1to1マーケティングにおける4Pの側面:顧客管理(CRM)の基礎知識5

顧客管理(CRM)の基礎知識

更新日:2021年8月26日(初回投稿)
著者:東京大学 大学院 経済学研究科 マネジメント専攻 経営講座 教授 阿部 誠

前回は、顧客生涯価値と顧客資産という2つの顧客価値について説明しました。今回は、1to1マーケティングにおける4Pの側面について解説します。4Pとは、プロダクト(Product)、プライス(Price)、プロモーション(Promotion)、プレイス(Place)の4つのPを指します。

1. プロダクト:消費者が製品開発を行う時代

プロダクトとは、製品を指し、サービスや情報なども含みます。ネットの普及以前は、製品・サービスの供給者と需要者の役割が明確に分かれており、消費者の意見を反映しながらも、製品開発はあくまで企業主導で進められるものでした。しかし、ネットによって消費者がより多くの知識を持つようになると、消費者に製品スペックの決定権、さらには製品開発までもがシフトするようなビジネスモデルが登場してきました(図1)。

図1:ウェブサイトを利用した、消費者と企業との新製品共同開発(引用:阿部誠、[図解]大学4年間のマーケティングが10時間でざっと学べる、KADOKAWA、2018)

図1:ウェブサイトを利用した、消費者と企業との新製品共同開発(引用:阿部誠、[図解]大学4年間のマーケティングが10時間でざっと学べる、KADOKAWA、2018)

基本的な形態としては、パソコンや旅行ツアーなどで見られる、製品のカスタマイゼーションがあります。これは、BTO(Build to Order)と呼ばれます。顧客は、製品個々の構成要素について、その仕様と価格をウェブサイト上で比較しながら、好みに合わせたスペックを構築できます。顧客にとってのメリットは、選択の自由度が増え、営業マンとの煩わしい対応が不要になるということであり、企業にとっては自動化による人件費の削減や、受注後に生産を行うため在庫リスクが低くなるなどのメリットがあります。

これを発展させた形態にプロシューマと呼ばれるものがあり、専門的な知識をもった消費者(professional + consumer)に、製品開発の一部を委譲します。ソフトウェアの分野では、リリース前のベータ版をリードユーザーに無償で配布することで、企業がフィードバックや製品改善のアイデアを得たり、Linux やウィキペディアのように全ての開発プロセスをユーザーが行ったりする事例があります。製品では、CUUSOO(旧称:空想生活)のように、開発してほしい商品のアイデアを消費者から募り、それが一定数以上の賛同が得られたら製造業者に製品開発・製造を委託するといった例があります。さらに、これを一般化したものが、事業やアイデアに対してネット上で資金を募るクラウド・ファンディングです。

2. プライス:価格を決める主体が消費者になる

プライスとは、価格のことを指し、製品やサービスを市場で販売する上での金銭的価値のことをいいます。CRMやイールド・マネジメント(顧客の支払い意欲に応じて販売価格と販売量をコントロールし収益を最大化させる手法)との併用で、価格を顧客・在庫・需要・時間によってリアルタイムで細かく調整することが可能になりました。ただし、アマゾンが新規顧客と既存顧客に異なる価格を提示したり、コカ・コーラが自販機の価格を天候によって変動させることを検討するときに物議をかもしたように、不公平感や非倫理感を伴うプライシングはネット上で炎上し、企業の大きなイメージダウンにつながります。顧客によって価格に差を持たせる場合は、ルールを明確にして公平感を保つことが大切です。

ネットは、顧客が大量の価格情報を収集・比較するツールとして有用です。さらに、その作業を自動化・効率化した価格比較ウェブサイトやショップボット(自動的にウェブ上を徘徊し、商品探しなどを行なう)の出現によって、消費者の価格感度は上昇傾向にあり、小売業者間の価格競争は激しさを増しています。小売業者にとっては、価格以外の側面でいかに差別化を図るかが、きわめて重要な課題となっています。

価格の決定権が顧客にシフトした例としては、プライスライン社に代表されるリバース(逆)オークションがあります。まず、顧客が宿泊の地域・日程・グレードを指定して希望価格を提示します。そして、供給側がそれを受諾した場合に具体的なホテル名が明かされ、キャンセル不可の予約が確定してクレジットカードで課金される仕組みになっています。また、決済手段として電子マネーやビットコインのような仮想通貨が広く普及し始めており、貨幣経済からシェアリング・エコノミーへと、ネットの力は物々交換のトレンドを加速させているようです。

3. プロモーション:「企業と消費者」「消費者と消費者」が双方向に結びつく

プロモーションとは、宣伝や、広報などの販売促進を指し、商品やサービスを、一般大衆に知ってもらおうとする活動のことをいいます。双方向性という特徴を備えたネットは、コミュニケーションという本来の目的に合致したメディアです。こうしたネットの特徴を生かすには、単方向のマスメディアを利用してターゲットへ広く浅くリーチし、消費者をウェブサイトに誘導するという、メディア間の相互作用を活用したクロスメディア戦略が重要になってきます。さらに、ウェブサイトでは情報を一方的に提供するだけでなく、双方向性を生かしてビジターの積極的な関与を促すことにより、顧客の心にエンゲージメントと呼ばれる絆(きずな)・結びつきを構築することも効果的です。

検索連動型広告では、どのキーワードに対してどの位置に広告(検索結果)が表示されるかが、自社のウェブサイトへの誘導やコンバージョン(ウェブサイト訪問者がとる特定のアクション、製品購入、資料請求など)に大きな影響を与えます。そのため、どのようなキーワード、およびその組み合わせに、いくらで入札するべきかを最適化するSEO(Search Engine Optimization)が有益です。また、複数の検索セッションからコンバージョンが発生した場合には、各キーワードの貢献率を算出するアトリビューション(ユーザーがコンバージョンに至る経路を確認し、それまでに経由したキーワード、広告などの貢献度を調べること)が、入札価格を決定する上で重要になります。

SNS、コミュニティ、ツイッターなど、消費者間に発生する口コミの巨大な影響力は、企業にとって吉とも凶ともなり得ます。ネットの口コミを利用した話題づくりの仕掛けであるバイラル・マーケティングやステルス・マーケティングは、大変効果的である半面、その拡散を管理することの難しさが挙げられます。効果が企業の意図しない方向に向かう場合や、宣伝やヤラセであることを隠すことで、消費者をだます行為だと批判される危険性もあります。また、不祥事などがネットに流出したような場合は、今まで以上に敏速な危機管理と情報開示が求められます。

4. プレイス:新たに登場した「情報」の中間業者

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