グリーンインフラとは:グリーンインフラの基礎知識1

グリーンインフラの基礎知識

更新日:2022年6月8日(初回投稿)
著者:金沢大学 人間社会研究域附属 先端観光科学研究センター 准教授 菊地 直樹

グリーンインフラとは、自然が持っている多様な機能を持続可能な社会と経済の実現に向けて活用しようという考え方です。社会が抱えるさまざまな課題に対する、分野横断的アプローチとして注目されています。しかし、実装には多様な関係者の協働や合意形成が欠かせません。本連載では、さまざまな事例を紹介しながら、グリーンインフラについて解説します。

1. グリーンインフラとは

近年、SDGs(持続可能な開発目標群)、ESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行う投資)が提唱され、環境保全や環境への配慮を社会経済活動の中枢的な課題として組み込もうとする政策や活動が進められています。こうした「社会のグリーン化」を進める一つの考え方として、グリーンインフラ(Green Infrastructure)があります。

多様な分野の研究者や実務家が参加しているグリーンインフラ研究会は、グリーンインフラを「自然が持つ多様な機能を賢く利用することで、持続可能な社会と経済の発展に寄与するインフラや土地利用計画」と定義しています(参考:グリーンインフラ研究会、決定版!グリーンインフラ、日経BP社、2017年)。グリーンインフラは、単に環境に優しいインフラでもなければ、堤防といった人工構造物に自然的要素を付け足したものでもありません。

グリーンインフラは、自然が持っている多様な機能を活用して、持続可能な社会と経済の発展に寄与するインフラや土地利用計画です。自然が持つ多様な機能とは、自然環境や生物が私たち人間にもたらすさまざまな恵み(生態系サービス)のことです(図1)。また、インフラとは社会の基盤という意味です。つまり、自然の恵みを社会の基盤に据え置こうという考え方であるといえます。

図1:生態系サービス

図1:生態系サービス

2. 自然の多機能性

以下に、グリーンインフラに期待される主な機能を22件挙げます(表1)。

表1:グリーンインフラに期待される主な機能(参考:グリーンインフラ研究会、実践版!グリーンインフラ、日経BP社、2020年)
グリーンインフラに期待される主な機能
1:治水
2:土砂災害防止
3:地震・津波減災
4:大災害時の避難場
5:水源・地下水涵養(かんよう)
6:水質浄化
7:二酸化炭素固定
8:局所気候の緩和
9:地域のための自然エネルギー供給
10:資源循環
11:人と自然に優しい交通路
(グリーンストリート)
12:害虫抑制・受粉
13:食料生産、一次産業の高付加価値化
14:土砂供給
15:観光資源
16:歴史文化機能の維持
17:景観向上
18:環境教育の場
19:レクリエーションの場
20:福祉の場
21:健康増進・治療の場
22:コミュニティー維持

※地下水涵養(かんよう):雨水などが土中に浸透し、帯水層に地下水として蓄えられること。

グリーンインフラに期待される機能は、非常に広範囲に及び、グリーンインフラの種類や地域によっても機能は異なります。また、あらゆる分野から注目され、まちづくり、環境保全、防災対策にグリーンインフラによる機能を取り入れ、先進的な事例も増加してきています。こうして整理すると、私たちはいかに自然から恵みを得ているかということが分かります。

3. 社会課題解決アプローチとしてのグリーンインフラ

日本では東日本大震災以降、環境や土木、建築、経済などのさまざまな分野で、グリーンインフラが注目されています。国土交通省や環境省、地方自治体などの計画にも反映され、全国各地で実践されつつあります。

グリーンインフラは、なぜ注目されるようになったのでしょうか? それは、期待される機能が広範囲に及んでいることからも分かるように、環境問題だけではなく、人口減少・少子高齢化、地域経済の停滞・格差の拡大、災害リスクの向上といった現代社会が抱えている諸課題に対して、自然の多機能性を活用した分野横断的アプローチとして期待されているからです(参考:グリーンインフラ研究会、実践版!グリーンインフラ、日経BP社、2020年)。

日本では、人口増加時代に、道路や防災施設など数多くの人工物としてのインフラが整備されました。しかし、人口減少時代を迎え、税収は少なくなり、地方経済も低迷する中、新たなインフラ整備のみならず、既存のインフラの維持更新費用を賄うことも難しくなると予測されています。人口減少時代に合った維持管理コストの小さいインフラ整備と、維持管理手法が必要とされています。そうした特徴を持つものが、以下に示すグリーンインフラです(表2)。

