技術を補う経済的スキーム、カーボンクレジット:カーボンニュートラルの基礎知識(航空分野編)6

カーボンニュートラルの基礎知識(航空分野編)

更新日:2023年4月19日(初回投稿)
著者:東京大学名誉教授 未来ビジョンセンター 特任教授 鈴木 真二

前回は、最近大きな話題となっている低炭素次世代航空燃料SAFについて紹介しました。自動車のような電動推進が困難な旅客機では、SAFへの期待は大きいものの、大量の航空機燃料に匹敵するSAFを安価に入手することは容易ではありません。こうした課題を解決するために、排出権取引と呼ばれるカーボンクレジットが導入されました。カーボンクレジット自体は、日本国内でもJ-クレジット制度として実施されています。国際 航空分野では国連の専門機関であるICAO(国際民間航空機関)がその方式を定めています。連載最終回の今回は、ICAOの役割と、国際航空分野でのカーボンクレジットの内容を紹介します。

1. ICAOの役割

第1次世界大戦後、国家間飛行が実現し、これにより、他国の上空を飛行する際のルールが必要となりました。1919年、パリ国際航空条約が制定され、国は領土と領海上空の権利(領空主権)を持つことが定められました。領空主権以外にもさまざまな国際航空の規則を定めたパリ条約は、1922年に発効しました。しかし、当時の国際情勢下で批准した国は11カ国にすぎませんでした。

第2次世界大戦後、さらに国際航空が発達することを見越し、戦時中ではあったものの、1944年に新たな条約がシカゴ条約として締結されました。この条約に基づき、1947年に国連の専門機関としてICAO(国際民間航空機関)が設立され、現在193カ国が参加しています。本部はカナダのモントリオールにあり、「イカオ」、「アイカオ」、「アイケーオ」などと呼ばれています(図1)。

図1:カナダ、モントリオールのICAO本部とその旗
図1:カナダ、モントリオールのICAO本部とその旗

ICAOが国際航空におけるCO2削減の大きな役割を担うことになったのは、1997年開催の、第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)において採択された京都議定書が関係しています。京都議定書では、国ごとにCO2削減率を定めることが決められました。しかし、国際航空と国際海運に関しては、国ごとでは定められないため、国際航空に関してはICAOで削減計画を策定することが決まったのです。

それ以降、ICAOでは議論が重ねられ、2010年の第37回総会において、2020年以降、CO2排出を増加させないことが採択されました。それを、設計技術や運航技術、また低炭素次世代航空燃料SAFの導入により達成する必要があります。ただし、技術的手段のみでは達成できない場合のために、CORSIAと命名された経済的手法である排出権取引の導入が、2016年の第39回総会で決議されました。CORSIAについては次の章で概要を説明します。

ICAO総会は3年ごとに開催されます。2022年10月の第41回総会では、「2050年までに国際航空からのCO2排出量を実質ゼロにする」という、野心的な目標が採択されました。「実質ゼロ」ということは、航空機からのCO2排出をゼロにするのではなく、経済的手法であるCORSIAの使用も含めてという意味です。機体軽量化や空力抵抗削減などの設計技術、無駄のない運航方式、SAFの導入だけでは、CO2排出を完全にゼロにはできません。そのため、経済的手法であるCORSIAが重要であるといえます。

2. 国際航空における経済的CO2削減策CORSIA

CORSIAは、「国際民間航空のためのカーボンオフセットおよび削減スキーム(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)」の略です。カーボンオフセットとは、環境省によると以下のように説明されています。

「日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行い、どうしても排出される温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方です。イギリスを始めとした欧州、米国、豪州等での取組が活発であり、我が国でも民間での取組が拡がりつつあります。」(出典:環境省、カーボン・オフセット

そして、同じく環境省のカーボン・オフセット・ガイドラインによれば、カーボンオフセットを実施するためには、1. 知って(排出量の算定)、2. 減らして(削減努力の実施)、3.オフセット(埋め合わせ)の3ステップが必要とされています(図2)。

図2:カーボンオフセットを実施する3ステップ(出典:環境省、カーボン・オフセット・ガイドライン、平成29年改定、P.4)
図2:カーボンオフセットを実施する3ステップ(出典:環境省、カーボン・オフセット・ガイドライン、平成29年改定、P.4

CORSIAは、こうした方法を国際航空分野で適用するために作り出されたものです。カーボンオフセット自体は、環境問題への意識の高いヨーロッパにおいて考え出され、EUでは2005年から、発電所、製鉄所、石油精製、セメント工場などCO2排出の大きな施設を対象に、EU域内排出量取引制度(EU-ETS)を開始しました。また、EU域内の航空輸送のみならず、EUに運航するEU域外のエアラインへもカーボンオフセットを義務付ける動きがありました。こうした動きに反発したEU以外の各国は、ICAOに国際的なカーボンオフセット制度を求め、その結果、ICAOのCORSIAが制定されました。

3. ICAOが認めるカーボンクレジット

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4. CORSIAの仕組み

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