前回は、ダイカストの鋳造作業を解説しました。今回は、ダイカストの品質を取り上げます。ダイカストは、溶湯を高速・高圧で金型キャビティに充填します。これにより、他の鋳造法では得られない優れた組織と強度が得られます。その一方で、ダイカスト特有のさまざまな欠陥が発生するため、特性をよく理解した上での対策が必要です。
1. ダイカストの組織
ダイカストの組織は、表面層と内部で大きく異なります。表面層には、微細な組織が集まったチル層と呼ばれる領域が形成されます(図1)。チル層は、溶湯が急冷されることで生じる、緻密で非常に硬い領域です(ビッカース硬さ約110HV)。肉厚が薄く、金型温度が低いほど、厚いチル層が形成されます。
一方、内部は冷却速度が遅いため、粗大な組織が形成されます(図2)。鋳巣(いす)などの欠陥が多く、硬度の面でもチル層に劣ります(ビッカース硬さ85~90HV)。
ダイカストにとってチル層は大変重要です。表面のチル層が厚いほど、引張強さ、破断伸びが向上します(図3)。加工によってチル層がむやみに除去されると、機械的性質が悪化するため、注意が必要です。
2. ダイカストの強度
ダイカストの強度は、一般的に、ASTM(旧米国材料試験協会:American Society for Testing and Materials)規格で定められた試験片で、測定します。ASTM引張試験片は、平行部に鋳巣などの欠陥が極めて少ないため、理想的な引張特性が得られます。これに比べ、実際の製品の強度(実体強度)は低い値を示します。表1に、主なアルミニウム合金ダイカストの実体強度特性とASTM試験片による強度特性の比較を示します。引張強さはASTM試験片の約7割、伸びは約5割です。
JIS記号 | 引張強さ(MPa) | 伸び(%) | ||||
実体 | ASTM | 比率(%) | 実体 | ASTM | 比率(%) | |
ADC1 | 250 | 290 | 86 | 1.7 | 3.5 | 49 |
ADC3 | 279 | 320 | 87 | 2.7 | 3.5 | 77 |
ADC5 | 213 | 310 | 69 | >6.8 | 5.0 | - |
ADC6 | 266 | 280 | 95 | 6.4 | 10.0 | 64 |
ADC10 | 241 | 320 | 75 | 1.5 | 3.5 | 43 |
ADC12 | 228 | 310 | 73 | 1.4 | 3.5 | 40 |
ADC14 | 193 | 320 | 60 | 0.5 | <1.0 | >50 |
※比率=(実体/ASTM)×100
また、図4に、ダイカスト製品から切り出した引張試験片によって得られたADC12の、破断伸びと引張強さの関係を示します。
試験結果のうち、最も引張特性が高いものは、引張強さ320MPa、破断伸び4%です。最も低いものは、引張強さ150MPa、破断伸び0.5%です。ADC12の0.2%耐力は約150MPaなので、弾性変形から塑性変形に移行すると、ほとんど伸びずに破断したことが分かります。このように、ダイカストの実体強度に大きなばらつきが発生する原因は、組織に存在するさまざまな欠陥です。
3. ダイカストの欠陥
ダイカストは極めて短時間に凝固するため、さまざまな欠陥が発生し、それらは品質を阻害する要因となります。ダイカストに発生する欠陥は、寸法上の欠陥(表2)、外部欠陥(外観上の欠陥、表3)、内部欠陥(表4)に大別されます。
欠陥の種類 | 欠陥の特徴 |
欠け込み | ゲート、押湯部の除去時に起こる、鋳物の欠肉。 |
伸び尺違い | 縮み代の設定が悪く、寸法不良になるもの。 |
型逃げ | 金型、中子が逃げて余肉となるもの。 |
はぐみ | 分割面で鋳抜きピン・中子がずれたために、ダイカスト表面が食い違う。 |
変形 | 応力による変形やゆがみ。ダイカストの熱収縮時に生じる。 |
鋳バリ | 可動、固定分割面、中子分割面などに、溶湯が差し込んでできた駄肉。 |
欠陥の種類 | 欠陥の特徴 |
ヒートチェック傷 | ダイカスト表面にできる網目状の細かい凸部。金型のヒートチェックが転写されたもの。 |
未充填 | 溶湯がキャビティ内に完全に充填されずにできる欠肉部。 |
湯境 | 溶湯が合流する箇所で、完全に融合できずにできた境目。 |
湯じわ | 溶湯が融合しないで発生した、溝状の浅いしわ。 |
湯模様 | 溶湯の流れ方向の不規則な模様。平面あるいは緩やかな曲面上に現れる。 |
焼付き傷 | 金型との焼付きによるくぼみや粗面。ダイカストの鋳肌部に生じる。 |
型侵食傷 | 金型が侵食されてできた凹み部が、製品に転写されてできる傷や凸部。 |
かじり傷 | ダイカスト表面の引っかき傷。金型から押し出される際に生じる。 |
外びけ | 厚肉部のダイカスト表面に生じるくぼみ。 |
逆ばり | くさび形のくぼみ、あるいは鋳バリが食い込まれたもの。 入子・中子などのかん合部に、鋳バリが残ったまま鋳造すると生じる。 |
ふくれ | 製品表面に発生する、内部が空洞で山形形状の小さな突起。ブリスターともいう。 |
はがれ、めくれ | 製品の表面が薄くはがれた状態。一部が薄くはがれたものを、めくれという。 |
打こん | ダイカストの運搬中などに発生した打ち傷。 |
表面偏析 | 鋳肌の表面に溶質濃化融液が押し出されてできた偏析。逆偏析ともいう。 |
二重乗り | 製品表面にできる二重の薄い層。後から充填された溶湯が融着されずに生じる。 |
冷間割れ | 収縮応力に耐えられず生じる割れ。熱収縮時に生じる。 |
熱間割れ | 凝固中に発生した収縮応力に耐えられず、生じる割れ。凝固割れともいう。 |
ひけ割れ | 凝固収縮により生じた不規則な形の割れ。き裂部分に樹枝状晶が観察される。 |
ゲート部の巣 | ゲートを切断した際に、切断面に現れる空洞。 |
欠陥の種類 | 欠陥の特徴 |
ブローホール | 金型内の空気、離型剤などの分解ガスが、溶湯内に巻き込まれてできた、さまざまな大きさの穴。丸くて滑らかな壁面を持つ。 ガスホールや巻き込み巣ともいう。 |
すみひけ巣 | 凝固収縮による空洞。厚肉部や肉厚段差、立ち壁のあるすみ内側に生じる。 |
ひけ巣 | 凝固収縮による溶湯不足で厚肉部に生ずる空洞。不定型な形状で、内面にはデンドライトの突起が観察される。 |
ざく巣 | 微細な海綿状の空洞。凝固収縮による溶湯不足で厚肉部に生じる。 |
金属性介在物 | 母材と全く異なる成分の金属または金属間化合物の巻き込み。 |
マクロ偏析 | 高圧力により、最終凝固部に溶質元素が絞り出されてできる偏析。 |
破断チル層 | 射出スリーブ内で生成した凝固層が破砕され、ダイカスト内に巻き込まれたもの。 |
ドロス巻き込み | 溶湯表面に浮遊するドロス、溶湯処理剤の巻き込み。 |
酸化膜巻き込み | 金属酸化物の膜状介在物。局部的に組織を横切っていることがある。 |
ハードスポット | ダイカスト内に巻き込まれた硬い異物や介在物。切削性を阻害する。 |
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