国際航空のCO2削減計画:カーボンニュートラルの基礎知識(航空分野編)1

カーボンニュートラルの基礎知識(航空分野編)

更新日:2022年3月29日(初回投稿)
著者:東京大学名誉教授 未来ビジョンセンター 特任教授 鈴木 真二

航空機が国際運航で排出するCO2は、人類の活動におけるCO2排出の約2%といわれています。しかし、上空に直接的にCO2を放出し、その利用量は増加する傾向にあります。そのため、航空機分野でも、国際的なCO2削減の実施が進められています。ただし、自動車分野における電動化のような明確な方法はありません。空を飛ぶという極限的な技術を達成した航空機にとって、その技術を変更するのは容易ではありません。本連載では、航空分野におけるカーボンニュートラルの方法を基礎から整理して解説します。第1回は、国連の専門機関であるICAO(国際民間航空機関)におけるCO2削減計画を取り上げます。

1. CO2削減に向けた国際協力の動き

近年、地球温暖化に対する世界的な関心が高まっています。1992年、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された、環境と開発に関する国際連合会議(UNCED:United Nations Conference on Environment and Development)において、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC:United Nations Framework Convention on Climate Change)が定められ、1994年3月21日に発効されました。その後、この条約の交渉のために、気候変動枠組条約締約国会議(COP:Conference of the Parties)が開催されています。2021年に、イギリスのグラスゴーで開催されたCOP26は、コロナ禍という難しい状況ではありながらCOP史上最大の約4万人が参加し、大きな話題となりました。

・京都議定書からパリ協定へ

COPで採択された地球温暖化対策の目標として代表的なものに、京都議定書とパリ協定があります(表1)。パリ協定は京都議定書を引き継ぐものとして成立しました。

表1:京都議定書とパリ協定
  京都議定書 パリ協定
参加国 先進国のみ 世界各国
期間 2020年まで 2020年以降
義務 目標の達成 目標作成・提出

CO2削減のための最初の国際合意は、1997年、京都で開催された第3回COP会議における京都議定書でした。ここでは、参加した先進国全体に対して「温室効果ガスを2008年から2012年の間に、1990年比で約5%削減すること」を要求し、国ごとの目標も定め、日本は6%の削減としました。京都議定書は、国際社会が協力して温暖化対策に取り組む大きな一歩だったといえます。一方で、途上国に対して削減義務を求めるには至りませんでした。産業革命以後、温室効果ガスを出し続けた先進国が最初に対策をすべきという考え方があったためです。

また、京都議定書の発効までの道のりも容易ではありませんでした。7%の削減を約束した先進国の代表ともいえるアメリカが、2001年に離脱を表明したのです。その後、2004年にロシアが京都議定書を批准したことで、2005年に京都議定書はようやく発効に至りました。

京都議定書が求めた削減の期限は当初2012年でした。そのため、その後の目標を定める必要に迫られ、その際には、先進国だけでなく、中国やインドなどの途上国に対する削減目標も定めるべきという声が高まりました。ただし、アメリカが離脱した状態での議論は難航を極め、ポスト京都議定書では第二期が2020年までとなりました。2020年以降の新たな合意は2015年開催のCOP21において、パリ協定として成立しました。

パリ協定は、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2°Cより十分低く抑え、1.5°Cに抑える努力を追求することを目標としています。こうした定量的な目標の設定には、1988年に設置された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on ClimatenChange)が、数年おきに世界中の数千人の専門家の科学的知見を集約した評価報告書(AR)を発行してきたことが背景にあります。

2018年のIPCC報告書では、産業革命後の人間活動により約1°Cの温度上昇があり、このままでは2050年に約4°Cの気温上昇があると予測されました。パリ協定における2°Cの上昇に抑えるには、相当の努力が求められます。それを確実にするために5年ごとの目標の見直しが組み込まれ、それがCOP26で議論されました。

2. 国際航空のCO2削減の扱い

京都議定書やパリ協定では、国ごとに地球温暖化対策の目標が定められています。一方、国際航空運輸は、国際海運と同様に国際的な移動により排出ガスが発生するため、国ごとの目標設定は困難といえます。そのため、国際航空と海運は、国ごとの削減対象の範囲外とされ、国際航空に関しては、国連の専門機関であるICAO(International Civil AviationOrganization:国際民間航空機関)により取り組まれることが、京都議定書策定の際に合意されました。

京都議定書以来10年超の議論を経て、2010年ICAO総会決議でグローバル削減目標が合意されました。グローバル削減目標とは、国際航空の経済的成長を阻害しないこと、各国に個別の排出削減責務を割り当てないことを前提に2050年まで燃料効率を毎年2%改善すること、2020年以降温室効果ガスの排出を増加させないこと(CNG2020:Carbon Neutral Growth 2020)を意味します。しかもこの目標で注目すべきは、先進国のみならず、途上国も含めたグローバルな目標であることでした。ICAOでは、航空安全の国際基準を策定する際に、先進国、途上国の区別を行わない文化があり、地球温暖化防止にも平等な取り組みが受け入れられたといえます。

