宇宙論とは:宇宙物理学の基礎知識7

宇宙物理学の基礎知識

更新日:2022年10月13日
著者:京都産業大学 理学部 宇宙物理・気象学科 教授 二間瀬 敏史

前回は、銀河系の構造と、銀河中心に存在するブラックホールについて解説しました。今回は、宇宙論と題して宇宙の起源を紹介します。

1. 宇宙論とは

宇宙という漠然とした対象に対しては、古代文明のそれぞれに宇宙創造の神話や、宇宙の構造についての説がありました。19世紀から20世紀初めに、天文学は大きく発展しました。しかし、宇宙そのものに対する理解はさほど進みませんでした。それは、宇宙のスケールが人間の想像をはるかに超えるため、観測手段を持てなかったことや、物理学の発展が不十分だったからです。この状況は、第5回で解説したヘンリエッタ・スワン・リービットのセファイド変光星を使った距離の測定が確立したことや、相対性理論という宇宙全体を扱うことができる物理学の登場で一変しました。また、量子力学の登場によって、物質の構造が理解されるようになり、宇宙の進化とその中での物質の進化を研究できるようにもなりました。

現在、宇宙論とは次の3つのことを観測と理論に基づき研究する物理学の一分野であるということができます。

  • 宇宙における物質の起源と物質の歴史
  • 宇宙における天体の形成と進化
  • 宇宙そのものの起源と進化

まずは、宇宙について、私たちが観測によって知っていることを挙げていきます。

2. 宇宙膨張の発見

私たちの宇宙観を一新した観測は、宇宙膨張の発見です(図1)。宇宙膨張とは、空間が時々刻々膨らんでいるということです。1920年代後半のこの発見以前には、誰も宇宙膨張を想像すらしていませんでした。そもそも空間が変化することすら想像ができませんでした。

図1:宇宙膨張のイメージ
図1:宇宙膨張のイメージ

実は、空間そのものが時間とともに変化する可能性について、1916年頃、アインシュタインは気が付いていました。アインシュタインの重力理論である一般相対性理論では、時間と空間は4次元時空における座標系と理解され、時空は力学的自由度を持ち、必然的にその運動を考えざるを得ません。

時空の運動を引き起こす原因の一つは物質、正確にはエネルギーの存在です。宇宙は時空そのものです。物質が存在する限り宇宙はつぶれる、すなわち空間や時間が消えることを意味します。つぶれるのを防ぐには、初期条件、すなわち時間が始まったとき、空間が膨張していなければなりません。

これは地球上の物体の運動と同じです。物体は上に向かって投げ上げられなければ、地面に落下します。地球の脱出速度以下の初速度ならば、ある高さまで上昇してから落下します。脱出速度以上ならば、宇宙に飛び出していきます。宇宙も同様に、ある初速度以下で膨張を始めると、ある大きさまで膨張し、その後、収縮に転じてやがてつぶれてしまいます。しかし、その初速度以上ならば、宇宙は永遠に膨張し続けるのです。初速度は、宇宙にどれだけエネルギーが詰まっているかで決まります。収縮するか、膨張し続けるかの境目のエネルギー密度を臨界密度といい、現在の観測では、1cm3当たり約10-29gです。

アインシュタインは、空間が時間とともに変化する可能性に気付いてはいたものの、宇宙全体が時間とともに変化していくことを受け入れることはできませんでした。そこで彼は、時空の変化を止めるために、物質のエネルギーを相殺する特殊なエネルギーの存在を仮定しました。このエネルギーを、宇宙定数と呼びます(図2)。

しかし、アインシュタインによる宇宙定数の存在は、すぐに否定されることになります。それは、宇宙が実際に膨張していることが発見されたからです。この発見は、リービットによるセファイド変光星を使った距離の測定が決定的な役割を果たしています。

図2:宇宙論および宇宙定数の歴史年表
図2:宇宙論および宇宙定数の歴史年表

アメリカの天文学者エドウィン・ハッブルは、セファイド変光星を使ってアンドロメダ銀河までの距離を求め、それが銀河系と同程度の莫大な星の集団であることを発見しました(第5回)。それに引き続いてハッブルは、いくつかの銀河までの距離と速度の測定を始めます。距離はセファイド変光星を使い、速度は銀河のスペクトルから測定しました。速度はスペクトルの中の、例えばナトリウムの吸収線を測定することで、光源である銀河から放射された時点の波長と、観測した波長の違い(ドップラー効果)から求めることができます。

この観測には、当時世界最大の口径2.54mの望遠鏡が使われました。その結果、遠くの銀河ほど速い速度で地球から遠ざかっている傾向が認められました。私たちの銀河が宇宙の中で特別な位置を占めているわけはありません。宇宙に存在する全ての銀河から観測したとしても、他の銀河はその距離に比例した速度で遠ざかっているはずです。この解釈が可能なのは、空間自体が膨張していると考えることです。個々の銀河は空間に固定されていて、空間自体が膨張しているため、どの銀河から見ても他の銀河は遠ざかっているのです。これが宇宙膨張の発見です。この発見を知って、アインシュタインの宇宙定数は不要とされました。

3. 宇宙の加速膨張とダークエネルギー

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