ビッグバン理論の証明:宇宙物理学の基礎知識8

宇宙物理学の基礎知識

更新日:2022年11月4日
著者:京都産業大学 理学部 宇宙物理・気象学科 教授 二間瀬 敏史

前回は、宇宙の膨張とダークエネルギーを紹介しました。今回は、最終回です。宇宙論の続きとして、ビッグバン理論の証明について解説します。

1. ビッグバン理論

1940年代後半、旧ソビエト連邦からアメリカに亡命した物理学者ガモフは、宇宙が超高温、超密度状態から爆発的に始まったという説を唱えました。これが、ビッグバン理論です。ここで注意することは、ビッグバンは空間のどこかで起こったわけではないということです。ビッグバンによって、時間も空間も始まったのです。このように、宇宙膨張の発見から、進化する宇宙という考えが現れました。

しかし、ビッグバン理論が受け入れられたのは、1960年代中頃になってからです。その理由は、多くの研究者にとって、宇宙は無限の過去から無限の未来まで永遠に不変であるという考えから抜けられなかったことにあるといえます。

2. 宇宙の錬金術工場

宇宙では、さまざまな種類の金属が作られることから、錬金術工場に例えられます。鉄のように軽い元素は、恒星内部の高温により核融合が促進され作られます。また、金のように重い元素においては、これまで、超新星爆発という星の大爆発のときに、軽い原子同士が合体してできると考えられていました。しかし最近では、キロノヴァにより生み出されるという考えも有力視されています。キロノヴァとは、組をなしてお互いの周りを回っている2つの中性子星が(図1)、徐々に近付いて合体し、爆発を起こす現象をいいます。

図1:対になる2つの中性子星
図1:対になる2つの中性子星

自然科学の父であるニュートンは、錬金術師の顔も持っています。鉄のようなありふれた元素から金を作ることは、長い間、人類の夢でした。しかし、原子の構造を知っている現在の私たちから見ると、錬金術は全く無謀な試みといえます。

例えば、鉄と金を比べてみましょう。鉄も金も原子核の周りを電子が回っているという構造です。しかし、原子核が全く違います。原子核の構造が解明されたのは、1932年に陽子とほぼ同じ質量を持ち、電荷を持たない粒子(中性子)が発見された、その翌年です。それによると、鉄の原子核は26個の陽子と30個の中性子からできていて、金の原子核は陽子79個、中性子118個からできています。従って、鉄を金に変えるには、原子核の中の陽子と中性子の数を大きく変えればいいだけと思うかもしれません。

しかし、そう簡単ではありません。陽子同士の電気的な反発力にもかかわらず、原子核を作るには電気的な力よりもはるかに強い力で、陽子や中性子(これらをまとめて核子といいます)を結びつけなければなりません。このことは、原子核の陽子や中性子の数を変えるには、膨大なエネルギーが必要であることが分かります。原子核の中の核子1個の結合エネルギーは、約700万eVです。これは熱エネルギー(温度)に換算すると約80億Kに相当します。このような超高温環境でなければ、原子核の構造は変化しません。

1940年代、物理学者はこの原子核内の膨大なエネルギーを解放する方法を思いつき、それは原子爆弾、水素爆弾として実現されてしまいました。ガモフは旧ソビエト連邦からの亡命者だったので、核兵器の開発に直接携わることはありませんでした。しかし、原子核物理は彼の専門でした。彼は、宇宙膨張を素直に受け取れば、核反応が起こる状況が宇宙初期にも存在したであろうことに気が付いたのです。

宇宙が膨張しているなら、過去の宇宙はより高密度で高温だったでしょう。過去にさかのぼるほど、宇宙の温度は上がっていき、ついには核子同士が衝突して核融合反応が起こる状況が実現されます。中性子は、約15分で陽子と電子、反ニュートリノに崩壊することが知られています。そこでガモフは、宇宙の初めに中性子からできた始原物質を、アリストテレスが想定した全ての物質の原材料から、イーレムと名付けました。イーレムから陽子ができ、宇宙のごく初期の超高温、高密度状態で陽子と中性子が衝突、融合を繰り返して、現在の宇宙に存在するあらゆる元素ができたという説を唱えたのです。

このガモフの説を、ビッグバン理論といいます。残念ながらその後、ガモフが考えたイーレムの存在は否定され、宇宙の初めに全ての元素を作ることはできないことが分かりました。宇宙初期の超高温、超高密度状態において中性子は安定ではなく、陽子と常に入れ替わります(このことは日本の物理学者、林忠四郎が指摘しました)。さらに膨張によって温度と密度がどんどん下がっていくため、元素合成はヘリウムの原子核と、ごく少量のベリリウムなどの軽い元素が作られて終わってしまいます。ただし、重量比では陽子とヘリウム原子核だけで宇宙の元素の約98%を占めています。残りの2%のほとんどは、星の中や星の最後の大爆発で合成されたものです。

3. ビッグバンの証拠の発見

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