3. 航空機によるCO2排出の実態

国連の気候変動政府間パネル(IPCC)が2007年に発表した第4次報告書において、航空分野が人類のCO2排出に占める割合は、約2%であると示されています(図1)。

図1:全世界の人工的なCO2排出の割合

図1:全世界の人工的なCO2排出の割合(参考:IATA Technology Roadmap、4th Edition、June 2013、P.6)をもとに作成

一方で、航空旅客輸送量をRPK(Revenue Passenger Kilometers:各有償旅客が搭乗し、飛行した距離の合計)で示すと、世界規模の戦争や同時多発テロ、経済危機などによる一時的な落ち込みはあるものの、年率約5%で継続的に増加しています(図2)。このような成長は、環境への影響という視点では課題といえます。

図2:航空旅客輸送量の年次変化

図2:航空旅客輸送量の年次変化(参考:ICAO UNITING AVIATION、World Aviation and the World Economy、The world aviation 1950 to 2012)をもとに作成

IPCCは、2050年までに航空のCO2排出量は3%に拡大すると予測しています。そのためにも、効果的な排出量の削減策が求められます。一方で、2020年からの新型コロナウィルスの世界的なまん延により、航空旅客輸送量は大きな落ち込みを記録しました。これに関しては、別の機会に触れたいと思います。

燃料消費量の削減は、航空機の運航コストに大きく影響します。平均的な航空会社の運航コストの3分の1以上が燃料費であるといわれています。そのため、航空業界は、燃費改善に意欲的に取り組んできました。

燃費改善の大きな要因は、ジェットエンジンの改良と技術革新にありました。初期のジェットエンジンは、ジェット排気(図3右上図の赤い流れ)で推力を得るターボジェットという形式でした。その後、エンジン前部のファンによる空気の加速(図3右上図のピンクの流れ)も利用するターボファンという形式に変化しました。ターボファンエンジンは、燃費を改善するとともに、低騒音化も実現しました。さらにファンを大型化したジェットエンジンが開発され、旅客機の燃費、騒音の大幅な改善、運航コストの削減にも寄与しました。

図3:ジェットエンジンの技術革新により改善された燃料消費率

図3:ジェットエンジンの技術革新により改善された燃料消費率(参考:NASA、The Promise and Challenges of Ultra High Bypass Ratio Engine Technology and Integration)をもとに作成

図4の右下がりのグラフ(100トンキロ当たりの燃料消費量)は、1990年代からの燃料効率を示しています。20年間で64%改善していることが分かります。ただし、旅客輸送量は、年5%の割合で増加しているため、CO2排出量は同図の右上がりの実線グラフ(CO2排出量)が示すように、20年間で1.6倍近く増加しています。ただし、1990年の燃料効率がそのまま維持されたとするとCO2排出量は同図の破線グラフ(1990年の技術レベルでのCO2排出量)となり、20年で2.5倍も増加したことになります。つまり、技術の進歩により、20年間で約41億トンのCO2排出を回避したともいえます。

図4:1990年以降の民間航空会社の燃料効率改善状況とCO2排出量(百万トン)

図4:1990年以降の民間航空会社の燃料効率改善状況とCO2排出量(百万トン)(参考:IATA Technology Roadmap、4th Edition、June 2013、P.8)をもとに作成

4. ICAOのCO2削減目標

このようなデータをもとに、ICAOは2010年の第37回総会において、国ごとの削減目標を割り当てないことを前提に、2050年までに燃料効率を毎年2%ずつ改善し、2020年以降、温室効果ガスの排出を増加させないこと(CNG2020:Carbon Neutral Growth 2020)を合意しました。

国際航空分野における、主な温室効果ガス削減対策は、新技術の導入、運航方式の改善、代替燃料の活用、経済的手法の導入の4つの柱で成り立つと認識されています。

1:新技術の導入

燃費効率の高い機材を開発し、従来機に置き換えること。

2:運航方式の改善

航空管制方式の高度化により、排出ガスを低減できる航空交通管理方式を実現すること。

3:代替燃料の活用

温室効果ガス排出量を削減できるバイオ燃料などの代替燃料を使用すること。

4:経済的手法の導入

排出量に見合った温室効果ガスの削減活動や、排出量取引などを導入すること。

1:新技術の導入および、2:運航方式の改善は、各国がこれまでも実施し、今後も実施していく方策です。3:代替燃料の活用に関しては、ICAOや各国でさまざまな代替燃料の研究開発、およびその導入に向けた取り組みが進められているため、その方針は、ある意味明確でした。一方、4:経済的手法の導入は新たな取り組みであり、今後の検討が決議されたという状況でした。

