都市計画とは:都市計画学の基礎知識1

都市計画学の基礎知識

更新日:2022年2月3日(初回投稿)
著者:東京大学 大学院 工学系研究科 准教授 中島 直人

皆さんは日常の中で、都市計画という言葉を耳にすることがあるでしょうか。行政、ないし建築関係の仕事に就いている方々であれば、仕事で都市計画に接することがあるはずです。本連載では、その都市計画とは一体何か、というテーマで解説します。都市計画を構成する「都市」も「計画」も、難しい言葉ではありません。都市計画=都市を計画することという理解で間違いではありません。しかし、もう少しその中身を構造的に理解できるように進めていきます。今回は、都市計画とは何かを紹介します。

1. Plan、ないしPlan-makingとしての都市計画

さて、今、たまたま手元にある「宮本長二郎著、穂積和夫絵、平城京 古代の都市計画と建築、草思社」という書籍から話を始めます。副題にあるとおり、古代の建築のみならず、都市計画についても扱った本です。では、この本で都市計画とは何を指しているでしょうか。ページをめくって都市計画という言葉と出会うのは、平城京の都市図が掲載されたページでしょう(図1)。平城宮と朱雀大路を中心に、東大寺や興福寺、元興寺までを含んだ碁盤目状の街区が整然と配置されたこの都市図は、おそらく歴史の授業などで目にしたことがあるのではないでしょうか。

図1:平城京の都市計画を説明するページ

図1:平城京の都市計画を説明するページ(出典:宮本長二郎著、穂積和夫絵、平城京 古代の都市計画と建築、草思社、1986)

平城京は中国の長安をモデルとして、710年に建設された都城(とじょう)です。ここでいう都市計画とは、この都市図を指しています。この都市図は、平城京という都城を建設する際の建設図面でもあります。このような図面=プロダクトを都市計画と呼ぶ際、それは英語でいうとPlanになります。建築設計図面において、平面図をやはりPlanと呼びます。ここでも同様に、「平面計画」として言及されています。つまり都市計画は、建築設計図面と同じ役割を持っているのです。ただ、対象を建築から都市へと拡大させただけです。

Planとしての都市計画は、古代に限らず、現代までさまざまに描かれてきました。実際に建設されたものから、実現されなかったもの、あるいはもともと実現を考えていなかったものまで、多様なPlanがあります。そうした中で、特に印象的で歴史にも残ったPlanに、「東京計画1960」というものがあります。

東京計画1960とは、世界的に著名な建築家、丹下健三(1913-2005)が、1961年の年始に発表した東京のPlanです。当時、東京への人口集中傾向が激化し、東京の市街地の拡大が避けられない中、とり得る選択肢は既存市街地の高層化か、市街地の郊外への拡張化のいずれかでした。東京の場合、実際の市街地の動向は後者を基本路線として進むことになりました。しかし、丹下健三は、このどちらでもない第三の選択肢をこのPlanで提示しました。それは、東京湾というフロンティアにおいて、人工的なメガストラクチャを建設し、そこに住居をはじめとする都市市街地を展開するというものでした。丹下は建築設計だけでなく、都市計画も行いました。さらに、このPlan発表の翌年、新設された東京大学工学部都市工学科の都市計画コースの教授となっています。

さて今、私は「丹下は都市計画も行った」と書きました。ここでの都市計画が意味しているのは、Planをつくるという行為のことです。英語でいうと、Plan-makingです。都市計画という言葉には、単に図面としてのPlanだけでなく、そのPlanをつくるという行為の意味も含まれているのです。オランダの建築家レム・クールハースらによる書籍「Project Japan」に収録された、丹下が自分のPlan、東京計画1960を眺めている印象的な写真は、Plan-makingとしての都市計画を端的に示しています(図2)。

図2:「東京計画1960」の大きな図面を眺める丹下健三の写真が掲載されたページ

図2:「東京計画1960」の大きな図面を眺める丹下健三の写真が掲載されたページ(出典:レム・クールハース、PROJECT JAPAN、Taschen America Llc、2019)

2. Planning=社会技術としての都市計画

ここまで、Plan、Plan-makingという都市計画の2つの意味について、例を挙げて述べてきました。しかし、実はこのあと解説しようとしている都市計画は、この2つのいずれでもありません。正確にいえば、この2つの意味を含んではいるものの、もっと広い意味を持っています。現代における都市計画は、PlanでもPlan-makingでもなく、Planningです。それは、計画図でも計画図づくりでもなく(あるいはどちらでもありますが)、社会技術です。社会技術としての都市計画こそが、本連載で解説していくべき対象です。

