人間特性を考慮したモノ・コトづくり:人間工学の基礎知識2

人間工学の基礎知識

更新日:2023年1月17日(初回投稿)
著者:自治医科大学 メディカルシミュレーションセンター 講師 前田 佳孝

前回、人間工学とは、人間中心のモノ・コトづくりを行う科学技術であると紹介しました。人間を中心にするということは、最初に人間そのものについて知っておく必要があります。今回は、人間工学が対象とするモノ・コトとは何か、さらに人間とモノ・コトづくりとの関わり、人間の基本的特性について解説します。

1. モノ・コトとは

人間工学は、人間を取り囲むさまざまなモノ・コトを、人間の特性と調和させる学問です。では、世の中ではどのようなモノ・コトが人間を取り囲んでいるのでしょうか。それを簡潔に表したものが、SHELモデルです(図1)。これはもともと、航空機の運行乗務員に関するヒューマンエラーの要因をまとめたものです。このSHELモデルは、人間工学が対象とするモノ・コトを理解することにも役立ちます。

図1:人間とそれを取り囲むモノ・コトの関係性(SHELモデル)(Hawkins, F.H., Human Factors in Flight. Routledge, London, 1987)に基づき作成
図1:人間とそれを取り囲むモノ・コトの関係性(SHELモデル)(Hawkins, F.H., Human Factors in Flight. Routledge, London, 1987)に基づき作成

・中心にあるLiveware(自分自身、当事者)

自分自身を表す。自分自身(人間)にはさまざまな特性、能力、限界がある。人間工学では、この人間特性を理解した上で、モノ・コトを設計する。

・Software(ソフトウェア)

人間が行う作業・活動の手順や、ルール、マニュアルなどをいう。

・Hardware(ハードウェア)

作業・活動のために人間が用いる道具、機械、システムなどをいう。

・Environment(環境)

作業・活動場所の明るさや騒音、気温といった周辺環境などをいう。

・下にあるLiveware(チームの他のメンバー、仲間)

作業・活動における人間同士のコミュニケーション、チームワークなどをいう。

中心のLiveware(自分自身、当事者)と周囲の要素の関係が悪ければ、モノの使いにくさや、作業・活動(コト)の行いにくさが生じます。結果として、エラーが起きて事故につながる、作業負荷が高まり健康を害する、製品やサービスが使いにくいために購買につながらない、といった諸問題が生じ得ます。なお、SHELモデルの各要素は波線で囲まれています。これは、真ん中のLivewareと周囲の要素との関係性が、常に変動していることを表しています。例えば、人間や機械の調子、周囲の環境は日々変動します。作業・活動の手順も、仕事内容の変化に伴って変わっていきます。

人間中心のモノ・コトづくりを行うことは、周囲の要素を中心のLivewareに調和させ、それら全体の関係性を最適に保ち続けることだといえます。そのためには、中心のLivewareが、どのようにして周囲の要素(S、H、E、L)と関わっているのか、そして、Livewareにはどのような特性があるのかについて知ることが重要です。

2. 人間はどのように「モノ・コト」と関わっているのか

人間がSHELモデルの周囲の要素と関わるプロセスを、図2で説明します。難しく述べると、(1)受容器(目、耳など)を通して周囲の状況を知覚し(知覚)、(2)その状況の理解や、これからなすべき行動の意思決定を行い(判断)、(3)判断したことを効果器(手、足など)によって実行します(動作)。

図2:人間が周囲の状況と関わるプロセス(小松原明哲、人にやさしいモノづくりの技術、丸善出版、2022、P.22)を改編して作成
図2:人間が周囲の状況と関わるプロセス(小松原明哲、人にやさしいモノづくりの技術、丸善出版、2022、P.22)を改編して作成

車の運転を例に、よりかみ砕いて説明します。

(1)知覚

車外の状況や、車の状態(スピードメータ、カーナビの表示)、同乗者の様子など、さまざまな状況やその変化を、受容器を通して把握します。受容器は、人間の場合は五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)が該当します。

(2)判断

知覚した情報をもとに、カーブのきつさ、他車との位置関係、現在地、車のスピード、目的地までの所要時間、酔いやすい同乗者の体調など、周囲の状況を理解します。そして、それらに基づき、次になすべき行動を意思決定します。なお、周囲の状況の適切な理解や意思決定には、知識や経験が求められます。この場合、自動車教習所で獲得した運転に関する知識、過去に目的地まで要した時間や道路状況に関する経験、同乗者の酔いやすさに関する経験などが該当します。

(3)動作

判断をしたら、効果器を使ってそれを実現します。人間の効果器には、外界に能動的な反応を行うための随意筋(自らの意思で動かせる筋肉)などが該当します。例えば、カーブの手前で減速するという行動をとるために「右足でブレーキペダルを踏む」、給油をするために「目でガソリンスタンドを探す」といった動作をします。手足の動き、視線の動き、声出し、表情など、さまざまな動作によって、人間は自分の意思を外界に伝え、実現します。

3. 考慮すべき人間特性

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