ものづくりの歴史と工場自動化(前編):FAの基礎知識1

FAの基礎知識

更新日:2023年2月7日(初回投稿)
著者:神戸大学 大学院 工学研究科 機械工学専攻 教授 白瀬 敬一

産業革命以降のものづくりの歴史においては、工業製品の品質と生産性の向上が常に求められてきました。その中で、FA(Factory Automation:工場の自動化)は、工業製品の品質と生産性の向上に大きく寄与しています。日本の製造業は、少子高齢化による若年就業者の減少と熟練作業者の退職による労働力不足に直面しており、これまで以上の省人化と無人化が求められています。本連載では、全6回にわたりFA(Factory Automation)の基礎知識について解説します。第1回では、現在のFAにつながる、ものづくりの歴史と工場の自動化を取り上げます。

1. 産業革命以降の近代的ものづくりの歴史

産業革命以降、発展を続ける近代的ものづくりの歴史を、図1に示します。まず、中ぐり盤、ねじ切り旋盤、フライス盤、タレット旋盤、さらにモータの登場による大量生産までの流れを紹介します。

図1:産業革命以降の近代的ものづくりの歴史
図1:産業革命以降の近代的ものづくりの歴史
産業革命は、ワットによって改良された蒸気機関によってもたらされました。しかし、蒸気機関に用いられるシリンダの加工精度の向上を背景として、蒸気機関そのものの性能が飛躍的に向上したことは、あまり知られていません。1774年、蒸気機関のシリンダを加工するために登場したのが、イギリスのジョン・ウィルキンソンが発明した中ぐり盤と呼ばれる工作機械でした。工作機械とは、工業製品の部品を加工するために必要不可欠な機械で、機械を産み出す母なる機械(mother machine)とも呼ばれます。

1800年、イギリスのヘンリー・モーズリーは、ねじを高精度に加工するために、送りねじ駆動による刃物台を備えたねじ切り旋盤を開発しました(図2)。送りねじで駆動される刃物台は、部品の加工形状を正確に再現できることから、多くの量産部品を製造する旋盤の原型となりました。

図2:ヘンリー・モーズリーのねじ切り旋盤
図2:ヘンリー・モーズリーのねじ切り旋盤

1818年、アメリカの発明家であるイーライ・ホイットニーにより、現在のフライス盤の原型となるフライス盤が開発されました(図3)。

図3:イーライ・ホイットニーのフライス盤(引用:ウィキペディア、Eli Whitney milling machine 1818)
図3:イーライ・ホイットニーのフライス盤(引用:ウィキペディア、Eli Whitney milling machine 1818

特にアメリカでは、銃やライフルの需要が増えたことから生産性向上の要求が高まり、複数の工具を取り付けられる刃物台(タレット)を備えたタレット旋盤が開発されました(図4)。工具交換の段取り替えが不要なタレットは、最新のNC旋盤やターニングセンタにも不可欠な自動工具交換装置です。NC工作機械については、次の章で詳しく説明します。

図4:19世紀以降に使用されたタレット旋盤
図4:19世紀以降に使用されたタレット旋盤

また、大量生産を効率よく行う支援技術として考案されたのが、工程分割と部品の互換性です。工程分割は、作業工程を分割して作業を単純化することで、流れ作業の実現につながりました。部品の互換性は、部品の精度が悪く組み立てられないという事態をなくすための、寸法公差や幾何公差による部品の精度管理につながりました。さらに、電動機(モータ)の登場によって、作業者がコンベヤに沿って流れ作業を行うライン生産が始まります。1900年頃には、T型フォード自動車の大量生産が行われ、量産効果によって自動車の価格が大幅に下がりました(図5)。

図5:1930年代アメリカ、フォード自動車の組み立てライン
図5:1930年代アメリカ、フォード自動車の組み立てライン

2. NC工作機械の登場

ここでは、NC工作機械の登場から、マシニングセンタやターニングセンタの開発までの流れを紹介します。世界最初のNC工作機械は、ヘリコプタのブレードなど、軍事航空機部品の加工を目的に開発され、1952年にマサチューセッツ工科大学(MIT)でNCフライス盤として紹介されました(図6)。NCとは、Numerical Controlの略で、数値制御を意味します。これは、ヘリコプタのブレードのような自由曲面を加工する工具の位置や経路を数値で指令する方式であり、複雑な形状が加工できるようになったことに加え、加工の自動化が可能になりました。NCフライス盤の情報を基に、日本でもNC工作機械の開発が進められ、1956年に東京工業大学でNC旋盤として紹介されました。

図6:1952年にMITで紹介されたNCフライス盤(左はNC装置、右はフライス盤を示す)(引用:公益社団法人 精密工学会、Precipedia)
図6:1952年にMITで紹介されたNCフライス盤(左はNC装置、右はフライス盤を示す)(引用:公益社団法人 精密工学会、Precipedia

その後、複数の工具を収納するマガジンとATC(Automatic Tool Changer:自動工具交換装置)をNCフライス盤に搭載したマシニングセンタが登場します(図7)。同様に、NC旋盤に、複数の工具を収納するタレットやATCを搭載したターニングセンタが開発されました。マシニングセンタやターニングセンタでは、複数の工具を自動交換しながら多種類の加工が行えることから、1台の機械で部品の自動加工が行えるようになりました。

図7:初期のマシニングセンタ(出典:株式会社牧野フライス製作所)
図7:初期のマシニングセンタ(出典:株式会社牧野フライス製作所)

3. APT(Automatically Programmed Tools)の開発

最後に、APT(Automatically Programmed Tools)の開発から、CAMの登場までの流れを説明します。NC工作機械の登場で、工具の位置や経路を指令すれば複雑な形状の加工ができるようになりました。ただし、1950年頃にはまだPCや電卓がないことから、自由曲面を加工する際に工具の位置や経路を計算する手段がありません。このため、電子計算機を使って工具位置や工具経路の計算を行うAPTがアメリカで開発され、加工のための工具の位置や経路を指令するNCプログラムの生成に使われるようになりました。また、このAPTに、加工条件の決定、切削工具の選択、加工手順の決定などの3つの機能を追加したEXAPT(EXtended Subset of APT)がドイツで開発されました。

その後、APTとEXAPTに関連する技術をベースに、CAM(Computer Aided Manufacturing)が開発されます。CAMの本来の意味は「ものづくりのためのさまざまな作業工程を支援するコンピュータソフトウェア」であるものの、現在では「部品の加工を指令するNCプログラムの作成を支援するコンピュータソフトウェア」がCAMと呼ばれています。APTやEXAPTとCAMの最大の違いは、バッチ処理を行うAPTやEXAPTでは、NCプログラムの誤りを処理の途中で発見できないのに対して、CAMは、グラフィカルな視覚的環境で対話式に作業を進められる点にあります。このため、CAMでは、NCプログラムの作成作業に要する時間と労力を大幅に削減できるようになりました。

いかがでしたか? 今回は、工業製品の品質と生産性の向上に大きく寄与するFAについて、ものづくりの歴史と工場自動化への経緯を紹介しました。次回は、今回でも触れたNC工作機械、さらに産業用ロボットの登場についてさらに詳しく解説します。お楽しみに!