生態系減災Eco-DRRとグリーンインフラとしての水田:グリーンインフラの基礎知識2

グリーンインフラの基礎知識

更新日:2022年7月8日(初回投稿)
著者:金沢大学 人間社会研究域附属 先端観光科学研究センター 准教授 菊地 直樹

前回は、グリーンインフラに期待される機能を中心に、グリーンインフラの概要を紹介しました。今回は、グリーンインフラの機能の一つである生態系減災について解説します。生態系減災Eco-DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)は、生態系の機能を防災・減災に活用しようとする考え方です。生態系の機能と既存のインフラをうまく組み合わせることで、防災・減災につなげていくことができます。2004年12月のインドネシアのスマトラ沖地震による津波災害をきっかけに、重要性が広く知られるようになりました。

1. 災害とは何か

日本は自然災害が極めて多い国です。1万8千人以上の死者・行方不明者を出した東日本大震災以降も、豪雨や洪水、崖崩れ、火山の噴火、豪雪など、さまざまな災害が毎年起こっています。

豪雨や地震といった自然現象のことを、ハザード(Hazard)といいます。自然現象が発生していても、そこに人間が暮らしておらず、財産も存在せずに、誰も被害を受けていなければ災害とはいいません。災害とは「広く人的、物的、経済的、環境的に深刻な影響を及ぼす事象で、コミュニティや社会の機能に深刻な混乱を招くもの」を指します(参考:United Nations Office for Disaster Risk Reduction 2017 Terminology on Disaster Risk Reduction)。つまり、自然現象が人間の経済や社会、環境に大きな被害をもたらす場合、災害となります。

ハザードを制御することは、現在の科学技術でも極めて困難です。従って、DRR(Disaster Risk Reduction:災害リスクを下げること)が、近年の防災・減災の世界的な目標となっています。

災害リスクは、ハザード、曝露(Exposure)、脆(ぜい)弱性(Vulnerability)、キャパシティ(Capacity)の4つによって決定されます。ハザードについては先ほど説明したとおりです。曝露とは、災害の危険にさらされていることです。危険性の高い場所に、家や、貴重な財産が存在していることをいいます。脆弱性とは、ハザードが起こった場合に、その影響を回避したり、減少させたりする機能が低下していることです。キャパシティとは、災害に対する組織やコミュニティ、社会の対処能力を指します。災害リスクは、以下のような図式で示されます(図1)。

図1:災害リスクの関係式(参考:生態系減災 Eco-DRR、一ノ瀬友博編、慶應義塾大学出版会、2021年をもとに筆者作成)

図1:災害リスクの関係式(参考:生態系減災 Eco-DRR、一ノ瀬友博編、
慶應義塾大学出版会、2021年をもとに筆者作成)

2. 生態系減災Eco-DRR

生態系減災Eco-DRRとは、地域の生態系の特徴や、災害リスクの大きさに応じた土地利用によって、防災・減災を進める考え方です。これは、グリーンインフラに期待される重要な機能の一つです。例としてマングローブ林が挙げられます(図2)。マングローブ林は、熱帯、亜熱帯の河口など、潮の満ち引きの影響を受けるところにある森林地帯を指します。マングローブ林は、人口の防潮堤に比べれば、津波の威力から陸地を守るという点では劣るものの、海からの風や波の影響をやわらげ、陸からの土砂や汚水の流出を緩衝する働きがあります。

また、マングローブ林は、満潮時や干潮時に集まる多彩な生物によって豊かな生態系が築かれており、生物多様性保全といったさまざまな機能を提供します。波打ち際から内陸部まで、マングローブ林の十分なスペースが確保できれば、減災、生態系保全の両方に十分な機能を発揮します。

図2:生態系減災に機能するマングローブ

図2:生態系減災に機能するマングローブ

人口が増加していた時代は土地が不足していたため、食糧生産や住宅を確保するために、災害リスクが高いところを開発し、利用する必要がありました。人口減少の局面に入った現在、空き地や空き家、耕作放棄地といった余った土地の活用が課題となっています。人口減少時代であるからこそ、生態系の機能を活用して、災害リスクを低減することが実現しやすくなっています(参考:一ノ瀬友博編、生態系減災 Eco-DRR、慶應義塾大学出版会、2021年)。

例えば、氾濫の危険性が高い場所を遊水地と位置付け、人が住まないようにします。すると、生物の多様性豊かな自然が再生され、その空間はグリーンインフラとして利用できます(参考:中村太士、未来の国土保全に欠かせない「グリーンインフラ」、グリーンインフラ研究会編、実践版! グリーンインフラ、日経BP、2020年)。また、湿地帯や干潟、河川の氾濫原といった危険な場所を人間が利用しない、つまり曝露を下げることは、人間にとっても利益があります。同時に、生物の生息地の保全や、生物多様性の向上も期待されます。

もちろん、災害リスクが高い土地であっても、そこに住んでいる人にとっては、思い入れのある大切な場所です。従って、住んでいる人々の思いを大切にしながら、災害リスクの軽減を考えていくことが重要です。生態系減災を進めるには、関係者の対話と合意形成がとても重要です。

3. グリーンインフラとしての水田

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4. 生きものブランド米:コウノトリ育むお米

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