リスク下で起こしがちな行動(後編):行動経済学の基礎知識7

行動経済学の基礎知識

更新日:2022年9月12日
著者:関西学院大学 経営戦略研究科 教授 池田 新介

前回は、プロスペクト理論に沿って、私たちのリスクに対する態度が文脈によって変わってしまう問題を取り上げました。今回は、プロスペクト理論の後編として、リスク下の行動に見られる私たちの確率判断のバイアスについて解説します。

1. 小さな確率を過大に感じてしまう-オーバーウェイティング-

前回解説したように、私たちはリスクのある利益(プラスのペイオフ)を選択するときにリスク回避的になる一方で、損失(マイナスのペイオフ)を選択する場合には無意識のうちにリスク追求的な行動を取ってしまいます。ペイオフのプラス・マイナス(利益・損失)という要因以外に、私たちのリスクへの態度を逆転させる要因がもう一つあります。小さな確率を過大に感じてしまう判断バイアスです。

このことを理解してもらうために、次の質問に答えてください。賞金の期待値が同じ50円のくじA、Bから1つを選ぶ問題です。リスクを伴う方のくじAは0.1%という小さな確率でしか「当たり」が出ない設定です。

<質問1>
くじA、Bどちらのくじを選びますか(どちらも賞金の期待値は50円)。

くじA:0.1%の確率で5万円当たる
くじB:確実に50円当たる

もう1問、今度は損がかかったくじCとDの選択です。賞金の期待値はともに-50円(50円の損)です。リスクを伴うくじCで損が発生する確率は、質問1と同じ0.1%という小さな値で設定されています。

<質問2>
くじC、Dどちらのくじを選びますか(どちらも賞金の期待値は-50円)。

くじC:0.1%の確率で5万円の損をする
くじD:確実に50円の損をする

さて、2つの質問に対してどのように答えたでしょうか。筆者の調査結果を図1に示します。この図からも分かるように、実は多くの人が、質問1ではくじAを選び、質問2ではくじDを選びます。つまり、利益領域での選択(質問1)では、まれにしか当たらないくじに賭けるリスク追求的な選択をするのに対して、損失領域(質問2)ではめったにしか起きない損失を避けて一定額を支払うリスク回避行動を取るわけです

図1:オーバーウェイティングの効果
図1:オーバーウェイティングの効果

こうした傾向は、私たちの身辺でよく見られる行動を思い起こせば納得がいくはずです。どんな行動でしょうか? めったに当たらない賞金に賭けるリスク追求行動は、宝くじやロトを買い求める行動そのものです。また、わずかな損失リスクを回避するために一定額を支払うリスク回避の行動は、私たちが保険に加入するときに示すものです。その意味で、図1に示されたようなリスク態度は、私たちが実際に行っているリスク選択行動をよく表しているといえるでしょう。

ここで前回の話を思い出してください。私たちは利益領域ではリスク回避的に、損失領域ではリスク追求的になるという話でした。ところが、宝くじを買うことは利益領域でのリスク追求行動であり、保険に入ることは損失領域でのリスク回避行動です。すなわち、図1の結果は、前回の話とまったく矛盾していることになります。

こうした矛盾を、どう理解すればよいのでしょうか。実は、宝くじや保険をめぐる行動の背後には、小さな確率のインパクトを過大に感じてしまうオーバーウェイティングという判断バイアスがあります。質問1や2では、0.1%というごく小さな確率がリスクを発生させています。私たちの不完全な認知処理能力では、こうした微小確率を正確に捉えることができず、そのインパクトを過大に感じてしまう傾向があります。

例えば、確率0.1%は確率1%の10分の1です。従って、賞金の期待値へのインパクトも、確率1%の場合の10分の1であるべきです。しかし、私たちにはそれが5分の1にも2分の1にも大きく感じられてしまいます。0.1%の確率を0.2%にも0.5%にも大きく感じてしまう感覚です。これがオーバーウェイティングです。

めったに当たらないくじであっても、このオーバーウェイティングのせいでかなりの確率で当たるように錯覚し、そんなくじを買いたくなるのです。利益領域ではリスク回避的であるはずの人たちが、宝くじや馬券になると買ってしまうのはこのためです。同じように、めったに起こらない損失のリスクであっても、オーバーウェイティングによってそれが過大に感じられるために、そのリスクを避けようとして一定額の保険料を払ってもよいと感じるようになります。損失領域ではリスク追求的な私たちが、保険に入って損失リスクを回避しようとするのはこのためだと考えられます。

2. 大穴に賭ける一方で高い保険に入る

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3. プロスペクト理論のまとめ

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