病院建築・設備の特徴:病院建築の基礎知識1

病院建築の基礎知識

更新日:2022年3月10日(初回投稿)
著者:東京大学名誉教授、工学院大学名誉教授、一般財団法人ハピネス財団理事長 長澤 泰

COVID-19は、いまだ終息が見えない状況が続いています。今回のコロナ禍の自粛生活で、今後の社会が変わることを実感しました。一昨年、それを英文でまとめて発表しました(参考:Nagasawa Y(2020)Japanese Healthcare Facilities in the Post COVID-19 Society. J Archit Eng Tech. 9.231. DOI:10.35248/2168-9717.20.09.231)。また、それ以前にも2050年の病院はどうなるかという課題について、日本建築学会の英文レビュー誌に、これまでの病院建築計画学の研究回顧録をまとめています(参考:Nagasawa Y. Global Hospitals in 2050-A review of the historical development of hospital building studies from global perspective. Japan Archit Review. 2019;3(1):5-24, DOI:10.1002/2475-8876,12131)。本連載では、以上の論文を下敷きに、病院建築の基礎知識として病院建築の特徴や計画の手法、歴史的変遷、コロナ禍の中とその後の新しい病院建築などについて概観します。第1回では、病院建築・設備の特徴を解説します。

1. 病院建築の特徴

一般建築に比べ、病院建築は難しい解決策を要求される建物です。なぜなら、日進月歩する医療技術・医療機器への対応が常に必要であり、効率的な病院運営のために人の動線やさまざまな物品の搬送システムの工夫が求められます。このため、高度な設備技術に依存した室内環境を実現し、積極的に情報システムを導入します。さらに、防災や感染防止など、心身共に弱っている患者への安全確保は必須です。また、活動時間帯が異なる部門を、適切に計画しなければなりません。図1は、こういった病院の建築、設備の複雑さを解決した足利赤十字病院です。

図1:足利赤十字病院の建築概要

図1:足利赤十字病院の建築概要(参考:長澤泰編著・小松正樹他著、医療施設、市ヶ谷出版社、2014年10月、P.156)

足利赤十字病院は、2011年竣工の栃木県足利市にある病院です。555床の規模を持ち、一般病棟は全室個室となっています。この病棟部門は、患者の療養環境を優先し、渡良瀬川を望む場所に建てられています。一方、診療・外来部門は、効率と分かりやすさを重視し、幹線通路(ホスピタルモール)を挟んで配置され、複雑な動線と物品の搬送ルート・システム、ならびに将来の成長と変化に対応しています。

また、地下水の利用や、太陽光・風力発電によるエネルギー確保により、災害時のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の実現を意図しています。同時に、豊かな自然環境を取り込んだ省エネ・省CO2配慮(Green)を実現し、安全・安心(Safety)で、患者とスタッフに優しい(Smart)次世代型グリーンホスピタルとして、国土交通省「住宅・建物推進モデル事業」に初めて採択されています。さらに、2016年には国際病院設備連盟主催の「国際医療福祉建築賞」で金賞を受賞(2016 Gold Medal award of IFHE:International Federation of Hospital Engineering)しました。

病院建築においては、さまざまな空間が存在します。快適な入院環境は居住空間であり、不特定多数を対象とした外来環境は公共空間です。一方、手術や検査などを行う診療環境は、病院特有の特殊空間であり、清潔維持や感染防止、効率が優先されます。また、医療材料の滅菌や、大量に給食作業を行う場は、工場空間としての役割を果たし、医事やカルテの処理が迅速かつ確実に行われる場は、執務空間として機能しています。病院建築では、このように、互いに相反しがちな要素を適切に処理し、計画と設計をするのが最も難しい作業です。

計画と設計は、言葉は似ているものの、意味は異なります。計画は、相違しながらも相関する建物に対する要求を、具体的な設計条件に落とす作業です。設計は、これらの設計条件に優先順位を付けながら、具体的形態を創り出す作業です。当然ながら関わる人々の物の見方や価値観によって、異なる形態が導かれます。病院の場合、使う側の要求は医療や看護、そして病院経営側の立場に限られることが多く、患者の意見は出にくい傾向にあります。しかし、病院の建築計画では、常に患者の立場を念頭に置く必要があります。患者がいなければ、病院の存在意義はありません。

2. 病院設備の特徴

病院設備計画は、現在と将来の環境を見据え、患者の安全性のために備えられる必要があります。まず、最新の医療機器に対応しつつ、特異な用途と使用時間帯を持つ多数の小部屋に対して、温湿度や空気清浄度、音響、電磁波などの環境条件を設定します。また、病院では治療に使用する機器や薬品などにおいて、処理を行う設備も必要となります。例えば、医療用や機器の検査用に使用される医療ガスや、滅菌に使用される高圧蒸気、透析排水や感染排水などの特殊排水に対しては、それぞれに適した配管を使用して対処します。それにより、細菌や薬品、医療廃棄物、さらに放射線や放射性同位元素を含む汚染から、体力や免疫力の低下した患者を防御し、院内感染の防止を実現します。院内感染の防止には、適切な空調ゾーンを設定し、ダクトの配置や手洗い装置を完備するといった高度な技術も求められます。