社会技術とは、一般に社会問題を解決するため、あるいは何らかの社会的価値を実現するために、自然科学と人文・社会科学の複数領域の知見を統合して構築される社会システム=制度を指します。大事なのは、「社会的価値の実現」というフレーズです。社会技術は、「何らかの社会的価値を実現させるもの」という観点から都市計画を改めて見直してみると、PlanもPlan-makingもそれ自体としては、社会的価値の実現とはまだ距離があります。実際の都市の改善や建設という段階を経なければ、人々にとって都市計画とは、単なる絵空事に過ぎないのです。それに対して、社会技術としての都市計画=Planningとは、計画(Plan)とその実現手段とを組み合わせたものです。この計画+実現手段という構成が、都市計画の要(かなめ)なのです。

実は、古代の平城京の都市計画において、実現手段は強く意識されることはなかったでしょう。というのも、当時の朝廷にとって必要な実現手段は単純なもので、Planを実現させる建設技術=土木工事に過ぎませんでした。その都城が建設される土地を買収するための手続きや、そこでの住民や市民参加のシステムは必要ありませんでした。丹下健三の「東京計画1960」は、現実の東京の市街地や都市計画の動向に対するアンチテーゼとしての役割を期待して描かれたものであり、そのコンセプトを純粋に伝えることが重要であって、実現手段としっかりと紐(ひも)づけられているわけではありませんでした。しかし、法治主義、国民主権、人権保障など、近代社会の基本原則の下における社会技術としての都市計画は、そうした原則に適(かな)う執行可能な実現手段を必要としたのです。

なお、補足しておかないといけない点は、都市計画の対象はあくまで物的環境(physical environment)であるということです。都市計画は、人々を取り巻く環境のうち、社会環境(social environment)を直接扱うことはありません。従って、都市の経済(産業、雇用、労働など)・財政計画(組織、財源など)や社会計画(人口、教育、保健、福祉、文化など)とは異なります。ただし、経済・財政、社会計画のいずれも、都市という物的な舞台で行われることなので、社会技術としての都市計画は当然、それらと整合しているのです。

3. 都市計画の基本的枠組み

社会技術としての都市計画の基本的枠組みは、図3のとおりです。大枠でいえば計画+実現手段ですが、計画をVisionとPlanに分けることがあります。

図3:都市計画の基本的枠組み

図3:都市計画の基本的枠組み(参考:中島直人 他、都市計画学 変化に対応したプランニング、学芸出版社、2018、P.30、図1-1に加筆)

・構想

構想とは、どのような背景や目的の下で、どのような物的環境を目指すのかについての表明です。

・計画

計画とは、構想を実現させるための具体的な実現手段を、都市のどこで、どのように適用あるいは実施するのかを提示することです。

構想と計画を一体として計画と呼ぶことも多いのです。構想がより概念的であり、計画がより即地的ではあるものの、実際には明確に分けられるものでもありません。

一方で、実現手段は、主に3つに分類されます。規制と事業、そしてその間にある誘導です。

・規制

規制とは、計画を間接的に実現させていく手法です。土地利用や建築形態、あるいは交通行動などについて定めたルールが、建設行為などが起きる際に適用され、徐々にある一定の方向に市街地を導いていくものです。日本の都市部においては、公共所有地よりも民間所有地の方が多く、特に三大都市圏では民間所有地は公共所有地の5倍の面積を有します。これらの民間所有地に対しては、次に説明する事業というよりも規制が重要となってきます。

・事業

事業とは、計画を直接的に実現させていく手法といっていいでしょう。道路や公園などの都市施設をつくる公共事業が代表的である一方、民間が実施する土地区画整理事業や都市再開発事業もあります。ある一定の期間内で竣工(しゅんこう)を迎えます。

・誘導

誘導とは、事業と規制の間に位置付けられます。主に、民間所有地での民間の建設行為に際して、ガイドラインや補助金などによって、計画を実現させる選択肢を自ら取るように導く手法です。

現代の都市計画は、このような計画と実現手段が構成する基本的枠組みをもって、実際の都市に働きかけています。

いかがでしたか? 今回は、都市計画とは何かについて説明しました。次回は、都市計画の歴史1として、アメリカやヨーロッパの先進国における都市計画の源流を紹介します。お楽しみに!