グリーンインフラによる都市再生:グリーンインフラの基礎知識4

グリーンインフラの基礎知識

更新日:2023年1月31日(初回投稿)
著者:金沢大学 人間社会研究域附属 先端観光科学研究センター 准教授 菊地 直樹

前回は、グリーンインフラとしての海岸マツ林とその維持管理を紹介しました。地方都市に出現している空き地や空き家といった低未利用地は、地域の社会経済活動を停滞させるだけでなく、管理が行き届かないことにより、景観や災害リスクの増加など、さまざまな負の影響をもたらしています。今回は、グリーンインフラを導入することによる、都市内の低未利用地の活用による都市再生について解説します。

1. 地方都市の低未利用地

筆者は、人口約47万の北陸地方の中核都市である石川県金沢市に暮らしています。金沢市内に残る江戸時代の用水網や庭園、屋敷林といった都市内の自然は、食と並んで重要な観光資源となっています。金沢の用水網は55本を数え、総延長距離は約150キロメートルにもなります(図1)。

図1:金沢にある用水の一つ
図1:金沢にある用水の一つ

中心部には、大野庄用水(図2)、辰巳用水(図3)、鞍月用水の3つの用水があり、風情のある景色を彩っています。

図2:大野庄用水
図2:大野庄用水
図3:兼六園にある辰巳用水
図3:兼六園にある辰巳用水

かつて用水は、灌漑(かんがい)だけではなく、消防、水車、融雪、洗濯などの機能を持っていました。ドジョウ、ナマズ、ウグイなどの多様な種類の魚類が生息し、食卓を賑やかしていました。

金沢市内には、用水から水を受け取る庭園(曲水庭園)が、少なくとも30か所あります(図4)。庭園は景観として優れていることに加え、フクロウ、小鳥、ホタル、ムササビ、モリアオガエル、北陸サンショウウオ、ゲンゴロウ、ウグイ、メダカ、ミズカマキリ、マツモムシなどの生息場にもなっています。人間が作り出した環境である用水網や庭園は、生態系サービスをもたらす重要な基盤となっています。

図4:曲水庭園
図4:曲水庭園

金沢市は、高度経済成長期の1968年、全国初の自治体による独自の景観条例として金沢市伝統環境保存条例を制定しました。第1章、第1節に、伝統環境とは「樹木の緑、河川の清流、新鮮なる大気につつまれた自然環境とこれらに包蔵された歴史的建造物、遺跡等及びこれらと一体をなして形成される環境」とあります。

この条例は都市の景観全体を保全の対象として考えていたもので、現在の目から見ても、大変先進的な考えを示したものと思われます。その後も、金沢市は、こまちなみ保存条例(古い建物の並ぶ細街路を対象)、用水保全条例、寺社風景保全条例などを制定しています。このように、都市内自然は、行政と市民が協力して保全してきたものといえます。

しかし、近年では、空き地や空き家などの低未利用地が目立つようになっています。金沢市の空き家率は、2015年時点で約8%です。伝統的建造物群保全地区に指定され、観光地として賑わいを見せている東山地区(図5)は、少子高齢化が進み、空き家が増えています(参考:フアン・パストール・イヴァールス「金沢グリーンインフラ・ブルーインフラの創出−都市生態系サービスの保全と基礎」(菊地直樹・上野裕介編、グリーンインフラによる都市景観の創造−金沢からの「問い」、公人の友社、2019年))。

図5:朝景のひがし茶屋街
図5:朝景のひがし茶屋街

金沢市は、都市内の自然を保全し、資源として活用してきました。しかし、用水を維持管理する農家の数や耕地面積は減少しています。また、用水が発揮する機能も限定的となり、庭園を維持管理する担い手も不足しています。今後、放棄される庭園が増えることが懸念されます。

低未利用地という問題は、金沢市に限ったことではありません。人口減少時代を迎え、地方都市には膨大な低未利用地が出現しているのです。

2. グリーンインフラによる都市景観の創造

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3. 用水

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4. 庭園

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5. 市民活動の余地

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