健康経営の歴史と経済産業省の役割:健康経営の基礎知識2

健康経営の基礎知識

更新日:2022年3月8日(初回投稿)
著者:山野美容芸術短期大学 教授 新井研究室主宰 新井 卓二

前回は、健康経営がもたらす好影響を紹介しました。今回は、健康経営の歴史と経済産業省の果たした役割について紹介します。特に日本の顕彰制度の基になった、ACOMが主催しているCHAAと、その活動について詳細に紹介します。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とはドイツの鉄血宰相ビスマルクの言葉です。歴史を学び、健康経営の将来を見据え、俯瞰(ふかん)してみましょう。

1. 健康経営の歴史

健康経営は、アメリカのロバート・ローゼンが「ヘルシー・カンパニー―人的資源の活用とストレス管理」(宗像恒次監訳、産能大学出版部、1994年)という本の中で、同義の概念を提唱したことが発端とされています。日本では2006年に、元大阪ガス株式会社の産業医である岡田邦夫がNPO法人健康経営研究会を発足させたことで、広く知られるようになりました(第1回)。

その後、アメリカでは、American College of Occupational and Environmental Medicine(ACOEM)が主催の、社員の健康、安全、職場環境に配慮した優良健康経営表彰制度(CHAA:Corporate Health Achievement Award)が、1996年から始まりました。日本の経済産業省はこのCHAAを参考に、2015年の健康経営銘柄をはじめ、顕彰制度を開始しています。CHAAは、2019年に制度の変更があり、名称がExcellence in Corporate Health Achievement Award(ECHAA)に変更されたものの、現在も続いています。表1に、1997年からのCHAA受賞企業を示します。

表1:優良健康経営表彰制度(CHAA)の受賞企業(ACOEMのウェブサイトより筆者作成、2021、2020、2019、2018、2014、2008、2006年は該当企業なし。Baptist Health South Florida、Bristol-Meyers Squibb、Johnson & Johnson、IBMは2度受賞している。)
  受賞企業
2017 Idaho National Laboratory
2016 Erickson Living
2015 Baptist Health South Florida、Bristol-Meyers Squibb
2013 American Express
2012 Johnson & Johnson、Smithsonian Institution
2011 URS Corporation
2010 Baptist Health South Florida
2009 Southeastern Pennsylvania Transportation Authority
2007 Caterpillar
2005 DaimlerChrysler Corporation、Quad/Graphics
2004 Cianbro
2003 BAE Systems、Marathon Oil Corporation、Union Pacific Railroad
2002 Bristol-Myers Squibb、Eli Lilly and Company、IBM、Kerr-McGee Corporation、Vanderbilt University
2001 National Security Agency/Central Security Service
2000 Dow Chemical Company、GE Power Systems、Sherman Health Systems
1999 AlliedSignal Inc.、City of Indianapolis and Marion County Sheriff‘s Department、Baltimore Gas and Electric Co.、Glaxo Wellcome Inc.
1998 IBM、Boeing Company、Johnson & Johnson、First Chicago NBD
1997 Hughes Electronics Corporation、Lockheed Martin Energy Systems

CHAAの特徴としては、主催者が医療系の学術団体であることや、活動内容が学術団体の活動にとどまらないことが挙げられます。2013年には、CHAA企業群と、アメリカの代表的な株価指数であるS&P500(Standard & Poor's 500)との、13年後における株価のパフォーマンス比較が行われました。その結果、CHAA企業群がS&P500より、約1.8倍に上昇した報告がなされました(参考:FAST TRACK ARTICLE, Volume 55, Figure 1, Number 9, September 2013, P.997)。

さらに2017年には、投資家向けに株式市場における投資信託である健康安全指数(Integrated Health and Safety Index)を作りました。安全衛生や健康に配慮している企業は株価が高い、つまり企業価値が高いと判断したためです。一般的に、Index(指数)は株式での運用成果を表すため、メディアや証券会社、投資会社が作る動機があります。これを学術団体が作り、発表してしまうのがすごいところです。なお、日本では同様の医療系学術団体が仕切っているIndexは、現時点ではありません。

一方、日本では、2010年から経済産業省が主体的に健康経営の普及に取り組んできました。表2に、主な経済産業省周りの取り組みを示します。

表2:経済産業省の健康経営普及への取り組みなど主な施策
  取り組み・施策
2010 医療費の削減を目標に、健康会計(仮称)を提唱
委託事業から「会社と社会を幸せにする健康経営」が発刊
2011 経済産業省内にヘルスケア産業課が新設
2012 日本政策投資銀行が「DBJ 健康経営(ヘルスマネジメント)格付融資」を開始
2013 内閣府の「日本再興戦略」において「健康寿命の延伸」が策定
2014 内閣府の「日本再興戦略改定2014」において「健康経営」が初めて表記
「企業の『健康経営』ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~」を発行
2015 東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」を設定し、上場企業の中から初年度22社を選定
2016 委託事業から東京商工会議所認定の「健康経営アドバイザー」制度の新設
2017 日本健康会議と共同で健康経営優良法人認定制度
(大規模法人部門ホワイト500、中小規模部門)を開始
2020 健康経営優良法人認定制度の大規模法人部門の変更と中小規模部門のブライト500の新設

経済産業省による取り組みの特徴は、表彰制度を整備した点と、普及のため委託事業を活用している点が挙げられます。筆者も、2019年に「経営戦略としての健康経営」を発刊した際、協力いただきました。このように、経済産業省は、民間団体の支援も含め普及活動に関してさまざまな取り組みを行っています。

もう一つ、特徴として挙げられるのが、活動の主体が経済産業省など、政府機関である点です。アメリカでは民間の学術団体が主体者です。これは、日本では、いわゆる大きな政府(政府・行政の規模・権限を拡大しようとする思想、または政策)が原因となり、民間の活動が制限されているためとも受けとれます。しかし一方で、日本政府の機関である経済産業省が主催しているため、民間企業が安心して参加できるという考え方もできます。個人的には、日本での普及において経済産業省が主導したことは、メリットが大きかったのではないかと考えています。ただし、デメリットがないわけではありません、経済産業省は今後、認定制度の主体者を民間へ移行する方針を示しています。

2. 健康経営のこれから

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※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。