ジャイロセンサとは:ジャイロセンサの基礎知識1

ジャイロセンサの基礎知識

更新日:2022年3月24日(初回投稿)
著者:東北大学 大学院工学研究科 ロボティクス専攻 教授 田中 秀治

スマートフォンは、それ自身の動きを検出している―そう気付く利用ケースは多いと思います。持つ向きに合わせて画面が表示される、傾けてゲームを操作する、カメラの手振れ防止が働く、歩数や階段の上り下りも分かる。これらは、スマートフォンに搭載されたセンサによるものです。並行運動は加速度センサに、高さは気圧センサに、そして、回転はジャイロセンサ(以下、単にジャイロと呼びます)によって検出されます。本連載では、このジャイロに焦点を当てて解説していきます。第1回は、ジャイロの概要について紹介します。

1. ジャイロの分類

本連載で取り上げるジャイロとは、回転、一般的には角速度(回転速度)を検出するセンサです。その原理は主に、コリオリ力(りょく)を用いる振動式と流体式、ジャイロ効果を用いる回転式、およびサニャック効果を用いる光学式の3つです(図1)。冒頭に述べた、スマートフォンに入っているジャイロは振動式で、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術によって、とても小さく作られています。一方、回転式と光学式はMEMSジャイロよりずっと大きく高価で、航空機、船舶などを含む産業機器に使われています。

図1:ジャイロの分類

図1:ジャイロの分類

ジャイロは、方式だけでなく性能面でもバリエーションに富んでいます。図2は、さまざまな方式のジャイロを性能(バイアス不安定性)と価格帯によって整理したもので、左側がローエンド、右側がハイエンドになります。ローエンドのジャイロは、ほぼMEMSジャイロです。これは半導体製造技術によって大量生産できるため、素子単体は1個100円以下から入手できます。ローエンドとハイエンドの間にあるものは、回転式や光学式のジャイロです。特に、光ファイバジャイロ(FOG:Fiber Optic Gyroscope)とリングレーザジャイロ(RLG:Ring Laser Gyroscope)という2種類の光学式ジャイロが代表的です。これらは、MEMSジャイロより2桁程度以上高性能であり、価格も100万円台に乗ることが一般的です。

図2:各種ジャイロの性能

図2:各種ジャイロの性能

最もハイエンドな半球共振子ジャイロ(HRG:Hemispherical Resonator Gyroscope)と電気浮上ジャイロ(ESG:Electrically Suspended Gyro-scope)は最高性能のジャイロで、主に兵器、例えば原子力潜水艦に用いられています。価格は1億円台にのぼるとも聞きます。面白いのは、ハイエンドのHRGも、ローエンドのMEMSジャイロと同じ振動式だということです。どちらも同じ原理を使っているのに、性能も価格も5桁程度、違います。勘の良い方なら、HRGをMEMS技術によって作ることができれば、安くて小さな高性能ジャイロができるはず、と気付くのではないでしょうか。

2. ジャイロの性能―バイアス不安定性とは

前掲の図2では、ジャイロを性能によって整理しています。では、その性能とは具体的には何でしょうか。ジャイロは回転を検出するセンサであるため、どのくらいゆっくりとした回転を検出できるかが、最も重要な性能になります。これが評価軸に選んだ性能で、バイアス不安定性と呼ばれます(図2の上)。しかし、「どのくらいゆっくりとした回転を検出できるか」は、決して単純な問いではありません。

ここに、性能を測りたいジャイロがあったとします。物体を好きな角速度で回せる装置(レートテーブル)を使い、ジャイロを検出軸まわりに回転させます。与える角速度が大きければ、ジャイロからは大きな出力(一般的には電圧)が得られます。どんどん角速度を小さくして(つまり、ゆっくり回して)いくと、出力も小さくなっていきます。そして、最終的にジャイロからの電圧は、出力なのかノイズなのか判別できなくなってしまいます。ここが、検出限界になります。

しかし、時間平均を取ればノイズは小さくできます。長い時間をかけて測定し、出力を時間平均すれば、もっと小さな角速度を測れることになります。それでは、可能な限り時間をかければ、どこまでも小さな角速度の測定が可能なのか、というと、そうはなりません。その限界が、バイアス不安定性になります。

上で述べたことをまとめたものが、図3になります。右下の図の、横軸は平均時間のようなもの、縦軸はノイズのようなもの(アラン分散)です。この図は、平均時間τを長くしていけば、ノイズは√τの割合で減っていくものの、あるところで下げ止まり、それ以上にτを長くすると、かえってノイズが増えることを示しています。この底の部分が、バイアス不安定性に相当します。正確には、バイアス不安定性の1/0.664倍です。

図3:ジャイロのノイズ

図3:ジャイロのノイズ

図3右下図の、左側のスロープはホワイトノイズ、右側のスロープはブラウンノイズ、真ん中の平らな部分はフリッカノイズやピンクノイズなどと呼ばれます。ジャイロの性能を上げるためには、これらのノイズを下げなくてはなりません。そして、どのくらいゆっくりとした回転を検出できるかは、使い方(=τ)によるものの、とにかくバイアス不安定性以下の角速度は、ノイズに埋もれて検出できないことが分かると思います。

3. バイアス不安定性以外の重要な性能

バイアス安定性の他にも、ジャイロにとって重要な性能はいくつかあります。バンド幅と、スケールファクタの安定性は、ジャイロを選ぶ際の大切な要素になります。バンド幅(信号スペクトルの周波数幅)は、どのくらい速い角速度変化を測定できるかの指標で、応答性ともいえます。また、スケールファクタの安定性は、角速度当たりの出力、すなわち感度の安定性です。気温変化でスケールファクタが変わってはいけません。

ジャイロは回転を測定するセンサなので、並進運動に反応しては困ります。しかし、実際には大きな加速度、つまりショックを与えると、ジャイロが反応してしまうことがあります。これでは、さまざまな道路を走る自動運転車には使用できません。さらに、モバイル用途では消費電力も重要であることはいうまでもありません。

いかがでしたか? 今回は、ジャイロセンサの概要を解説しました。図2ではバイアス不安定性でジャイロを整理しました。しかし、この指標だけで性能の良し悪しはいえず、それは用途によることが分かります。コストや大きさといった制約の中で目的にかなったジャイロを選ぶのは、それほど簡単ではありません。次回は、MEMSジャイロの原理と仕組みについて説明します。お楽しみに!