インフラを巡る社会学的政策論~社会有機体説とまちづくり・くにづくり論~:土木計画学の基礎知識6

土木計画学の基礎知識

更新日:2023年1月26日(初回投稿)
著者:京都大学 大学院 都市社会工学専攻 教授 藤井 聡

前回は、土木計画の政治の側面について解説しました。続いて、社会について考えてみましょう。社会は、自らの状況がより良くなることを目指して、インフラを整備し、運用していく主体です。では、社会とは一体何なのでしょう。そして、社会にはどのような特徴があるのでしょうか。最終回となる今回は、この社会というものについての社会学的な議論を紹介します。

1. 社会についての生物学的な理解

インフラとは、より良い社会の実現を目指してつくられるものです。そして、そうしたインフラを作る主体もまた、その社会です。つまり、インフラとは、社会が自らの状況がより良くなることを目指して、自らが作り出すものだ、ということができます。

では、そのインフラ政策の主体であり、目的でもある社会とは、一体何なのでしょうか。この問いに対して、社会学(sociology)は「社会とは生き物である」という回答を用意しています。通常、生き物といえば動物や植物、そして人間といったものだと認識するのが一般的です。しかし、社会学では集団や組織、そして社会そのものを「生き物」、すなわち「有機体」と見なすのです。この想定は、一般的に「社会有機体説」(theory of social organism、しばしばオーガニズムと略される)と呼ばれています。

図1:社会有機体説
図1:社会有機体説

そもそも生命というものは、哲学的に、内的関係と外的関係との持続的な調整と定義されています。これは要するに、さまざまに変化し続ける環境(外的関係)に対応して、その個体の内側の状況(内的関係)が持続できるよう調整を図り続けるのが生命である、ということです。逆にいえば、環境の変化に対応できなくなる状態を「死」ということになります。

この哲学的な生命の定義に基づくと、この定義における持続的な調整が、いわゆる動物や植物だけでなく社会においても存在しています。ある集落を取り囲む環境がさまざまに変化した時、その集落は自らの存続のため、さまざまな対応を図ります。これはまさに、生命における持続的な調整であるため、その集落にも生命が宿っていると見なすことができます。

さて、社会の改善を目標とするインフラ政策の在り方を考える上で、以上に述べた「社会は有機体・生き物である」という認識を保つことは、さまざまな含意を持ちます。以下、その含意である、社会設計を回避する態度、インフラ政策の影響の多面性、インフラ政策の目的の3つについて説明します(図2)。

図2:社会有機体説の含意
図2:社会有機体説の含意

2. 社会設計を回避する態度

まず、最初の重要な含意、社会設計を回避する態度とは、土木計画が目指すべきは、社会を設計あるいは制御する方途を探ることではない、ということです。なぜなら、社会が生き物であるとするなら、生き物の活動を完全に設計したり制御したりすることが不能であるように、社会の設計や制御もまた、不能だからです。生き物に対して可能な働きかけは、あくまでも影響を与えるという範囲に留(とど)まるものであり、同様にインフラ政策においてなし得ることもまた、社会に影響を与えるという範囲に留(とど)まるものなのです。

例えば、どれだけ大きなスケールの道路や空港、都市を造ったところで、それを使いこなすのは一人ひとりの人間であり、そのまとまりとしての社会であるため、そうしたインフラは断じて、社会そのものを設計したり制御したりすることではありません。こうした議論は、大規模なインフラ政策に携わる計画者がしばしば陥る、「社会を設計しているのだ、制御しているのだ」という傲慢な態度を戒め、その誤りを正す上で極めて重要な論点となります。

3. インフラ政策による影響の多面性

2つ目の含意、インフラ政策の影響の多面性は、さまざまなことが複雑に絡み合っているということです。もしも、社会が機械システムであるとすれば、その振る舞いを数学モデルで表現することも可能です。同様に、特定の政策を行えば、いつも同じ結果が得られる、ということになります。それは、パソコンで同じ入力を行えば、常に同じ出力が出てくる、という話です。しかし、生き物の場合は、入力が全く同じでも、その反応はさまざまなものとなります。まさに「女心と秋の空」のように、生き物の反応は機械の反応とは全く別です。なおかつ、有機物システムは機械システムよりも極度に複雑なシステムであるため、一つの刺激の影響は、実にさまざまなものに及びます。「風が吹けば桶屋が儲かる」ということが起こりうるのです。

したがって、インフラ政策の対象が生き物だと捉えることで、インフラ政策の影響は、短期的で単純なものではなく、複雑で多様なものになる、ということが想定されます。例えば、図3は、高速道路や新幹線などの幹線交通網の整備がもたらす、多面的な社会学的な影響を示しています。経済学では、こうした交通インフラ投資は経済を活性化する、といった効果しか考慮せず、それ以外に想定されるさまざまな影響は全て無視されます。しかし、社会有機体説に基づく社会学を踏まえると、交通インフラ投資は、経済のみならず、人口分布や地域コミュニティの活力、さらには家族の在り方にまで影響がもたらされることになります。社会学的に考えれば、インフラ政策を行う場合、こうした多面的な影響を考慮することが(定性的であるにせよ)可能となります。

図3:幹線交通網整備が社会および家族、ならびに社会資本整備(土木施設整備)に及ぼす社会学的影響過程
図3:幹線交通網整備が社会および家族、ならびに社会資本整備(土木施設整備)に及ぼす社会学的影響過程

4. インフラ政策の目的

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5. プランニング組織の活力の必要性

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6. 日常的な社会有機体説における理解

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