カーボンナノチューブの内包という機能:カーボンナノチューブの基礎知識6

カーボンナノチューブの基礎知識

更新日:2022年9月2日(初回投稿)
著者:名古屋工業大学 大学院 工学研究科 つくり領域 教授 川崎 晋司

前回は、カーボンナノチューブの応用上の問題や課題について解説しました。この連載の第1回で、ナノカーボンの種類を紹介しました。ナノカーボンの一つであるC60は、1998年にカーボンナノチューブと融合し、ナノチューブの中空部分にC60が内包された試料が合成されました。この内包試料はC60という豆が、ナノチューブのさやに収まっているように見えるので、ピーポッド(さやえんどう)と呼ばれます。連載最終回となる今回は、この内包を利用したナノチューブの応用について紹介します。

1. カーボンナノチューブの特異性を示す内包という機能

C60を内包したSWCNTは、1988年、TEM(Transmission Electron Microscope:透過電子顕微鏡)写真(まるでカエルの卵の写真のように見える)によって初めて報告されました。この出来事は、多くの研究者を魅了し、その後、触発された研究者たちによってさまざまな分子内包の試みが行われ、次々に新しい内包試料が報告されることとなりました(図1)。

図1:さまざまな分子を内包したSWCNT試料
図1:さまざまな分子を内包したSWCNT試料

C60を内包したSWCNTは、ピーポッドと呼ばれます。ただし、さまざまな分子が内包されるようになると、単にピーポッドではなく、何を内包したかを明示するため、「C60ピーポッド」のように表すようになりました。また、「C60@SWCNT」のように、@の前に内包分子を書くこともあります。

図2左に、C60ピーポッドの合成方法を示します。C60分子とSWCNT試料をガラス管に真空封入した後、これを加熱処理するとC60ピーポッドが得られます。C60分子は、真空中で加熱すると分子構造を保ったまま昇華します。昇華したC60分子が冷却されるとき、毛管凝縮の原理でSWCNTのチューブ内に析出します。

図2:C<sub>60</sub>ピーポッドの作り方の模式図とSWCNT内の表面ポテンシャル
図2:C60ピーポッドの作り方の模式図とSWCNT内の表面ポテンシャル

図2右のSWCNT内の表面ポテンシャル(空気との境界面にできる電位差)に示すように、SWCNTのチューブ中心には、内表面からの表面ポテンシャルが全方向から積分されるので、チューブ内部に強い分子吸着力が生じます。これにより、C60分子がチューブ内に引き寄せられるように内包されていきます。C60@SWCNT内のC60分子間の距離は、バルク結晶のときよりも数%小さくなっていることが確認されています。この状況は、あたかも内包C60に外部から圧力がかかって押し込まれたように捉えることができます。そのため、SWCNT内は疑高圧力場であると表現されることもあります。

2. ヨウ素分子を取り込むSWCNT

C60分子を昇華してSWCNT内部に析出するように、合成された内包SWCNTの多くは昇華性の分子を利用しています。ヨウ素分子は、昇華法だけではなく、全く異なるやり方での内包も可能です。ヨウ素-デンプン反応に利用されるヨウ素液は、ヨウ化カリウム溶液にヨウ素分子I2を溶かしたものです。ヨウ素分子は水に直接は溶けにくいものの、ヨウ化物イオンI-が存在していると、三ヨウ化物イオンI3-を作ってよく溶けるようになります。

このヨウ素液にSWCNTを入れると、溶液の色の変化が確認できます(図3)。これは、SWCNTが三ヨウ化物イオンI3-からヨウ素分子I2を引き剥がしてチューブ内に取り込み、茶色(I3-)から透明(I-)になったためです。

図3:ヨウ素液にSWCNTを入れると茶色だったヨウ素液が透明に変化する
図3:ヨウ素液にSWCNTを入れると茶色だったヨウ素液が透明に変化する

3. 内包機能を利用した二次電池

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4. ヨウ素内包SWCNTから合成する太陽光CO2還元触媒

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