MEMSジャイロのメカニズム:ジャイロセンサの基礎知識3

ジャイロセンサの基礎知識

更新日:2022年4月26日(初回投稿)
著者:東北大学 大学院工学研究科 ロボティクス専攻 教授 田中 秀治

前回は、MEMSジャイロの原理について解説しました。今回は、MEMSジャイロのメカニズムを紹介します。

1. MEMSジャイロのメカニズム

MEMSジャイロは典型的には図1に示すような小さな部品です。黒い部分は樹脂封止で、その中にMEMSチップが入っています。樹脂封止を加熱した発煙硝酸で取り除くと、MEMSチップを取り出せます。MEMSチップにはシリコン基板で蓋がしてあります。この蓋を取り除くのは大変ですが、何とか取り外せば、中にあるMEMSのメカニズムを見ることができます。

図1:MEMSジャイロのチップ

図1:MEMSジャイロのチップ

それでは、MEMSの中身を観察してみましょう(図2)。今回、教材にしたのは、TDK-InvenSenseが開発したコンボセンサMPU-9250です。コンボセンサは、複数のセンサを1パッケージにしたもので、この製品では3軸ジャイロ、3軸加速度センサ 、および3軸地磁気センサが一体になっています。そのうち、図2に示すMEMSチップでは、左側に3軸ジャイロ、右側に3軸加速度センサ(z軸加速度センサ、x-y軸加速度センサ)の2つで形成されています。ジャイロの実質的な大きさは1mm2程度です。

図2:MEMSコンボセンサ(TDK-InvenSense MPU-9250)のメカニズム(著者の研究室により開封、撮影)

図2:MEMSコンボセンサ(TDK-InvenSense MPU-9250)のメカニズム(著者の研究室により開封、撮影)

図2左のジャイロは3軸ジャイロであるため、前回説明した振動式ジャイロの原理との対応は少し分かりにくくなっています。図3に、上段に振動式ジャイロの原理の図、下段に3軸MEMSジャイロ(TDK-InvenSense MPU-9250)の写真とメカニズムの図を示します。まず、上段のx軸の振動に相当するのが、下段右に赤の矢印で示される振動です。チップに垂直な軸、すなわちz軸まわり(ヨー:Yaw)の角速度が加わると、コリオリ力によってy方向の振動が起きます。それが、青の矢印で示される振動です。コリオリ力の方向は、x軸とz軸が張る面に垂直な方向、すなわちy方向です。次に、y軸まわり(ロール:Roll)の角速度が加わった場合を考えます。コリオリ力の方向は、x軸とy軸が張る面に垂直な方向、つまりz方向です。このコリオリ力によって、紫の法線ベクトルマークで示される振動が起きます。

図3:振動式ジャイロの原理と3軸MEMSジャイロのメカニズム

図3:振動式ジャイロの原理と3軸MEMSジャイロのメカニズム

x軸まわり(ピッチ:Pitch)の角速度の検出は、チップの中央部分で行います。赤の矢印で示される振動によって、中央部分には面内ねじり振動が生じます。中央部分はシーソーのようになっていて、前述の面内ねじり振動はx-y面内の回転振動ともいえます。これによって、シーソーの両端はy方向に振動するため、コリオリ力の方向はx軸とy軸の張る面に垂直な方向、すなわちz方向です。その結果、シーソーには緑の法線ベクトルマークで示されるようにねじり振動が生じます。

2. メカニズムの対称性が重要

以上のような、よく考えられたメカニズムよって、MEMESジャイロは1mm2程度の大きさで3軸の角速度を検出しています。ところで、図3に示したように、これらの全ての振動は対称的に起こります。具体的にいうと、赤の矢印の振動は、下側と上側が左右に互い違いに同じ振幅で起こります。法線ベクトルマークで示されるロール検出のための振動も、対称的な構造の一方が上がると他方は下がるような振動をします。

このように、対称振動となっているのには2つの理由があります。一つは加速度、すなわちショックに反応しにくくするためです。ショックを与えると、MEMSジャイロのメカニズムが振動してしまいます。しかし、上述のような互い違いの振動(逆相の振動)は起こりにくいのです。また、加速度による互い違いではない振動(同相の振動)は、電気的にキャンセルできます。

もう一つは、対称振動とすることによって、振動エネルギーの損失を抑えているためです。その方が、少ない加振力で大きな振動を得られます。原理としては、音叉(おんさ)の振動を考えると分かります。図4に、音叉の振動を示します。音叉をたたくと、二股になった梁(はり)が内側に寄ったり、外側に広がったりと対称的に振動します。2つの梁の振動による応力が根元の支持部で打ち消し合うため、支持部から外部に振動エネルギーが逃げ出しにくいのです。この原理によって、音叉をたたくと、クリアな音が長時間続きます。このような振動損失の少ない状態を「Q値が高い」といいます。

図4:音叉とその振動

図4:音叉とその振動

3. Q値はクオーツ時計でも重要

続きは、保管用PDFに掲載中。ぜひ、下記よりダウンロードして、ご覧ください。

4. より耐ショック性を高めるためには

続きは、保管用PDFに掲載中。ぜひ、下記よりダウンロードして、ご覧ください。