戦略形ゲームと戦略の支配:ゲーム理論の基礎知識2

ゲーム理論の基礎知識

更新日:2021年6月22日(初回投稿)
著者:東京都立大学 経済経営学部 教授 渡辺 隆裕

前回は、ゲーム理論がどのような理論から構成されているのかを解説しました。今回は、戦略形ゲームとは何か、そして、その解の1つである支配戦略について説明します。また、支配戦略の例である囚人のジレンマについても紹介します。

1. 戦略形ゲームと支配戦略

ゲーム理論(非協力ゲーム)は、戦略形ゲームと展開形ゲームという2つの形式に分けることができます。ざっくりいえば、戦略形ゲームとは、じゃんけんのように、全てのプレイヤーが同時に行動するゲーム、展開形ゲームとは、将棋や囲碁のように、プレイヤーが順番に行動するゲームと捉えて良いでしょう(第1回参照)。今回は、戦略形ゲームについて説明します。

・戦略形ゲーム

戦略形ゲームでいう「同時に行動する」とは、時間的なタイミングではなく、全てのプレイヤーは、自分が行動するときに他のプレイヤーの行動が分からない(観察できない)、ということを意味します。

例えば、2人でじゃんけんをするときに、1人がグー・チョキ・パーのどれかを紙に書いて相手に見えないように封筒に入れ、その後にもう1人がグー・チョキ・パーのどれを出すかを宣言し、封筒を開けて勝負を決めるような方法を考えてみましょう。この方法は、2人同時に行う普通のじゃんけんと変わりはありません(手間はかかりますが)。このようなゲームは、戦略形ゲームであるといえます。そう考えると、戦略形ゲームの応用範囲は、かなり広いものになります(図1)。

図1:同時に行動する戦略形のじゃんけん

図1:同時に行動する戦略形のじゃんけん

戦略形ゲームは、プレイヤー、戦略、利得の3要素から構成されます。プレイヤーは、個人・企業・国家など、ゲームで行動をする主体です。戦略は、プレイヤーが選ぶ行動や代替案を指します。各プレイヤーが戦略を選ぶと、その結果として各プレイヤーの利得が決まります。この利得は、プレイヤーの好みである結果を、何らかの数値に表したものです。例として、以下のようなモデルを紹介します。

一ノ瀬と二子山の戦略の例:
駅前の老舗和菓子店、一ノ瀬と二子山は、ライバル関係にある。両者は、看板商品である大福もちを巡る競争が激しくなったことで、価格を値下げするか、現状維持にするか、迷っている。両者が価格を現状維持とすると、共に1日の利益は4万円。しかし、一方だけが値下げをすると、値下げをした店舗は利益が6万円に増加し、現状維持をした店舗は利益が1万円に減少する。ここで、両者共に値下げをすると、両者とも利益は2万円になってしまう。

この例において、戦略形ゲームを構成する3要素は以下のようになります。

  • プレイヤー:一ノ瀬と二子山
  • 戦略:どちらのプレイヤーにも現状維持と値下げという2つの戦略がある。
  • 利得:ここでは、利益を利得と考える。

戦略形ゲームを表すために、利得行列と呼ばれる図を用います。図2は、一ノ瀬と二子山の例の利得行列です。現状維持か値下げかについて、一ノ瀬は行を(青色で表示)、二子山は列を(赤色で表示)を選択します。2人のプレイヤーが選択した行と列の交わったセルがゲームの結果で、カッコ内の2つの数字は、2人のプレイヤーの利得を表しています。左側の数字(青色)が一ノ瀬の利得で、右側が二子山(赤色)の利得です。

図2:利得行列の例

図2:利得行列の例

さて、ゲームの結果はどうなるでしょうか。まず、一ノ瀬の立場に立ってみます。相手(二子山)が現状維持を選択したと想定すると、自分(一ノ瀬)は値下げ(利得6)を選択する方が、現状維持(利得4)を選択するよりも良い選択となります。次に、相手が値下げを選択したならば、自分もやはり値下げ(利得2)を選択する方が、現状維持(利得1)を選択するよりも良い選択となります。

・支配戦略

上記の結果、自分(一ノ瀬)にとって、相手(二子山)がどんな戦略を選択しても、値下げを選択した方が現状維持を選択するよりも利得が高くなります。このように、あるプレイヤーにとって、他のプレイヤーのどのような戦略に対しても、ある戦略が他の戦略より良い(利得を高くする)ときに、その戦略を支配戦略と呼びます。支配戦略があるときは、プレイヤーはそれを選択すると見なします。この結果、一ノ瀬は値下げを選択すると結論できます。

二子山の立場に立ってみても、これは一ノ瀬と同じ(対称的な)状況であるので、値下げは二子山にとっても支配戦略になることが分かります。このことから、一ノ瀬も二子山も値下げをするということが分かります(図3)。

図3:支配戦略(一ノ瀬は、二子山が現状維持と値下げのどちらを選択しても、現状維持よりは値下げした方が良い)

図3:支配戦略(一ノ瀬は、二子山が現状維持と値下げのどちらを選択しても、現状維持よりは値下げした方が良い)

2. 囚人のジレンマ

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