カーボンナノチューブの構造と特徴:カーボンナノチューブの基礎知識1

カーボンナノチューブの基礎知識

更新日:2022年4月27日(初回投稿)
著者:名古屋工業大学 大学院 工学研究科 つくり領域 教授 川崎 晋司

エンジニアであれば、カーボンナノチューブという言葉をどこかで耳にしたことがあるでしょう。ただし、具体的にどのような特徴があり、どのような分野への応用が可能かはあまり知られていないかもしれません。本連載では、全6回にわたってカーボンナノチューブの基礎知識を解説します。第1回は、カーボンナノチューブの構造と特徴を取り上げます。

1. ナノカーボンの歴史

イギリスの天文学者のハリー・クロトーは、発光源が特定できない宇宙の光スペクトルの一部は、未知の炭素小分子(クラスター)からの光ではないかと考えていました。この仮説を確かめるため、クロトーは、シリコンのクラスターなどを特殊な装置で合成していたアメリカのリチャード・スモーリー、ロバート・カールに共同研究を申し込みます。1985年にクロトーがスモーリーらの研究室を訪れ、炭素クラスターの合成実験を行ったところ、ある条件下で、サッカーボール型のフラーレンC60が再現性よく生成することを見いだしました(表1左)。後に、C60発見の論文はNature誌に掲載されます。実験開始から投稿まで、わずか2週間だったといわれています。

表1:代表的なナノカーボン

表1:代表的なナノカーボン

しばらくの間、C60は特殊な装置で微量しか作れなかったことから、ごく限られた研究者しか扱えませんでした。しかし、奇跡の2週間から5年を経た1990年に大量合成法が開発されると、爆発的に研究数が増えます。不活性ガスの中で2つの炭素棒電極を近づけ、電極間に高電圧をかけると高熱を生じ、炭素のすすが生成します。このすすの中にはC60が大量に含まれており、有機溶媒に溶かして再結晶させると、高純度のフラーレン結晶が得られることが分かったのです。

多くの研究者が、すすの中のC60に熱狂していた1991年に、C60合成実験に使った炭素棒電極を持ち帰り、丁寧に透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)で観察したのが日本の物理学者である飯島澄男です。飯島は、単層ではないがシリンダ状の構造の炭素をTEMで見つけ、カーボンマイクロチューブル(Carbon microtubule)と銘打ってNature誌に論文を発表しました。その後すぐに、カーボンナノチューブという言葉が使われるようになりました。しかし、研究者の数はそれほど多くはありませんでした(表1中央)。

1993年になると、単層カーボンナノチューブ(SWCNT:Single-Walled Carbon Nanotube)の論文が発表されます。飯島のグループと、アメリカのIBMのグループの論文が2つ並んでNature誌に掲載され、研究競争が激しかったことがうかがえます。その後、品質のよいSWCNTができるようになると、研究者の数は爆発的に増え、活発な研究が展開されるようになりました。

多くの書物には、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンについて、それぞれ1985年、1991年、2004年に発見されたと書かれています。フラーレン、カーボンナノチューブには、発見という言葉がふさわしいでしょう。しかし、グラフェンの発見が2004年というのには、少し注意が必要です(表1右)。グラファイト(黒鉛)は、鉛筆の芯など身近なものに利用される材料です。その構造が、グラフェンを層状に積層したものであることは、よく知られていました。つまり、2004年よりずっと前から、グラフェンは知られていたということです。アンドレ・ガイムとコンスタンチン・ノボセロフは、そのよく知られていたグラフェンを、巧みに黒鉛から引きはがし、その特異な物性を実験的に明らかにして、再発見をScience誌に報告しました。それが2004年のことです。

フラーレンを発見したクロトー、スモーリー、カールの3名は1996年のノーベル化学賞に、グラフェンの再発見をしたガイムとノボセロフは2010年のノーベル物理学賞に輝いています。カーボンナノチューブはいつになるのか、楽しみです。

2. カーボンナノチューブとフラーレンおよびグラフェンとの
構造的関係

表1に示したフラーレンC60、カーボンナノチューブ、グラフェンは、それぞれ点(0次元)、線(1次元)、面(2次元)の構造を取り、一見すると全く異なるもののように思えます。しかし、注意深く眺めてみると、いずれのナノカーボンにおいても1つの炭素原子は3本の結合手を出し、周囲の3つの炭素原子と結ばれています(図1)。このような結合をする炭素原子のことをsp2炭素と呼びます。

