FR(フッ素樹脂)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、LCP(液晶ポリマー)、PAR(ポリアリレート):エンジニアリングプラスチックの基礎知識6

エンジニアリングプラスチックの基礎知識

更新日:2017年3月10日(初回投稿)
著者:安田ポリマーリサーチ研究所 所長 安田 武夫

前回は、汎用エンプラのPOM(ポリアセタール)とPBT(ポリブチレンテレフタレート)を説明しました。今回は、スーパーエンプラのFR(フッ素樹脂)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、LCP(液晶ポリマー)、PAR(ポリアリレート)の概要と用途を解説します。

1. FR(フッ素樹脂)

FR(フッ素樹脂)は、分子内にフッ素(F)を含む結晶性のスーパーエンプラです。1947年に米国のデュポン社が世界で初めてFRのPTEF(ポリテトラフルオロエチレン)を市販し、現在では8種類のFRが市場に出回っています。FRの特徴は、耐熱性、耐寒性、耐薬品性、難燃性、耐候性、摩擦・摩耗特性、電気特性などに優れていることです。これらの特徴を生かして、化学工業、半導体・液晶、自動車、産業機械、電気・電子部品、衣料、食品関連機器、建設・建築などの幅広い用途分野で使用されています(表1)。

表1:FR(フッ素樹脂)の用途例
分野 用途例
PTFE パッキン、ガスケット、バルブシート、軸受、電気部品、シールテープ、ネジシール用生テープ、チューブ、電線被覆、エナメル、ダイヤフラムベローズ、風車のドライベアリング、橋桁下スライディングパット、繊維(含油排水処理ろ過膜)
PFA シリコンウェハのキャリア、カートリッジフィルタ、継手、チューブ、ポンプライニング、電線被覆、耐食容器、医療用配管器具、配管バルブ、超音波流量計センサ、HIDランプ、フィルム
FEP 電線被覆、フィルム(変圧器の絶縁、栽培室、破裂板のカバー、お菓子の焼型)、ライニング、滑雪屋根
ETFE 電線被覆材 (コンピュータ機内配線など)、離型用フィルム、グリーンハウス用フィルム、各種ライニング・コーティング製品、自動車燃料用多層チューブのバリア層
PVDF バルブ本体、パイプ・ポンプなどの成形品、ライニング、航空機、ミサイルの接続電線、工業用制御電線など、マイクロフォン スピーカーの圧電素子、超音波探触子、塗料、釣糸
PCTFE 高圧用ガスケット、透明性配管やレベルゲージ、LNGタンカーの配管、バルブのシール材、 化学薬品、生物試料、医薬品の輸送バック、医療用器具、精密機械機具の包装フィルム
PVF 外装または内装建材、屋根表面材、太陽電池用バックシート

FR(フッ素樹脂)の用途代表例と採用理由

・燃料チューブ(自動車)

燃料チューブは、PA12(ポリアミド12)と接着性ETFE(テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体)の二層構造です。PA12だけではガソリンバリア性が不足するため、バリア性に優れたFR(フッ素樹脂)のETFEが使用されます。一般のETFEではPA12と接着しないため、接着性ETFEが使用されています。

・医療用配管器具(医療用器具)

医療用器具には多くのプラスチックが使用されています。この用途では、FR(フッ素樹脂)のPFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)の耐薬品性、生体適合性、衛生性(外部から汚染されない純粋性)、低摩擦性などが生かされています。

・シリコンウエハ・キャリア(半導体関連)

半導体製造プロセスで必要な、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製の器具です。シリコンウエハを搭載し、運搬や洗浄時に使用されます。耐熱性、耐薬品性、衛生性(外部から汚染されない純粋性)、強度、非粘着性などが生かされています。最近はシリコンウエハが大型化されたため、高強度のPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)やTPI(熱可塑性ポリイミド)なども使用されています。

・釣り糸(スポーツ・レジャー関連)

ユニークな用途です。釣り糸には、ナイロン(PA:ポリアミド)が広く使用されています。FR(フッ素樹脂)のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)は透明性が良好で、屈折率が水に近いことから水中では見えにくく、また比重が重く沈みやすいという特徴があり、ナイロンより優れています。

・太陽電池のバックシート(電気)

この用途では、FR(フッ素樹脂)のPVF(ポリフッ化ビニル)フィルムなどが使用されています。主な採用理由は、耐候性が抜群に優れていることです。

日本のFR(フッ素樹脂)の供給メーカー

日本のFR(フッ素樹脂)の供給メーカーは、ダイキン工業、三井デュポンフロロケミカル、旭硝子、クレハの5社です。他に数社が輸入販売をしています。

2. PPS(ポリフェニレンスルフィド)

PPS(ポリフェニレンスルフィド)は、フェニル基(C6H5-)と硫黄 Sから成る、結晶性のスーパーエンプラです。製造法の違いによって、架橋型、半架橋型、直鎖型の3種類に分類されます。