また、常に成長し、変化する病院の機能に対して、部門ごとの増改築への建築的な対応をしなければなりません。それと同時に、電源供給や、設備幹線などの配管設置や、次なる展開スペースを確保するといった設備的対応も不可欠となります。消毒や滅菌、洗濯や調理などの装置や、高度な空気清浄度を保つバイオクリーン手術室の設備、中央集塵(しゅうじん)の装置、そして各種の自動搬送機器に関しても、導入して設置し、その後の展開も考えなければなりません。ちなみに、通過型のベッド搬送エレべータ(前後2方向に出入口を持ち、病棟から清潔区域の手術部などへの搬送に用いられる)は、病院への設置が許可されており、これに関しても同様のことが考えられます。

さらに、地震や火災、停電、浸水などの災害で病院機能が停止しないよう、エネルギー関連機器類を複数設置、あるいは系統を分離しておくこと、そして足利赤十字病院のように都市のインフラとは別に、井戸や自家発電装置を準備しておくことが必要です。

日常的な環境においては、入院患者から発生する臭気や温熱、湿気や粉じん、細菌、有毒ガスなどが拡散しないようにし、季節や天候に応じて快適な環境条件を提供するための環境工学技術が求められます。患者の状況は、疾患や体力、心理状態などさまざまであり、個々に適切な環境を設定することは、簡単なようで最も難しいことです。

3. ユニバーサルデザイン

医療施設においては、ユニバーサルデザイン(UD:Universal Design)の概念を取り入れることが必要です。これは1980年代に、自らも障害を持つアメリカの建築家ロン・メイス(ノースカロライナ州立大学)によって提唱されたもので、障害の有無、体格・年齢・性別の違いにかかわらず、最大限利用可能な製品や建築、空間を確保するという概念です。

UDは、

  • バリアフリーデザイン(Barrier Free Design):全ての人の公共空間へのアクセスを可能にすること
  • アダプティブデザイン(Adaptive Design):初めから障害の存在を考慮しておくこと
  • ライフスパンデザイン(Life Span Design):あらゆる年齢層に利用可能にすること

という、それぞれの目標を持った3つのデザインコンセプトによって表現されます。

UDには、表1に示した7つの原則が求められます。

表1:ユニバーサルデザインの7原則(参考:長澤泰・在塚礼子・西出和彦、建築計画 改定版、市ヶ谷出版社、2011年9月、P.256)
ユニバーサルデザインの7原則 概要
原則1:公平な利用 さまざまな能力を持った人々にとって役に立ち、市場性がある
原則2:利用における柔軟性 個人的な好みや能力の広い範囲に適応される
原則3:単純で直感的な利用 ユーザーの経験、知識、言語能力、あるいはその時の集中力のレベルに関係なく利用が理解しやすい
原則4:認知できる情報 周辺状況やユーザーの感覚能力と関係なく、ユーザーに対して効果的に必要な情報を伝達する
原則5:失敗に対する寛大さ 危険や予知せぬ、あるいは意図せぬ行動のもたらす不利な結果を最小限にする
原則6:少ない身体的な努力 効率的に心地よく、最小限の疲れの状態で利用される
原則7:接近や利用のための大きさと空間 適切なサイズと空間が、ユーザーの体格や姿勢もしくは移動能力と関わりなく、近づいたり、手が届いたり、利用したりするのに十分に提供されている

※Copyright(c)1997 NC State University, the Center for Universal Design:この原則は、次のユニバ-サルデザインの主宰 者たちによって編集されたものである。Bettye Rose Connell, Mike Jones, Ron Mace, Jim Mueller, Abir Mullick, Elaine Ostroff, Jon Sanford, Ed Steinfeld, Molly Story, Gregg Vanderheiden (7原則の日本語訳者:清水茜)

この7つの原則の実例を、図2に示します。

図2:UDの7原則の例

図2:UDの7原則の例(参考:長澤泰・在塚礼子・西出和彦、建築計画 改定版、市ヶ谷出版社、2011年9月、P.257)

日本でも、ハートビル法を第一歩として、関連の法律の整備が図られてきました。ハートビル法とは、1994年9月施行された高齢者、身体障害者などが円滑に利用できる、特定建築物の建築の促進に関する法律です。その後、バリアフリー新法の施行に伴い、2006年12月に廃止されました。公共建物では、障害者を考慮したアクセスを可能にしなければなりません。実際、不特定多数が利用する建物の出入口や廊下、階段、昇降機、トイレ、駐車場、敷地内通路には、法律で規定された措置が義務付けられます。病院では各所にこの概念を積極的に導入すべきで、その場合、段差をなくすといったハード面の対策だけでなく、人手による介助を容易にするといったソフト面の対応策も併せて考慮すべきでしょう。

ユニバーサルデザインの考え方は、単一のデザインによる対応を意味しません。基本的に全ての人にとって、さまざまな選択肢を用意することを意味しています。

いかがでしたか? 今回は、病院の建築と設備の特徴、さらにその根底にあるユニバーサルデザインについて解説しました。次回は、病院の地域計画を紹介します。お楽しみに!