図1:sp2炭素モデル

図1:sp2炭素モデル

厳密な意味でのsp2炭素は、グラフェンに見られるように、1つの炭素原子が平面方向に3つの結合手を出し、結合間の角度が120°になるものを指します。ただし広義では、フラーレンやナノチューブのような曲率を持ったものに対してもsp2炭素という言葉が使われます。つまり、表1に示したフラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンの3つのナノカーボンは、いずれもsp2炭素から構築されているという共通点を持っているといえます。

図2のように描くことで、三者の共通点がよく理解できます。カーボンナノチューブは、グラフェンを巻き上げて作ることができます。サッカーボール型のC60は、ナノチューブとかなり異なる構造のように見えるかもしれません。しかし、フラーレン類にはC60だけではなく、ラグビーボールに例えられる楕円(だえん)球型のC70をはじめとする高次フラーレンがあり、楕円を引き延ばすとナノチューブの構造に近づいていくため、両者の類似は容易に理解できるでしょう。

図2:カーボンナノチューブとフラーレン、およびグラフェンとの構造的関係

図2:カーボンナノチューブとフラーレン、およびグラフェンとの構造的関係

3. 単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の物理・化学的性質

カーボンナノチューブにはたくさんの種類があるため、物理・化学的性質をひとくくりにして説明することはできません。どのくらいの種類があり、どのように異なるのかについては次回以降に説明します。ここでは、カーボンナノチューブの代表としてSWCNTに共通する特徴を簡単に紹介します(図3)。

図3:単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の物理・化学的特性

図3:単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の物理・化学的特性

SWCNTは、軽くて機械的強度が大きく、化学的安定性にも優れています。また、電気や熱をよく伝達できることも知られています。こうした特性の多くは、先ほど説明したsp2炭素の結合性で理解することができます。

最も硬い材料といってよいダイヤモンドは、ナノカーボンとは異なり、sp3炭素で構造を組み立てています。sp3炭素は、炭素の価電子4つ(2sの2個と2pの2個)を使って、結合の手を4方向に伸ばします。鉛筆の芯に利用される黒鉛は、sp2炭素で構築されています。

では、黒鉛とダイヤモンドの炭素-炭素結合は、どちらが強いでしょうか。ダイヤモンドは最も硬い材料で、その炭素-炭素結合はとても強固です。しかしながら、黒鉛の炭素-炭素結合は、ダイヤモンドの炭素-炭素結合よりも強いのです。

sp2炭素は、3方向に手を伸ばします。そうすると4つの価電子のうち1つが余ります。この余った電子を使ったπ結合と呼ばれるものが炭素-炭素結合に付加されるため、sp2炭素による結合の方が強くなります。このπ結合を作る電子は、1つの炭素原子に局在した状態ではなく、分子・結晶全体に広がった軌道をとります。そのため、π電子により結合が強化され、化学的安定性が高められるだけでなく、電気・熱をよく伝達することもできます。

4. カーボンナノチューブの応用先

カーボンナノチューブは、さまざまな応用先が期待されています。電気・熱をよく伝達するため、電気伝導体や熱伝導体として応用することができます。近年、小型電子機器の高性能化に伴い、熱対策は重要で、軽くて丈夫なヒートシンクが求められています。カーボンナノチューブは直径がナノメートルオーダーなので、仮に1本のナノチューブを目の前に置かれてもその存在を認識することができません。従って、透明なガラスやプラスチックの上にカーボンナノチューブを薄く塗布すると、透明のまま電気伝導性を付与することができます。

透明導電体は、電子機器や光デバイス分野で需要が高まっています。携帯電話の電源であるリチウムイオン電池には、電極材料の電気伝導性を高めるためにカーボン導電助剤が利用されています(図4)。カーボンナノチューブは、この導電助剤としても有望です。また、電気を流すだけでなく、筒形の細孔を有しているため、ここにイオンを貯蔵することもでき、次世代電池の電極材料としても期待されています。

図4:カーボンナノチューブの応用先として期待される分野

図4:カーボンナノチューブの応用先として期待される分野

また、カーボンナノチューブは、軽くて機械的強度に優れていることから、プラスチックの強度を高めるフィラー(充填材)としての利用もよく研究されています。夢のある応用先に、宇宙エレベータがあります。宇宙からカーボンナノチューブのロープを下ろして、人工衛星を持ち上げようというものです。他の材料では、実験するまでもなく自重に耐えることができません。しかし、カーボンナノチューブは、理論上この応用が成立するのが興味深いところです。

いかがでしたか? 今回は、カーボンナノチューブの構造と特徴を解説しました。次回は、カーボンナノチューブの種類を紹介します。お楽しみに!

参考文献
川崎晋司、新炭素材料ナノカーボンの基礎と応用、科学情報出版、2019年