PPSは1973年に米国のフィリップス・ペトロリウム社(現ソルベイスペシャルティポリマーズ社)により、商業生産が開始されました。優れた耐熱性、耐薬品性を示し、機械特性(曲げ強度、引っ張り強度など)、難燃性、低吸水性、電気絶縁性、高周波特性などにも優れています。これらの特徴を生かして、自動車、電気・電子、機械などの広い分野で使用され、近年では、フィルムや繊維用途への市場開拓が進んでいます。

表2:PPS(ポリフェニレンスルフィド)の用途例
分野 用途例
自動車分野 ECUケース、圧力センサハウジング、EV・HEV用インバータ平滑用コンデンサケース、IPMハウジング、パワーモジュール、商用車用水ポンプインペラー、車載用モータ絶縁フィルム、オルタネーター部品、イグニッション部品、モータ用ブラッシュホルダー、ランプハウジングなど
電気・電子分野 パワーコネクタ、ビデオカメラハウジング、光ピックアップスライドベース、LEDランプソケット、SiCパワーモジュール、サーモスタット ベース、コネクタ、IC部品、コイルボビン、小型モータケース、軸受、パワーコネクタ、プロジェクタ部品
機械分野 熱水ポンプ部品ポンプ、産業用インバータ主回路一体端子台、大気圧センサ、プロジェクタ部品、バルブ、流量計のハウジングおよび内部部品、カメラ部品、複写機部品、ケミカル用ファン、ギアポンプギアなど
その他 フィルム(コンデンサなど)、繊維用途(バグフィルタ)、めっき製品など

PPS(ポリフェニレンスルフィド)の用途例と採用理由

・ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)ケース(自動車)

カーエレクトロニクス関連の、エンジンの燃料噴射量や噴射時間を決定する部品です。PBT(ポリブチレンテレフタレート)が使用されることもあります。ただし、耐熱性、耐薬品性などの要求の高い条件では、PPS(ポリフェニレンスルフィド)が使用されます。PPSの優れた電気特性、耐熱性、耐薬品性、寸法特性、成形性などが生かされています。

・IPM(Intelligent Power Module)ハウジング(自動車)

さまざまな電力用半導体に、駆動回路や自己保護機能を組み込んだモジュールで、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)などの電力制御用に使用されています。各種半導体からの発熱に耐えるPPS(ポリフェニレンスルフィド)がハウジングに使用され、PPSの優れた電気特性、機械的強度、寸法安定性、成形性などが生かされています。

・ビデオカメラハウジング(AV機器)

ビデオカメラ本体内部の発熱対策として、高熱伝導性の熱放散グレードが使用されています。PPS(ポリフェニレンスルフィド)の電気特性、耐熱性、寸法安定性なども採用理由です。

・SiC(炭化ケイ素)パワーモジュール(各種機器)

SiC系半導体は、次世代パワー半導体として注目を集め、産業機器、鉄道・車載機器用途で高いニーズがあります。PPS(ポリフェニレンスルフィド)の優れた電気特性、耐熱性、機械的強度などが生かされ、ハウジングに使用されています。このモジュールのPPSハウジングにおける耐熱性は200℃です。この半導体の特性をフルに発揮するには、さらなる耐熱性システムを必要とします。

・産業用インバータ主回路一体端子台(産業機械)

インバータは、直流電力から交流電力を電気的に生成する電源回路で、さまざまな産業機器に使用されています。PPS(ポリフェニレンスルフィド)は回路一体型端子台に使用されています。PPSの優れた電気特性、耐熱性、機械的強度などが生かされています。

日本のPPS(ポリフェニレンスルフィド)の供給メーカー

日本のPPS(ポリフェニレンスルフィド)の供給メーカーは、東レ、DIC、クレハ、東ソー、ポリプラスチックス、旭硝子、帝人、出光ライオンコンポジット、東洋紡の9社です。

3. LCP(液晶ポリマー)

LCP(液晶ポリマー)は、溶融時にネマチック液晶構造(構成分子が配向秩序を持つが、三次元的な位置秩序を持たない構造)を示す、熱可塑性プラスチックです。多くの化学構造を持つ共重合ポリエステル系スーパーエンプラであり、耐熱性の違いによって大きく3種類に分類されます。

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4. PAR(ポリアリレート)

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