リスクの定量化と確率:地震リスクマネジメントの基礎知識2

地震リスクマネジメントの基礎知識

更新日:2017年2月24日(初回投稿)
著者:防衛大学校 システム工学群 建設環境工学科 教授 矢代 晴実

前回は、リスクの認識と、われわれを取り巻くリスクについて解説しました。工学的にリスクを取り扱う場合、リスクを定量化して、対応策を考える必要があります。今回は、リスクの定量化に必要な確率とリスクの考え方を説明します。

1. リスクを定量化するには?

前回解説したように、私たちの回りには、さまざまなリスクがあります。これらリスクは、将来確実に発生するかしないかの判断はできません。このように、確実に発生するかしないかの間には、必ず図1に示すようなグレーゾーンがあります。

図1:リスクの概念 

図1:リスクの概念 

このグレーゾーンが、リスクを表しています。このグレーゾーンがない場合は、確実に発生するかしないかのどちらかです。リスクマネジメントでは、リスクが発生しないところから、リスクが発生するところまでの、グレーゾーンでマネジメントを実施することになります。

地震リスクの場合、過去の地震発生は、古文書や地質調査に基づくデータ整備、阪神大震災以降に充実した地震計による地震観測網など、観測記録は多く蓄積されています。よって、中小規模の地震発生では、ある程度の統計的な傾向分析が可能です。しかし、過去に発生したことがないマグニチュード9のような巨大地震では、統計分析は不可能です。しかし、理学的な知見に基づき、過去の統計情報の少なさを補完して、その発生確率が推測されています。

地震による被害も、確率的に定量評価することが可能です。地震の規模や発生場所から、各地点で想定される地震動の強さは、統計的に算出可能です。また、建物の耐震性の違いにより、同じ地震動の強さでも倒壊率に差があることは、過去の地震被害から明らかです。地震によって倒壊した建物による被害などのリスクは、一定の推定誤差に基づいて、確率的に定量評価することが可能です。

このように、現実的に発生する可能性のある現象を、数値計算や数式を使って表すことを、モデリングと呼びます。モデリングすることにより、必ずしも統計情報が十分でない事象でも、その発生を確率的に記述することが可能となります。モデリングによるリスクの科学的な定量評価は、確率と影響度の組み合わせのようなリスクの定義により意思決定する場合には、有効な手法です。

2. リスクの確率論的表現

確率的な概念に基づき、リスクを定量評価することには、2つのメリットがあります。1つは、種類の違う災害を比較することが可能になります。例えば、ある施設が損壊する確率を、地震と台風などの異なる災害同士で比較することが可能になります。それは、各災害の経済的損失リスクを表現する場合、発生確率の情報がなければ比較はできません。100年に一度の頻度で発生する損失とリスクを定義すれば、比較が可能になります。2つ目は、どんなに低頻度、低確率であっても、確率がゼロではないことが明らかになります。すなわち、リスクを考えることは、どんなに小さな確率でも発生する可能性を考えることにつながります。もし、絶対に発生しない絶対安全であれば、それはリスクではありません。

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