加します。従って、病院建築は建物の設計段階から、ライフサイクル・コストを念頭において進めることが大切です。つまり、設計段階や施工段階で費用を削減しても、使用段階の費用がかさむようでは、意味がないということです。

図2:オフィスビルと病院のLCCの比較(オフィスビルは延べ床面積が約6,000m<sup>2</sup>の、実質的な耐用年数を50年として概算)
図2:オフィスビルと病院のLCCの比較(オフィスビルは延べ床面積が約6,000m2の、実質的な耐用年数を50年として概算)

建築物は、一般工業製品と異なり、ひとたび建てられると数10年使用が続きます。このことから、建築物はストック型製品と呼ばれます。ちなみに、一般工業製品はフロー型製品です。病院は、使用を開始すると1日24時間、365日継続的に使われ、空調・照明などに大量のエネルギーを消費します。建築費と設備費との比率は、一般の建物では7:3ないしは6:4である一方、病院建築の場合には5:5あるいは4:6と設備費の占める割合が高く、ランニングコストも設備維持費の割合が大きくなります。

図3は、500床の病院の事例における、建物維持保全費と設備費の内訳です。建物維持保全費では、70%が清掃、20%が洗濯、10%が廃棄物処理であり、設備費では25%が給排水、30%が空調、20%が昇降機、15%が消防機器、その他電気・ガス設備が10%を占めます。従って、ランニングコストを低減するための設備設計が重要になってきます。

図3:500床の病院における建物維持保全費と設備費の内訳
図3:500床の病院における建物維持保全費と設備費の内訳

2. 病院のファシリティマネジメント

施設管理は、単に建物や設備の管理(ビルディング・メンテナンス)だけではなく、ハードとソフトを合わせたファシリティマネジメント(FM:Facility Management)の視点が必要です。この考え方は、1979年にアメリカで設立されたファシリティマネジメント研究所(FMI:Facility Management Institute)で確立されました。FMは、人間(People)、場所(Place)、運用(Process)の3Pを活用した総合戦略であり、「企業、団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」と定義づけられています(参考:FM推進連絡協議会編、公式ガイド ファシリティマネジメント、日本経済新聞出版社、2018、P.2)。また、土地・建物・設備・機器・家具・インテリア・什(じゅう)器備品など、環境全体のライフサイクルに関与します。それらを実施できる人材を、ファシリティマネジャー(FMr:Facility Manager)と呼びます。

FM業務には、エンジニア・建築家・心理学者・グラフィックデザイナ-・事務職など、学際・業際的な人材が関与します。近年、組織の周辺でのさまざまな変化に対してリスクを避け、常に政策の変更を必要とする時代となり、多くの企業がFMの重要性を認識して、この概念を導入しました。実際には、FM戦略・計画-プロジェクト管理・運営維持-評価-改善(PDCA:Plan-Do-Check-Act)のサイクルを回し、業務の改善を図る手法を採っています(参考:FM推進連絡協議会編、公式ガイド ファシリティマネジメント、日本経済新聞出版社、2018、P.5)。この背景には、常に資産管理の現状を把握できるBIM(Building Information Modeling)の活用が存在しています。

ヨーロッパやアメリカでは病院のファシリティマネジャーは副院長格であり、病院全体の運営、機能の点検、将来の需要予測と計画立案など、重要な役割を担います。つまり、病院ではサービス提供者からの視点ではなく、病院の顧客、すなわち患者の視点からの戦略が必要で、日本ではまだこの視点が欠けているのが現状です。

一般社団法人日本医療福祉設備協会(HEAJ)では、病院の維持管理を専門に行うホスピタルエンジニアの資格制度を持っています。また、公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)では、ファシリティマネジャーの資格試験を実施しており、合格者はCFMJ(Certified Facility Manager of Japan=認定ファシリティマネジャー)の資格を得ます。さらに、JFMAは毎年優れたFM実践の事例を顕彰しています。2021年には、図4に示す聖路加国際病院・聖路加国際大学が、最優秀ファシリティマネジメント大賞2021(鵜澤賞)を獲得しました。

図4:中央区明石町にある聖路加国際病院と大学の建物全景(引用:公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会、第15回日本ファシリティマネジメント大賞 JFMA賞2021事例集、P.5)
図4:中央区明石町にある聖路加国際病院と大学の建物全景(引用:公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会、第15回日本ファシリティマネジメント大賞 JFMA賞2021事例集、P.5

この事例では、FM活動による定量効果が示されています(図5)。

図5:FM活動による定量効果(引用:公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会、第15回日本ファシリティマネジメント大賞 JFMA賞2021事例集、P.5)
図5:FM活動による定量効果(引用:公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会、第15回日本ファシリティマネジメント大賞 JFMA賞2021事例集、P.5

3. マネジメントシステム規格

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