健康経営とは? ~バズワード化しつつある「健康経営」と期待される効果~:健康経営の基礎知識1

健康経営の基礎知識

更新日:2022年2月8日(初回投稿)
著者:山野美容芸術短期大学 教授 新井研究室主宰 新井 卓二

筆者は、経済産業省が健康経営の顕彰制度を始めた2015年から、経営学者として健康経営の研究を進めてきました。研究を通じて、健康経営には当初想定していなかった多くの隠れた可能性(効果)があることが分かりました。イノベーションが起こる可能性、ウェルビーイング(Well-Being:幸福、健康の意)が高まる可能性、地域の健康に貢献する可能性、日本全体のヘルスリテラシー向上の可能性などです。本連載では6回にわたり、健康経営の研究を通じて明らかになった効果などを紹介します。

1. 健康経営の提唱と普及

健康経営とは、経済産業省によると、「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義されています。企業理念に基づき、従業員に対して法律の定めを越える健康投資を行うことは、従業員の活力向上や、生産性の向上といった組織の活性化をもたらし、結果的に業績や株価の向上につながると期待されています(図1)。

図1:健康経営と組織の活性化の関係(イメージ)

図1:健康経営と組織の活性化の関係(イメージ)

健康経営は、経営学と心理学の専門家であるアメリカのロバート・ローゼンが1992年に出版した「The Healthy Company」訳書は(「ヘルシー・カンパニー―人的資源の活用とストレス管理」宗像恒次監訳、産能大学出版部、1994年)の中で、同義の概念を提唱したことが発端とされています。

日本では2006年に、元大阪ガス株式会社の産業医である岡田邦夫がNPO法人健康経営研究会を発足させました。また、2010年には、経済産業省が医療費の削減を目標に、健康会計(仮称)を提唱し、これが普及を促しました。さらに同年、健康経営と名が付く初めての書籍(「会社と社会を幸せにする健康経営」田中滋、川渕孝一、河野敏鑑、勁草書房、2010年)が発刊されました。

2015年には、経済産業省と東京証券取引所の共催で、上場企業を対象とした健康経営銘柄の選定が行われ、これは現在まで毎年続けられています。2017年からは、経済産業省と日本健康会議の共催で、上場企業を含む医療法人や、未上場企業も対象にした新たな顕彰制度である健康経営優良法人認定が開始されています。

なお、日本健康会議は、少子高齢化が急速に進展する日本において、国民一人一人の健康寿命延伸と医療費適正化について、行政のみならず、民間組織が連携し実効的な活動を行うために組織された活動団体です。

表1に、健康経営優良法人の調査票回答数の推移を示します。

表1:顕彰制度の健康経営度調査票への回答数(著者作成)(参考:経済産業省、健康・医療新産業協議会 第4回健康投資WG 事務局説明資料1、令和3年12月
  上場企業 大規模法人部門 中小規模部門
2015 493    
2016 573    
2017 608 726 397
2018 718 1,239 816
2019 869 1,800 2,899
2020 964 2,328 6,095
2021 970 2,523 9,403
2022 1,058 2,869 12,849

表1が示すように、健康経営度調査票への回答数は右肩上がりで増え続けています。特に上場企業の調査票回答数は、2022年で1,058社となり、全上場企業約3,800社の約1/4強に当たる28%が回答しています。さらに、経済産業省によれば、日本の株式市場の代表的な株価指数の一つである日経平均株価(日経225)に採用される超大企業の約8割が、健康経営度調査票に回答しています。

つまり、日本を代表する超大企業のうち、健康経営に取り組んでいない企業は少数で、補助金や助成金が準備されていない政府の顕彰制度としては、異例の普及と考えられます。また、多くの企業が、健康経営について、取り組むべき課題、または経営戦略であると認識していると捉えることもできます。

2. 健康経営に期待される効果

昨今、健康経営に取り組んでいる企業が増えているのは、どのような理由によるのでしょうか。それは、健康経営が会社の業績などに好影響を与えているからです。図2に、経済産業省が期待する健康経営の効果を示します。

図2:「健康経営・健康投資」とは

図2:「健康経営・健康投資」とは(引用:経済産業省、健康経営の推進について、2021年10月、P.19

特徴としては、健康経営に関わる費用はコストではなく投資であり、リターンが期待できる点が挙げられます。また、そのリターンは、従業員の健康増進、活力向上だけでなく、離職率の低下や優秀な人材獲得などのリクルート効果をもたらします。さらには、組織の活性化や、日本の課題である生産性向上といったモチベーションのアップ、イノベーションが起こる可能性、また、これらによる業績や株価、企業価値の向上まで期待できるのです。

近年では、企業内の取り組みである健康経営が、退職者の健診受診率を向上させ、これにより、地域の健康への貢献や、ヘルスリテラシーの向上など、社会的な好影響を及ぼすことも分かってきました(詳細は次回以降で紹介します)。このように、健康経営の効果は企業内にとどまることなく、地域や社会へも好影響を与えるのです。

いかがでしたか? 今回は、健康経営がもたらす好影響を紹介しました。健康経営は、今ブームを迎えています。筆者の立場でいえば、昨年(2021年)は、秋から年末にかけ、公開講座での講演依頼が週1~2回もありました。また、ウェブも含む記事の執筆依頼も多く、健康経営は、昨今のバズワードになりつつあります。次回は、健康経営の歴史と将来について取り上げます。お楽しみに!

※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。