サステナブルな航空燃料SAF:カーボンニュートラルの基礎知識(航空分野編)5

カーボンニュートラルの基礎知識(航空分野編)

更新日:2022年12月27日(初回投稿)
著者:東京大学名誉教授 未来ビジョンセンター 特任教授 鈴木 真二

前回は、航空機の燃費改善に向けたNASAの新しい機体設計を紹介しました。現在の旅客機と大きく異なる設計が実用化されるには、かなり時間がかかりそうです。そこで、より短期的にCO2削減が可能な技術として、バイオ燃料などの次世代ジェット燃料が期待されています。今回は、SAFと呼ばれる次世代ジェット燃料の技術を紹介します。

1. 映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」が現実となるか

1989年に公開されたハリウッド映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」では、30年後の未来である2015年に、ごみを燃料として空中を飛行する空飛ぶ自動車デロリアンが登場しました。昨今、植物由来のごみからジェット燃料を生成する技術が、航空のCO2を削減するとして、実際に期待されています。バック・トゥ・ザ・フューチャーが現実となろうとしているのです。

植物由来の原材料からジェット燃料を生成することで、なぜ航空機から排出されるCO2が削減されるのでしょうか? 植物から生成されたジェット燃料も、ジェットエンジンで燃焼後にCO2を排出しています。これは、石油から精製されたケロシンを主とするジェット燃料と同じです。ただし、大気中のCO2を吸収し、光合成により生育した植物を燃料とすることで、トータルとして見るとCO2の削減につながります。植物由来のジェット燃料は、この点が評価されています。

石油は、太古の植物や藻が堆積して作られたと考えられています。つまり、石油を燃焼させることで、太古の大気中のCO2が、現在の大気中に放出されているといえます。しかし、植物から生成したジェット燃料の場合、これを燃焼させても、生成などに放出されたCO2を除けば、CO2が光合成による吸収と燃焼による排出で循環するだけなので、トータルとしてCO2は増加しないといえます(図1)。

図1:石油由来のジェット燃料と、CO<sub>2</sub>削減効果のある植物由来のジェット燃料(参考:AEFウェブサイト、Aviation Biofuel、P.4-5)
図1:石油由来のジェット燃料と、CO2削減効果のある植物由来のジェット燃料(参考:AEFウェブサイト、Aviation Biofuel、P.4-5

しかし、植物とはいえ、トウモロコシなどは食物として利用されるので、大量に食物性植物を燃料にすることは食料危機をもたらしかねません。そのため、食用にはならない植物や、藻類、廃材などからジェット燃料を生成する技術が脚光を浴びています。航空の世界では、これをSAF(Sustainable Aviation Fuels:持続可能航空燃料)と呼びます。

2. 第2次世界大戦前のドイツで開発されたSAFの生成技術FT合成法

SAFの生成技術は、何種類か存在します。その一つであるFT合成法は、第2次世界大戦中のドイツで確立されました。1920年代、ドイツのカイザー・ウィルヘルム研究所において、フランツ・フィッシャーとハンス・トロプシュによって開発された技術で、2人の名を取って、フィッシャー・トロプシュ法(FT法)と呼ばれます。

FT合成法は、石油の輸入が困難になった場合に備えて、豊富に採掘可能な石炭から液体燃料を得るための技術です。150~300°Cの温度下で金属触媒を使用し、一酸化炭素と水素から液体炭化水素を製造します。第2次世界大戦下のドイツや日本で、実際に石油の代替燃料製造法として利用されました。

第2次世界大戦後、多数のドイツ人研究者や技術者がアメリカに移管され(ペーパークリップ作戦)、FT合成法は、アメリカの合成液体燃料計画に利用されました。アメリカでは、FT合成により、石炭とオイルシェール(高粘度の重質油を含む砂、ないし砂質岩)から合成液体燃料を製造する技術は、1972年のオイルショックによる石油価格高騰の際、注目を集めました。ただし、1980年代以降は、石油との競合が激しくなり、合成液体燃料計画は廃止されました。

第2次世界大戦後、FT合成による合成液体燃料が産業化されたのは、アパルトヘイト政策による世界的な孤立により、石油の輸入が困難となった南アフリカ共和国でした。同国のサソール社は、石炭と天然ガスからFT合成による合成液体燃料製造の技術開発を進め、現在では、合成液体燃料以外の単価の高い化学製品を製造しています。

南アフリカ以外でFT合成の産業化が進んでいるのは、天然ガスの豊富なカタールや、マレーシアなど一部の国に限られていました。しかし、近年では、カーボンニュートラルを実現するために、石炭や天然ガスではなく、植物由来のバイオマスを原料としたFT合成法が注目されています(図2)。

図2:オーストラリアのFT合成によるガス化工場(引用:ウィキペディア、FT過程)
図2:オーストラリアのFT合成によるガス化工場(引用:ウィキペディア、FT過程

3. 持続可能な航空燃料SAF

石炭や天然ガスからFT合成した液体燃料が、石油の代替燃料となるので、それ自体がカーボンニュートラルに貢献できるわけではありません。バイオマスを原料とした場合、どの程度、CO2削減効果があるかを明確にする必要があります。また、航空機燃料として使用するためには厳しい安全基準をパスする必要があります。

石油系のジェット燃料は、軽油に近い成分を持ちます。その特性は、ASTM D1655という規格に準拠することが求められます。ASTMは、アメリカに拠点を置く民間標準化団体です。バイオジェット燃料に関しては、ASTM D7566という規格が定められています。バイオジェット燃料は、組成が石油系のジェット燃料とは完全には一致せず、その製造量も限られているため、石油系のジェット燃料に10~50%を混ぜて使用するドロップイン燃料が規定されています。

現在、ASTM D7655では、表1のように、7種類のバイオジェット燃料が認められ、FT合成を使用するものはAnnex 1に分類されています。これは、木質バイオマスや、都市ごみなどをガス化しFT合成により燃料化したもので、こうしたFT合成燃料(FT-SPK)は、50%までのドロップインが認められています。

表1:ASTM D7655で認証されたSAF
表1:ASTM D7655で認証されたSAF

アメリカでFT-SPKの商業化を行うFulcrum BioEnergy社は、2022年にネバダ州リノ近郊の廃棄物燃料変換プラントで操業を開始し、日本航空(JAL)や丸紅も出資を行っています。日本では、JERA、三菱重工、東洋エンジニアリングなどが、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)事業において、試験プラントでの木質バイオマスによる代替航空燃料の生成に成功しています。この技術は、ASTMの適合取得後、2021年6月には、JALの商用フライトに試験的にドロップインされました。このように、FT合成は確立された技術ではあるものの、バイオマスのガス化技術は、商用化に向けた技術開発課題といえます。

FT合成法には、バイオマス以外に、工場排ガスや空中からCO2を回収し、自然再生電力による水の電気分解から水素を得て、ジェット燃料を製造するプロセスも含まれています。これは、パワー・ツー・リキッド(PtL:Power to Liquid、自動車業界ではe-Fuel)とも呼ばれ、バイオマスの供給量にはやはり限界があるため、近年、注目されています。こうした方法の課題は、価格です。ドイツの環境保護団体atmosfairは、ドイツ北部に、北海の風力発電を用いた量産プラントを世界で初めて設置し、航空会社のルフトハンザ航空に提供することを、2021年に公表しました。

4. FT合成以外にも製造される航空燃料SAF

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