経済的手法の導入に関しては、地域ごとに導入しうるフレームワークと、全世界で共通に実行するグローバルスキームに関する議論を巻き起こしました。フレームワークに関しては、ヨーロッパ各国がEU-ETS(European Union Emissions Trading System:欧州連合域内排出量取引制度)を実施することを既に表明していました。EU-ETSは、EU域内の二酸化炭素大量排出者は、自身のCO2排出量を計測し、毎年その量を報告し、排出許容量をいったん政府に返上することを義務付ける制度です。航空の場合、EU外からEU域内に飛行する航空会社にも、それを義務付けようとしました。そのため、EU以外の各国が反発し、ICAOにグローバルスキームを採用するように働きかけました。

事実、排出量取引のような経済的手法は、ICAOが2020年以降、温室効果ガス排出を増加させないとした宣言を達成するには不可欠と考えられました。図5は、ATAGという航空業界の国際的なコンソシアムが、2013年に発表した資料によるものです。航空機の技術、運航技術、空港などインフラ技術による改善は線形に増加するものの、バイオ燃料など代替燃料はその導入に時間がかかるので、2020年以降のCO2排出増を抑えるには、経済的手法が不可欠であることを示しています。

図5:国際航空のCO2削減計画概念図(をもとに作成

図5:国際航空のCO2削減計画概念図(参考:飯塚秋成・鈴木真二、国際民間航空と地球環境問題~国際民間航空機関(ICAO)第38回総会決議~、航空宇宙学会誌、2015年)をもとに作成

議論の結果、2013年のICAO総会において、経済的手法をグローバルスキームとして2016年の総会に向けて具体化することが合意されました。この合意を受け、欧州委員会(EU)はEU-ETSをヨーロッパ域内の航空機に排出ガスのみを対象とする改正案を発表し、ICAOの方針との整合を目指しました。

ICAO総会での方針は、ICAOに設置された航空環境保護委員会(CAEP:Committee on Aviation Environmental Protection)ワーキンググループ3においてCO2排出計算方法や基準値の議論が行われ、6年間に及ぶ政府間の交渉を経て、2016年、ついに具体的方針が示され、第39回ICAO総会で合意を得るに至りました。支持を受けた後、2017年3月、その方針はICAO理事会において採択されました。

その合意とは、今後開発される航空機のCO2排出基準を新たに設定するものと、経済的手法にCORSIAと呼ばれる新たなスキームを導入することにありました。CORSIAは仕組みが複雑なので、今後詳しく解説します。ここでは新規開発される機材のCO2排出基準について解説します。

この新しいCO2排出基準は、飛行距離当たりの燃料消費量を最大機体離陸重量で修正を行うもので、図6右下のグラフのように定義されます。点線で示す旧式な機体のCO2排出参考値に対して、新規設計の機体(最初の型式証明の申請が2020年以降の機体)と、設計変更を行う機体(最初の設計変更の申請が2023年以降の機体)に関して、CO2排出基準が適用されます。また、製造を継続中の機体に関しても、耐空証明(航空機の強度・構造・性能が安全性および環境保全のための技術上の基準に適合するかを検査し、その基準に適合していることを認める証明)の発行が2028年以降のものに関しては新しいCO2排出基準が適用され、これを満たさない場合は、運航できなくなります。

図6:新たなCO2排出基準の導入

図6:新たなCO2排出基準の導入(引用:国土交通省航空局、航空分野におけるCO2削減の取組状況、令和3年4月)をもとに作成

さらにICAOは、今後の技術開発状況を踏まえて、CO2排出基準自体を見直すことを表明しています。こうした基準の導入により、旧式な機体は、CO2排出の少ない、新しい機体に置き換えられます。また、新たに導入する機体に関しても、新しいCO2排出基準を満たす機体とすることで、CO2排出を確実に削減しようとしているといえます。日本では、この新しいCO2排出基準は2019年4月より導入されました。

いかがでしたか? 今回は、国際航空に関するCO2削減の検討の歴史を振り返りました。国際航空に利用される旅客機は、年々燃費性能が向上しているものの、国際的な航空旅客輸送量はそれを上回り増加するため、より積極的なCO2削減目標の設定が必要でした。そのため、ICAOを中心に、国際的な削減目標と、それを達成するための方法が検討されてきました。こうした背景は、2020年に本格化した新型コロナウィルス感染拡大で大きく変わったのは事実です。しかし、カーボンニュートラルを目指す方向性に変化はありません。次回以降は、航空機における個々のCO2削減技術として、機体技術の開発を解説します。お楽しみに!

参考文献
・中村裕子・鈴木真二、ICAOの航空機CO2排出基準、日本航空宇宙学会誌、66巻5号、2018年
・飯塚秋成・鈴木真二、国際民間航空と地球環境問題~国際民間航空機関(ICAO)第38回総会決議~、日本航空宇宙学会誌、62巻5号、2014年
・日原勝也・岡野まさ子・鈴木真二、国際民間航空と地球環境問題~ICAOにおける最近の議論と今後について~、日本航空宇宙学会誌、57巻670号、2009年