自然災害リスクとは?:地震リスクマネジメントの基礎知識1

地震リスクマネジメントの基礎知識

更新日:2017年2月10日(初回投稿)
著者:防衛大学校 システム工学群 建設環境工学科 教授 矢代 晴実

日本列島は、4つのプレートがせめぎ合う境界にあり、多くの活断層があります。そのため、日本列島で生活する以上、地震と共存しなくてはいけません。ひとたび大地震が発生すると、建築物や工場・設備の被害だけでなく、人的被害や長期の操業停止など、企業活動に深刻な影響を与えます。そのため、企業はどの程度の地震に備え、どのような対策を取るかの意思決定をする必要があります。

この際、合理的な判断基準を考えることが、地震リスクマネジメントです。本連載では、8回にわたり、地震リスクマネジメントの基礎知識を解説します。第1回は、われわれを取り巻くリスクに関して解説します。

1. リスクとは?

リスクという言葉は、日常において頻繁に使われています。辞書で調べると、リスクは、危険、危険度、結果を予測できる度合い、予想通りにいかない可能性、保険で損害を受ける可能性と記されています。リスクには、めったに起こらないが、もし起こると大変なことになるという意味合いがあります。一般的に、人や組織はリスクがあると、前向きな活動を行いません。しかし、リスクを取らないと、より大きな利益は得られません。

具体的なリスクには、株や為替などの金融商品に係るリスク、がんなどの病気や、自動車・飛行機などの交通事故に関するリスク、火災や水害に関するリスク、環境汚染や放射性物質によるリスク、食べ物に関するリスクなどがあります。企業経営においては、法令違反やコンプライアンスについてのリスク、瑕疵(かし)や製品事故についてのリスク、異常気象や災害に関するリスク、戦争・テロや政変などに係るリスク、情報漏えいやシステムダウンに係るリスクがあります。これらのリスクは、確率や頻度などで表されることが多く、1人当たりの発生、1万人当たりの発生、1つの国当たりの発生といった単位で示されます。また、金融などの分野では、最初に設定した収益から、どの程度かい離するかを測るため、分散や標準偏差をリスクとして扱っています。

工学分野では、自然災害、事故や火災、環境問題などのリスクを扱うとき、リスクの度合いは、事象の発生確率と損害の大きさの積で定義されます。損害の大きさは、影響度や金銭価値の指標で定義します。この定義では、頻度が高く、損害の影響度が大きいほど、リスクは大きくなります。

このようにリスクは、分野により扱い方が異なります。リスクという言葉が用いられる際、定義を明確にして使われることはほとんどありません。一般的には、将来における不確かな損失とその影響として使われます。例えば、企業の取り巻くリスクは、以下の表1のように多岐にわたります。リスクは、時代とともに絶えず変化しています。

