病院の地域施設計画:病院建築の基礎知識2

病院建築の基礎知識

更新日:2022年4月13日(初回投稿)
著者:東京大学名誉教授、工学院大学名誉教授、一般財団法人ハピネス財団理事長 長澤 泰

前回は、病院の建築と設備の特徴、さらにその根底にあるユニバーサルデザインについて解説しました。どの地域に住んでいても、安心して質の高い医療を受けられるようにするには、どのような医療機能の病院を、どこに、どのくらいの規模で建設すべきか計画する必要があります。今回は、病院の地域施設計画を説明します。

1. 機能計画

病院を新築する際には、まず建設の目的や意図、すなわち「どのような診療を誰に対して行うか」を明確にする必要があります。次に、周辺の他病院のサービス内容など現状分析に基づいた的確な要求機能を策定し、その地域の住民に対しての医療機能は満足な状況であるかどうかを調べ、経営事業の計画を行います。既存の建て替えの場合には、現病院の診療状況、建て替え後の各部門の要望に応じて機能計画の見直しを図り、その上で採算計画を立てます。

医療サービスを提供する施設には、病院と診療所があります。日本では、20以上の入院用ベッド(病床)を持つ施設は病院、病床を持たないか19床以下の施設は診療所と定義されています(医療法 第1章、第1条の5)。海外先進国では、一般に病院を入院用、診療所を外来用と明確に決めています。

イギリスの国営医療制度は、「揺り籠から墓場まで」という有名な言葉のとおり、地域にある各種医療や福祉施設が連携を保って、必要な医療・福祉サービスを提供する仕組みを持っています。これを、包括医療(Comprehensive Medical Service)と呼びます。

日本では、1961年に国民皆保険制度が導入され、保険証の提示により全国どこでも、ほとんどの病院で診療が受けられるようになりました。日本でも、かつては診療所と病院で、通院と入院を大まかに分担していました。しかし、昨今では自由診療を背景に、大病院の外来にも患者が集中する傾向があります。診療費の自己負担率は次第に増加の傾向にあるものの、病院への近接性(アクセシビリティ)の高さは、依然として世界に誇るレベルです。このように、病院の地域医療計画を考える時には、提供した診療技術に基づいた診療費の支払制度に大きく影響を受けることを知っておく必要があります。

また、COVID-19の蔓延(まんえん)により、日本の地域医療計画のぜい弱さが露呈されました。今後は、健康の保持や増進、病気の予防、健康回復のリハビリテーションや家庭での介護、社会や職場への復帰といった目的に応じた多様な施設サービスを整備し展開することが期待されます。また、地域包括ケアが確立されていく中で、重傷(症)者の救命という明確な役割を病院が担うべく機能計画を練る必要があります。

2. 規模計画

一般に、規模計画には、個数規模と面積規模の2つあります。

・個数規模

トイレの規模を便器数で、劇場の規模を客席数で示すように、病院では病床数が基本的な規模の指標となります。一般に、病床数の増加に伴って診療機能の水準も向上します。病院の規模計画には、外来患者数や手術件数など、いくつかの重要な指標があります。また諸指標には相互の関係が見られます(図1)。 第1段階の指標(I)には、地域人口(P)、新入院患者数(N)、ベッド数(B)、延床面積(A)、建設費(C)があります。 第2段階の指標(II)には、地域の単位人口当たりの新入院患者数(N/P)、新入院患者数当たりのベッド数(B/N)、ベッド数当たりの延床面積(A/B)、延床面積当たりの建設費(C/A)が挙げられます。第3段階(III)では、単位人口当たりのベッド数(B/P)とベッド当たりの建設費(C/B)になります。この段階までの表の左側は地域(施設)計画に関する指標で、右側は単体(施設)計画に関する指標です。そして、第4段階(IV)では、単位人口当たりの建設費(C/P)になります。このように第1段階の諸指標を知ることで、計画する地域や施設の第2段階や第3段階の指標を相互に比較することができます。第4段階の指標になると、例えば国際的な病院サービス指標の比較が可能になります。

図1:規模計画における諸指標の関係

図1:規模計画における諸指標の関係(引用:長澤泰・在塚礼子・西出和彦、建築計画 改定版、市ヶ谷出版社、2011年9月、P.119)

必要病床数(B)の算定は、新入院患者数(N)と平均入院期間(L)を乗じたものを、平均病床利用率(u)で除して得られます。Nは地域ごとに一定の割合で発生し、uは各病院が100%(満床)に近づけようと努力するので、N/uは、いわゆる定数(a)と見なせます。つまり、必要病床数(B)は平均入院期間(L)にほぼ正比例することになります。ですから平均入院期間を半分に短縮すれば、必要病床数は半分でよいことになります。このことは、国際的にも昔から明確な事実でありながら、日本では採算の観点からできるだけ空きベッドを作らないということで占床率が重視されてきました。しかし、最近では診療報酬制度が変更され、早く退院させることが経済的に有利であることになって、平均入院期間の短縮が真剣に論じられるようになっています。

・面積規模

建築の床面積(平米)や体積(立米)を指標として規模を表すもので、病院の場合には一床当たりの平米数を用います。最近では、急性期病院(急性疾患または重症患者の治療を24時間体制で行なう病院)では一病床当たり80~90平米くらいの延べ床面積の例が多くなりました。この値は年々増加が予想されます(図2)。ちなみに、アメリカでは一病床当たり120平米の病院もよく見受けられます。

図2:1床当たり延べ床面積の推移

図2:1床当たり延べ床面積の推移(引用:長澤泰・在塚礼子・西出和彦、建築計画 改定版、市ヶ谷出版社、2011年9月、P.119)

病院全体を構成する病棟・外来・診療・供給・管理の5部門での床面積構成比は、過去の類似事例の統計値から得ています。計画や設計の初期段階で病床当たりの延べ床面積を推定し、それを各部門当たりに割り振ることで、全体の面積配分の概要を想定することができます。ドイツでは、体積(立米)による規模表現が一般的です。これにより、階高(ある階の床面から直上階の床面までの寸法)を含めたボリュームスタディができます。なお、日本では主に建設費削減のために階高を切り詰めた建設が多く、将来の改修時に支障が出る結果になっています。

3. 立地計画

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