カーボンナノチューブの理想と現実:カーボンナノチューブの基礎知識3

カーボンナノチューブの基礎知識

更新日:2022年6月22日(初回投稿)
著者:名古屋工業大学 大学院 工学研究科 つくり領域 教授 川崎 晋司

前回は、カーボンナノチューブの種類を紹介しました。今回は、カーボンナノチューブの理想と現実を解説します。どのようなものにも理想と現実があります。前回までに紹介したカーボンナノチューブはどれも美しく、また特徴はどれも素晴らしい、理想的なものでした。一方で、発見から四半世紀以上を経て、カーボンナノチューブは何に利用されているのかと問われると、即答できないのが現実です。何が理想と現実を切り離しているのでしょうか。

1. カーボンナノチューブの作り方

炭は燃料として使われ、燃えやすいイメージがあります。しかし、黒鉛は、真空中ではかなり高温でも安定です。相図上は、約4,000℃までは安定相として描かれます。従って、黒鉛を原子状にバラバラにしてカーボンナノチューブを組み立てようとすると、特別な仕掛けが必要になります。

図1に示したのは、カーボンナノチューブの代表的な合成方法であるアーク放電法、レーザ蒸発法、化学気相蒸着法(CVD法)です。アーク放電法とレーザ蒸発法は、黒鉛に高エネルギーを付与することで上の条件をクリアして、炭素原子からカーボンナノチューブを組み上げることができます。一方、CVD法は、メタンやアセチレンといった炭化水素ガスを炭素源としています。炭化水素ガスを金属触媒存在下で700~1,000℃の比較的低温で熱分解することにより、高温状態を経ることなくカーボンナノチューブを生成できます。

図1:カーボンナノチューブの代表的な合成法

図1:カーボンナノチューブの代表的な合成法

一般的に、アーク放電法、レーザ蒸発法で合成されたカーボンナノチューブは、炭素六角網面が発達しています。一方、CVD法で合成されたものは、高温状態を経ていないので、結晶性が低くなります。

2. カーボンファイバーとの違い

カーボンナノチューブはさまざまな分野に応用が期待されながら、実用材料とはなっていません。一方、ポリマーにカーボンファイバーをフィラー(充填材)として添加した炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)は、軽量でありながら機械的強度に優れ、既にさまざまな分野で利用されており、その市場規模は数兆円といわれています。

カーボンナノチューブとカーボンファイバーは、何が異なるのでしょうか? 異なる点は多数あるものの、まずは何といってもスケールが違います。カーボンナノチューブは細いものでは直径が1nmを下回るものがあります。比較的大きい多層カーボンナノチューブ(MWCNT)でも、直径数10nmのものが一般的です。一方、カーボンファイバーの単繊維の直径は数μmです。カーボンナノチューブに比べて桁違いに大きいことが分かります。

図2に、カーボンナノチューブの生成過程の模式図と大きさのイメージを示します。カーボンナノチューブは、原子状の炭素が触媒金属の上に成長し、組み上げられていくイメージです。

図2:カーボンナノチューブの生成過程の模式図と大きさのイメージ

図2:カーボンナノチューブの生成過程の模式図と大きさのイメージ

これに対し、カーボンファイバーは、ポリアクリロニトリルのような高分子を紡糸したものを不活性雰囲気(化学反応を起こしにくい気体)で焼成して、主に炭素原子だけを残す炭素化により得られます(図3中央)。この過程は、基本的には、木材を蒸し焼きにして炭を得る過程と同じです。炭素化処理する温度によって、少しずつ性質の異なるカーボンファイバーが製造されます。さらに高温処理すると、炭素のネットワーク中に取り込まれていた窒素原子なども除去され、基本構造が黒鉛に近いものが得られます(図3右)。このような黒鉛化処理を行ったカーボンファイバーもあります。

図3:カーボンファイバーの生成過程の模式図と大きさのイメージ

図3:カーボンファイバーの生成過程の模式図と大きさのイメージ

3. カーボンナノチューブの問題点

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4. カーボンナノチューブの凝集特性

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5. カーボンナノチューブの価格

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