都市計画のマスタープラン:都市計画学の基礎知識4

都市計画学の基礎知識

更新日:2022年10月21日(初回投稿)
著者:東京大学 大学院 工学系研究科 准教授 中島 直人

前回、社会技術としての都市計画は、大きく「計画」と「実現手段」からなると説明しました。今回は、このうちの計画に当たる、都市計画マスタープランについて解説します。

1. 都市計画マスタープランとは

都市計画マスタープランとは、まちづくりの目標や将来像を明らかにし、その取り組みを進める際の基本的な方針を示し、土地利用や都市施設といった個別の都市計画の指針となる最も基本的な計画です。都市計画法第6条の2には、「都市計画区域については、都市計画に、当該都市計画区域の整備、開発及び保全の方針を定めるものとする」とあります。一方、第18条の2には、「市町村の都市計画に関する基本的な方針を定めるものとする」ともあります。現在の日本の都市計画において、計画と呼べるものは、都市計画法で規定されたこの2つの方針です。前者は、市町村にまたがることの多い都市計画区域ごとに定められます。都道府県が主体となって策定するもので、一般に「整・開・保(整備、開発、および保全の方針)」または「都市計画区域マスタープラン」(区域マス)と呼ばれています。後者は、条文のとおり市町村が策定するもので、こちらは「都市計画マスタープラン」(都市マス)と呼ばれています。

日本の都市計画は、もともと国家の事業として始まりました。しかし、次第に地方分権が進み、その内容の多くを市町村自身が決定できるようになっていきました。都道府県が定める「整・開・保」は、現在の都市計画法が制定された1968年にできた制度である一方、市町村が定める都市計画マスタープランの制度が定められたのは1992年のことでした。健康で文化的な都市生活と、機能的な都市活動の確保を目的とする都市計画は、本来は市町村が主体となって取り組むべきものです。つまり、計画として特に大事なのは、「市町村が策定する都市計画マスタープラン」です。

皆さんは、お住まいのまちの都市計画マスタープランを見たことがあるでしょうか。多くの自治体ウェブサイトなどでPDFをダウンロードできるので、ぜひ一度見てみましょう。都市計画マスタープランは1冊の冊子となっており、ページをめくると多くの図面が掲載されています。行政のさまざまな計画の中でも、都市計画マスタープランの特徴は、この図面に表れています。都市計画という、都市の物的環境に働きかける政策についての基本方針であるため、具体的な都市や地区のどこで何をやるのかが明記されている必要があります。では、都市計画マスタープランの、実際の中身を見ていきましょう。

2. 位置付け、現況と課題の整理

ここでは、筆者が最近改訂に関わった、神奈川県三浦市の三浦市都市計画マスタープラン(2020年12月策定)を例に挙げます。目次は以下になります。

  1. 序章:はじめに
  2. 第1章:現況と課題
  3. 第2章:都市づくりの目標
  4. 第3章:都市づくりの方針
  5. 第4章:実現に向けた取り組み

三浦市は、人口4万4千人ほどの小さな自治体で、都市計画マスタープランもシンプルです。ページをめくっていくと、まず都市計画マスタープランの位置付けの説明があります(図1)。先ほど触れた、県が策定する「整・開・保」や、市の総合計画に即していること、その他、国や県の計画・制度、市の関連計画などと整合がとれていることが重要になります。そして、この都市計画マスタープランをもとに、都市計画の実現が図られていきます。

図1:都市計画マスタープランの位置付け(引用:三浦市都市計画マスタープラン、P.4)
図1:都市計画マスタープランの位置付け(引用:三浦市都市計画マスタープラン、P.4

都市計画マスタープランの方針に入る前に、まず現況と課題についてページを割いています。ここでは、地理的条件、人口動態、産業、土地利用、都市基盤、防災といったテーマごとに、まちの現況が都市スケールの現況図を元に整理され、都市計画が対応すべき課題が抽出されています(図2)。この課題は、まちによって異なります。三浦市の場合は、(1)三浦市の持つ「資産」の継承、(2)人口減少・超高齢社会への対応、(3)交流人口による「地域の活力」の創造、(4)低・未利用地の利活用、(5)安全で安心な環境づくり、(6)都市を支える交通基盤の整備、(7)公共施設の老朽化と再編が挙げられています。

図2:土地利用の現況(引用:三浦市都市計画マスタープラン、P.27、平成28年度三浦市都市計画基礎調査より作成、)
図2:土地利用の現況(引用:三浦市都市計画マスタープラン、P.27、平成28年度三浦市都市計画基礎調査より作成、

3. 目標年次と都市づくりの目標

次に、この都市計画マスタープランの目標年次を見ていきます。三浦市の場合、改訂前のマスタープラン策定が2009年3月で、その際に設定した2025年を目標年次としています。都市計画マスタープランが扱う都市計画の中には、例えば、都市計画道路のように10年以上の時間をかけてようやく実現に向かうものもあります。一方で、都市計画が前提とする社会経済状況は、10年後のこともよく分からないというのが実情でしょう。こうしたことを勘案し、都市計画マスタープランはおおむね約20年後を目標年次とし、そこに至る都市計画の基本的な方針を定めます。ただし、三浦市の場合のように、目標年次に至る以前にも、PDCAサイクル(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善のサイクル)をまわし、状況の変化に応じて改訂を行っていきます。

では、20年後に向けて、どのような都市を目指すのでしょうか。都市づくりの基本理念は、大きな方向性を言葉で示すものです。ここでは「豊かな自然環境を活かし共生するまち、みうら」とあります。この理念は、全市民が共有できる必要があります。そのため、やや最大公約数的な表現に落ち着くことが多いものの、忘れてならないのは、この理念のもとで、具体的にどのような都市を目指すのかを、続く目標として将来都市構造で示すことです。

三浦市が掲げた都市づくりの目標は、(1)自然・産業・暮らしが共生する都市づくり、(2)人を惹きつける魅力がある都市づくり、(3)コンパクト・プラス・ネットワークの都市づくり、(4)安心・安全な都市づくりです。

(1)、(2)では、他のまちの真似をするのではなく、自分たちのまちの持っているものを資産として、生活に、観光に活かしていくことを目標とします。その上で、(3)では人口減少や高齢化に対応した都市像を提示し、さらに近年の大規模災害への備えを重点目標に据えています。これらを踏まえた将来の都市構造が、都市機能の集まる市民生活の拠点としての「都市核」、地域の特性に立脚した都市づくりを進める「地域交流ゾーン」、都市構造の骨格となる「都市軸」によって描かれています(図3)。

また、それらが都市構造の図だとすると、「地」としては、市街化するエリアと、緑や自然環境を保全するエリアとが色分けで示されています。以上のように、都市計画によってどのような都市を目指すのかが、文章ともに、この将来都市構造図で説明されています。

図3:将来都市構造図(引用:三浦市都市計画マスタープラン、P.56)
図3:将来都市構造図(引用:三浦市都市計画マスタープラン、P.56

4. 都市計画の具体的な方針

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5. マネジメント手段としての都市計画マスタープラン

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