リスク下で起こしがちな行動(前編):行動経済学の基礎知識6

行動経済学の基礎知識

更新日:2022年4月7日
著者:関西学院大学 経営戦略研究科 教授 池田 新介

前回は、自滅選択に対処するための方法を紹介しました。今回から2回にわたり、リスクを伴う選択について解説します。

1. 利益のリスクと損失のリスクで行動が変わる

リスクには、生活や投資に伴うリスクからビジネスリスクまで、さまざまなものが含まれます。リスク下で合理的な選択をすることは、どの場合も大変難しいものです。従来、標準的とされてきたリスク選択理論は、現実の私たちの行動を説明するには問題の多いものでした。そのことを痛烈に批判し、プロスペクト理論という新しい理論を打ち立てたのが、エイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマンの2人です(第2回参照)。

プロスペクトとは、要するに「くじ」のことです。いろいろなリスク選択をくじの選択の問題に落とし込むことで、実際のリスク下の行動を系統立てモデル化したのがプロスペクト理論です。本稿では、プロスペクト理論に沿って、リスク下で見られる私たちが起こしがちな行動について考えてみましょう。

そもそも、リスクに対する私たちの態度は、それ自体が実に移ろいやすいものです。私たちはリスクを嫌い、いつも回避したいと思っています。しかし、状況次第では、大きなリスクを自覚のないまま背負ってしまいます。それらは、どのような場合に起きるのでしょうか。

リスク下の選択について考えるために、図1に示した問題を考えてみましょう。2つのくじから、好きな方を1つ選ぶ問題です。

図1:くじAとBどちらを選びますか?

図1:くじAとBどちらを選びますか?

どちらを選びましたか? 実は、多くの人はBを選びます。筆者が大学で386人を対象に行った調査でも、83%がBを選んでいます。ところで、Bを選ぶことが、リスク回避的な行動であることに気付いたでしょうか? というのは、賞金の期待値(平均的にもらえる賞金額)は、A、Bともに1万5千円であるにもかかわらず、賞金の変動リスク(賞金額が期待値と違ってくる可能性)はBの方が小さいからです。リスクを嫌う私たちが、このようにリスク回避的な選択をするのは当然であると思われます。

次に、図2の問題を考えてください。今度は、確率的に損害が発生するくじの選択です。損の期待値は、両方のくじともに1万5千円です。ただし、くじCの方が、損失が発生する場合としない場合の差が大きい、すなわち、リスクが大きい設定になっています。

図2:くじCとDどちらを選びますか?

図2:くじCとDどちらを選びますか?

いかがでしょうか? この場合、実は、リスクが大きい方のくじCを選ぶ傾向が強く見られることが分かっています(筆者の調査では、71%がくじCを選びます)。つまり、損失を選ぶリスク選択の場合、人々はリスク回避的ではなく、逆にリスク追求的になるのです。

もちろん、くじCを選ぶ人にしてみれば、損の出目が多いくじDを嫌って、うまくいけば損をせずに済むくじCを選んでいるつもりでしょう。しかし、出目によって損失が大きく変わるという意味でリスクが大きいのは、くじCの方なのです。

図1のように、プラスの賞金がかかった選択では、私たちはリスクが嫌いだという自覚があり、より安全な方を選びます。しかし、図2のように、生じやすい小さい損(くじD)か、生じにくい大きな損(くじC)を選ぶ状況に直面すると、リスクを嫌う同じ私たちが自覚のないままに、より大きなリスク(くじC)を選んでしまいます。

しかし、よく考えればうまくないこうしたリスク選択の行動は、さまざまな状況で観察され、予想外の大きな損失につながることも少なくありません。卑近な例でいえば、小さな嘘(うそ)を積み重ねることで日常をやり過ごす多くの不正行動(粉飾決算、不倫)は、実は大きな損害のリスクを負担するリスク追求行動です。ほとんど確実に起きる副反応(小さな損)を嫌がってワクチンを打たない選択もまた、新型コロナ感染症への罹患(りかん)という大きなリスクを負担するリスク追求行動です。どれも意識せずに大きなリスクを選んでしまい、文字通り大きなリスクをはらんだ行動といえるでしょう。

2. 遅すぎる損切り、早すぎる利益確定売りー気質効果

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3. 枠組み次第でリスク態度が変わる-フレーミング効果

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