マルチオミックス:バイオインフォマティクスの基礎知識6

バイオインフォマティクスの基礎知識

更新日:2022年12月8日(初回投稿)
著者:中央大学 理工学部 物理学科 教授 田口 善弘

前回は、メタボローム(代謝物)を取り上げ、人体の代謝の仕組みと、バイオインフォマティクスとの関係を解説しました。今回は、連載の最終回として少し趣向を変え、未来志向の話をします。それは同時に、バイオインフォマティクスの最先端についての話でもあります。

1. エピジェネティクス

エピジェネティクスは、エピ(超えた、後の)、ジェネティクス(遺伝学)を起源とし、DNA(塩基配列)の変化を伴わないタンパク質の変化を研究する学問領域です。要するに、エピジェネティクスは、遺伝子の塩基配列が生き物の全てを決めるわけではないということを示しています。

前回までに解説したのは、DNAやRNA、タンパク質、代謝物など、どれも物質の有無(量や並び順)の問題でした。今回解説するのは、DNAやRNA、タンパク質がどう修飾されているかという問題についてです。ここでいう修飾とは、バイオインフォマティクス分野の専門用語であり、具体的にはDNAやRNA、タンパク質を構成する個々の分子に、さらに小さな分子が結合して、ほんの少し性質が変わることをいいます。

DNAに蓄積された情報を変更するためには、ATGC(A:アデニン、T:チミン、G:グアニン、C:シトシン)の分子の順序自体を変えなければならず、タンパク質の構造(折りたたみ方)を変えるためには、構成するアミノ酸を交換しなければなりません。これは、簡単なことではありません。しかし、小さな分子を結合させたり分離させたりすることで修飾する(性質を変える)のであれば、比較的簡単に(可塑的に)変更が可能です。計測技術の発展によって、こうした修飾についても網羅的な計測が可能になりました。このような修飾を、専門用語でエピジェネティクスと呼びます。

DNA(塩基配列)以外のどこが違えばエピジェネティクスに違いが生じるかは、主に、DNAに起こるメチル化と呼ばれる変化、ヒストンに起こるアセチル化やリン酸化などの変化、クロマチン構造と呼ばれるDNAのまとまり具合の変化などが原因とされています(図1)。これらのエピジェネティクスに関する修飾が、何らかの原因で変化すると、さまざまな疾病につながることが分かってきています。

図1:エピジェネティクスのメカニズム
図1:エピジェネティクスのメカニズム

このように、1種類の情報しか蓄積できないDNAに対して、エピジェネティクスにはさまざまな種類があります。このため、DNAに蓄積されたデジタルデータを、さまざまな方法で改変することができます。そこで、どのような修飾が、DNAにどのような影響を与えるのか。その計測と解析こそが、現在バイオインフォマティクスの最先端の仕事となっています。

2. エピトランスクリプトーム

DNAに修飾を行うことをエピジェネティクスと呼ぶのに対して、RNAに修飾を行うことをエピトランスクリプトームと呼びます(図2)。エピジェネティクスは、主にDNAからRNAに変換させるプロセスを微調整することで、セントラルドグマの末端にあるタンパク質の発生量を制御することが分かっています。一方、エピトランスクリプトームは、RNAに修飾を行うとはいっても、RNAの修飾が実際にどんな影響を与えるのかは、よく分かっていません。しかし、それでも、非常に多くの種類があるRNA修飾の一部については、その多寡がどのような疾患に結びつくのか、機械学習やデータサイエンスを駆使したバイオインフォマティクスによる研究方法で、次第に解明されつつあります。

図2:エピトランスクリプトーム(参考:MDPIウェブサイト)
図2:エピトランスクリプトーム(参考:MDPIウェブサイト

3. マルチオミックス解析

続きは、保管用PDFに掲載中。ぜひ、下記よりダウンロードして、ご覧ください。