インフラを巡る政治学的政策論~PI(パブリックインボルブメント)と合意の形成~:土木計画学の基礎知識5

土木計画学の基礎知識

更新日:2022年12月21日(初回投稿)
著者:京都大学 大学院 都市社会工学専攻 教授 藤井 聡

前回は、土木計画がマクロ経済にもたらす3つの効果(ストック効果・フロー効果・財政効果)を解説しました。巨大なインフラを作る土木計画は、調達する財源やプロジェクトの規模からしても、そのインフラのインパクトからしても、極めて広域的、長期的、総合的なものであり、必然的に政治のプロセスと密接でかつ不可分に関わってきます。今回は、そうした土木計画の政治の側面を取り上げます。

1. 政治によって推進されるインフラ政策

巨大なインフラを作る土木計画は、調達する財源やプロジェクトの規模、さらにそのインフラのインパクトからしても、極めて広域的、長期的、総合的なものです。そのため、必然的にその実施主体は、個人や民間企業ではなく、知事や市長、総理大臣、および彼らを中心とする政治的組織となります。つまり、地方レベルにおいては地方自治体が、全国レベルにおいては中央政府(内閣)といった行政組織が、その推進主体になるということです。もちろん、大きな電力会社やバス会社、鉄道会社などが、鉄道やダムなどの基礎インフラを作るというケースもあるものの、インフラと呼ばれるものの8~9割程度が、行政組織によって公共事業として進められています。

従って、その予算は議会(市議会、県議会、国会など)で審議・決定されるとともに、インフラの整備プロジェクトや維持管理の責任は、市長・知事・大臣(国交&総理)などが負うことになります。つまり、公共的な土木プロジェクトは基本的に、国家権力の一翼を担う行政権という国家権力により進められていきます。

2. 公衆の適切な関与の重要性

このように、インフラ政策は国防や防犯、教育といったさまざまな項目と同様に、政治項目の一つとして推進されるものです。なおかつ、さまざまな行政の中でも、とりわけ地域性を加味することが重要な行政であって、国民がその行政判断に何らかの形で関与することが重要になります。なぜなら、道路の整備にせよ、まち作りにせよ、全てのインフラは当該地域の環境の構造そのものを編さんするものであって、全国一律の税制やシステムを作るものとは別であるためです。そうした、地域環境の編さんについての行政を行う場合、当該の地域環境についての文化的、社会的、歴史的な知識、すなわちローカルナレッジが極めて重要な意味を持ちます。

そうしたローカルナレッジを最も豊富に持っているのは、地域の住民に他なりません。従って、インフラ政策は常に当該インフラの地域におけるローカルナレッジを、過不足なく反映しながら進めていくことが求められ、地域住民に何らかの関与を要請することが必要となっています。ここに、土木計画がいかにして公衆と関わるべきなのかという、政治的な問題を考えなければならない根源的な理由があります。

3. 公衆関与におけるメリットとデメリット

ただし、住民が行政に直接的な関与を持つことには、メリットばかりでなくデメリットもあります。これは、2000年以上にわたる政治学の議論の中で明らかにされています。土木計画=インフラ政策を、公衆関与を導入して推進しようとするならば、そのメリットとデメリットをしっかり認識した上で、適切な形で行っていくことが必要です。行政への公衆関与に関する主なメリットとデメリットを、表1に示します。

表1:直接民主制の長所と短所
表1:直接民主制の長所と短所

民主制には、民衆が直接政治的判断に参画する直接民主制と、民衆が政治的判断を下す人々(代議士、あるいは、議員)を選挙で選定する間接民主制があります。表1は、このうち直接民主制のメリットとデメリットをまとめたものとなります。簡潔に解説すると、次のようになります。

・メリット

人々が政治に参加することで政治の問題を真剣に考えるようになり、それを通して政治的判断が鍛えられていくという公衆の教育効果がある。ローカルナレッジをインフラ施策に反映させていくことができるという「行政の合理性の向上効果」がある。

・デメリット

専門知識のない大衆が行政に関わることで、かえって行政の質が低下してしまう「行政の合理性の低下効果」がある。

それ以外にも、合意形成が促進されると同時に、政府が暴走し行政権を濫用するという事態を抑止するメリットがある一方、多くの住民の参加を促すことで行政コストが肥大化し、住民に行政判断を丸投げすることで行政官の質が劣化していくというデメリットもあります。

4. 公衆関与の最大デメリット・多数者の専制

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5. パブリックインボルブメント(PI)とは

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