MEMSジャイロの作り方(後編):ジャイロセンサの基礎知識5

ジャイロセンサの基礎知識

更新日:2022年6月9日(初回投稿)
著者:東北大学 大学院工学研究科 ロボティクス専攻 教授 田中 秀治

前回、MEMSジャイロの作り方として、エピポリシリコンプロセスが優れていることを説明しました。この作り方を採用しているのは、MEMSセンサの大手企業かつIDM(Integrated Device Manufacturer:設計から製造まで一貫して行う企業)であるドイツのロバート・ボッシュと、フランス・イタリアのSTマイクロエレクトロニクスです。今回は、このエピポリシリコンプロセスのキーポイントを説明します。

1. エピポリシリコンプロセスのキーポイント

エピポリシリコンプロセスのキーポイントは、厚いエピポリシリコンの成膜にあります。この層はMEMS構造となるので、最終的に基板から切り離されて可動状態になります。このとき、この層に応力、または応力勾配があるとMEMS構造が反ってしまい、使い物になりません。応力とは、押し合いへし合いで窮屈していて広がろうとする力(圧縮応力)と、逆にスカスカで寂しいために集まって縮まろうとする力(引張応力)のことです。例えば、エピポリシリコンの下部が圧縮応力、上部が引張応力になっている場合、図1に示すように、MEMS構造は上に反り上がってしまいます。従って、エピポリシリコンはその応力を厳しく管理して成膜しなくてはなりません。

図1:圧縮応力と引張応力、2つの応力による梁(はり)の反り

図1:圧縮応力と引張応力、2つの応力による梁(はり)の反り

2. 応力発生の原因と回避法

一般的に、成膜した層では厚さ方向にその応力が変化します。それにはいくつか理由があります。最初に成膜した部分と、その上に成膜した部分とでは温度履歴が違います。高温で成膜すると、下部の加熱時間は長く、上部に行くほど短くなります。また、成膜は下地の影響を受けます。こうした理由で、結晶構造が厚さ方向に変化して、応力勾配が生じます。膜厚が大きくなると、このような厚さ方向の変化はより顕著になります。

エピポリシリコンは柱状組織を有する膜で、図2に示すように、林立した柱状の結晶が安定してまっすぐに成長します。大きさやでき方こそ違うものの、岩石の柱状節理とよく似た構造です。酸化シリコンの上に種結晶を付け、そこから1,000℃程度の高温(エピタキシャル条件)でこのような柱状シリコン結晶を成長させます。成膜に使う装置は、枚葉エピタキシャルリアクタです。ちなみに枚葉とは、ウェハを1枚ずつ処理することです。この結晶構造によって、厚さ方向での応力は、ほとんど変化しません。

図2:エピポリシリコンと材木岩の構造

図2:エピポリシリコンと材木岩の構造

エピポリシリコンは、20~30μmという厚い膜であるため、量産のためには高速で成膜しなくてはなりません。何より、大量のウェハ上に安定して成膜しなくてはならないため、成膜条件だけではなく、リアクタの掃除にもノウハウがあるのでしょう。このようなノウハウこそが、限られた企業のみがこの成膜技術を使いこなせる理由の一つだと思います。

3. ウェハレベル真空パッケージング

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