表2:現代社会が抱えている諸課題に対して期待されるグリーンインフラ(参考:西田貴明「グリーンインフラ」(引用:菊地直樹・上野裕介編、グリーンインフラによる都市景観の創造、公人の友社、2019年))
今後期待されるグリーンインフラ
  • 雨水の貯留や浄水機能を有する道路の路側帯や街路樹
  • レクリエーション機能を備えた遊水池や農地
  • 災害の避難場所となる防災機能の高い緑地
  • 生き物を育む森林と一体となった防潮堤
  • 雨水を貯められる市民農園や個人の庭
  • 水源涵養機能を備えた森林や農地

※防潮堤(ぼうちょうてい):台風などによる大波や高潮、津波の被害を軽減する堤防

グリーンインフラが多様な機能を発揮するには、時間がかかります。しかし、自然にはある程度は自律的に維持される仕組みが備わっているため、長期的には経済的であると考えられています(参考:グリーンインフラ研究会、実践版!グリーンインフラ、日経BP社、2020年)。

さまざまな地域で、低未利用地(いわゆる、空き地や空き家など)が出現しています。低未利用地の拡大は、社会経済活動の低迷をもたらすのみならず、担い手不足により管理が行き届かないため、景観の悪化や災害リスクを増加させるといった影響を及ぼしています。この課題に対して、グリーンインフラの視点から、都市内の低未利用地を多機能的空間として創造的に再生し、魅力ある地域を形成しようとする取り組みなどがあります(参考:菊地直樹・上野裕介編、グリーンインフラによる都市景観の創造、公人の友社、2019年)。

近年、豪雨や酷暑など、自然災害の危険を感じることも多くなっています。気候変動に伴い、今後も自然災害リスクは高まると考えられる中、経済的・社会的コストも考えながら、生態系の特徴や災害リスクの大きさに応じた土地利用によって、防災・減災を進めることが必要とされています。こうした考えは、Eco-DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)と呼ばれています(参考:生態系減災Eco-DRR、一ノ瀬友博編、慶應義塾大学出版会、2021年)。

グリーンインフラは、単一、または少数の機能に特化した人工構造物である従来型の「グレーインフラ」と対極的位置にあるように見えます。しかし、現実的には、グリーンインフラは地域ごとの生態系や土地利用、社会経済的状況に合わせて多様な形態があります。

グレーとグリーンは連続的に捉えることができ(参考:グリーンインフラ研究会、実践版!グリーンインフラ、日経BP社、2020年)、それぞれに強みと弱みがあります(参考:復興・国土強靭化における生態系インフラストラクチャー活用のすすめ、日本学術会議、2014年)。表3のように、グリーンインフラは多機能性や環境負荷の回避で大きな利点を持っています。一方で人工物インフラの利点は、単一機能による確実な発揮や、短期的雇用にあります。すなわち、どのように人工物インフラとグリーンインフラを組み合わせていくかという視点が極めて重要になります。

表3:人工構造物によるインフラ整備と生態系インフラストラクチャーの特徴(参考:復興・国土強靭化における生態系インフラストラクチャー活用のすすめ、日本学術会議、2014年)
概要 人工物インフラ 生態系インフラ
単一機能の確実な発揮
(目的とする機能とその水準の確実性)
多機能性
(多くの生態系サービスの同時発揮)
不確実性への順応的な対処
(計画時に予測できない事態への対処の容易さ)
×
環境負荷の回避
(材料供給地や周囲の生態系への負荷の少なさ)
×
短期的雇用創出・地域への経済効果
長期的な雇用創出・地域への経済効果

◎大きな利点、〇利点、△どちらかといえば欠点、×欠点

4. 「技術的解決策」と「社会的解決策」の融合

グリーンインフラの展開において、技術的解決策と社会的解決策が必要となります。

・技術的解決策

技術的解決策は、工学者や生態学者などが提案する、自然の多機能性を活用する解決策です。当然のことながら、地域によって自然条件も社会経済条件も異なり、グリーンインフラに期待される機能もまた違います。考えてみると、自然の多機能性の活用という考え方は、何も目新しくはありません。有史以前から、人間はさまざまな方法で自然を利用して暮らしてきたからです。従って、地域ごとに蓄積されてきた伝統的な知識や技術から学び、現代の科学的な知識や技術と融合することも重要な課題となります。その点で、グリーンインフラは、地域住民が使える技術を用いて地域のインフラを自治管理するという、「インフラのコモンズ化」という側面も有しています。

・社会的解決策

社会的解決策は、研究者、行政、企業、銀行、NPO、地域住民といった、利害や関心が異なる人々の協働と合意形成により、グリーンインフラが多様な機能を発揮し、持続的な維持管理を可能とする解決策です。

自然の多機能性の活用を可能とする分野横断的解決アプローチとは、技術的解決策と社会的解決策を融合することによって実現するものなのです。

いかがでしたか? 今回は、技術的解決策と社会的解決策の融合という視点から、さまざまな事例を紹介し、グリーンインフラを解説しました。次回は、生態系を活用した防災減災を紹介します。お楽しみに!