表1:企業のリスク(引用:深津嘉成、最近の企業危機事例に学ぶTRC EYE vol.26、東京海上日動リスクコンサルティング、2003年、P.2)
政治・経済・社会リスク 法律・制度の急激な変化 国際社会の圧力(外圧)
貿易制限・通商問題 戦争・内乱・クーデター
景気変動・経済危機 為替・金利変動
原料・資材の高騰 市場のニーズの変化
テロ・破壊活動・襲撃・占拠 インターネットにおける批判・中傷
マスコミにおける批判・中傷 ボイコット・不買運動
暴力団・総会屋などによる脅迫 風評  など
経営に関するリスク 知的財産権に関する紛争 監督官庁などに対する虚偽報告
環境規制強化 顧客からの賠償請求
環境賠償責任・環境規制違反 従業員からの賠償請求
環境汚染・油濁事故 株主代表訴訟
廃棄物処理・リサイクルにおける違反 デリバティブの失敗
製造物責任(PL) 与信管理の失敗・取引先(顧客)の倒産
リコール・欠陥製品 格付けの下落
差別(国籍・宗教・年齢・性) 株価の急激な変動
セクシャルハラスメント 新規事業・設備投資の失敗
労働争議・ストライキ 企業買収・合併・吸収の失敗
役員・社員による不正・不法行為 宣伝・広告の失敗
役員のスキャンダル 競合・顧客のグローバル化への対応失敗
社内不正(横領・贈賄・収賄) 過剰接待
集団離職 顧客対応の失敗
従業員の過労死・過労による自殺 製品開発の失敗
外国人不法就労 社内機密情報の漏えい
海外従業員の雇用調整 顧客・取引先情報の漏えい
海外駐在員・海外出張者の事故 取引先(顧客)の被災・事故
国内出張者の安全対策の失敗 納入業者・下請け業者の被災・事故・倒産
不正な利益供与 取引金融機関の被災・事故・倒産
独占禁止法違反・カルテル・談合 設備業者の被災・事故・倒産
契約紛争 経営層の執務不能
インサイダー取引 グループ会社の不祥事
プライバシー侵害 乱脈経営
粉飾決算 地域社会との関係悪化
巨額申告漏れ マスコミ対応の失敗  など
災害・事故などのリスク 地震・津波・噴火 台風・高潮
水災・洪水 竜巻・風災
落雷 豪雪
天候不良・異常気象 火災・爆発
停電 交通事故
航空機事故・列車事故 船舶事故
設備事故 労災事故
運搬中の事故 盗難
有害物質・危険物質の漏えい・バイオハザード ネットワークシステム(通信含む)の故障
コンピュータウィルスの感染 コンピュータシステムの故障
サイバーテロ・ハッキングによるデータの改ざん・搾取 コンピュータ・データの消滅・逸失  など

2. 自然災害のリスク

自然災害のリスクは、各種条件(発生場所、発生による被害を受ける施設、リスクを受ける主体など)の組み合わせにより、さまざまです。例えば、対象施設を上水道とし、自然災害ハザードを地震とします。事業主体者である自治体の水道部局などは、水供給停止リスク、水道管・浄水場などの損傷リスク、水道料金収入の減少リスクなどを想定します。リスクを受ける主体が住民の場合、生活水の停止による生活の困窮、医療機関などの使用水停止による機能停止、消防用水の停止による消火機能の低下などが想定されます。このリスクは、施設損壊などの物理的損失や、供給停止などによる間接的な損失のリスクにもなります。このように、リスクは条件の組み合わせにより、さまざまに変化します。自然災害リスクは、日本では好む好まざるにかかわらず、受け入れなければならないリスク、すなわち受動的リスクです。

日本の国土は、地震以外の洪水や高潮に対しても、極めてぜい弱です。例えば、日本の人口の30%強が、関東地方に住んでいます。荒川や隅田川流域周辺の低地にあたる沖積平野部では、標高が洪水時の河川水面よりも低い土地が大半を占めます。さらに、東京湾に近い江東区や墨田区などの低平デルタ地帯では、標高が海面下の土地が多くあります。この地帯には人口・資産が集積しており、水害が発生すると、人命が失われるだけでなく都市機能がまひし、その被害は甚大になると予測されます。特に海岸沿いの地盤の低い地域では津波、高潮被害や洪水により、復旧が長期間になると想定されています。

日本の災害(洪水、土砂災害、地震震動災害、地震液状化災害、地震津波災害)における国土面積・人口の暴露割合を示したものを表2に示します。この表より、日本の人口の70%以上、国土の30%以上が、災害の脅威にさらされていることが分かります。

表2:災害別の暴露面積・人口(引用:国土形成計画(全国計画)参考データ集、国交省国土政策局、2015年、P.26)
対象災害 災害リスク地域面積
(国土面積に対する割合)
災害リスク地域内人口(2010年)
(全人口に対する割合)
洪水 約20,000km2 (5.3%)  3,671万人  (28.6%)
土砂災害 約59,200km2 (15.7%) 613万人 (4.9%)
地震災害(振動災害) 約44,300km2 (11.7%) 5,888万人 (46.3%)
地震災害(液状化被害) 約48,700km² (12.9%) 5,743万人 (44.8%)
津波災害 約19,000km² (5.0%) 2,610万人 (20.4%)
5災害いずれか 約131,400km² (34.8%) 9,442万人 (73.7%)

いかがでしたか? 今回は、日本における自然災害リスクの概念を解説しました。次回は、リスクと確率を解説します。お楽しみに!