銀河の距離測定の歴史:宇宙物理学の基礎知識5

宇宙物理学の基礎知識

更新日:2022年8月18日(初回投稿)
著者:京都産業大学 理学部 宇宙物理・気象学科 教授 二間瀬 敏史

前回は、ブラックホールについて解説しました。今回は、銀河を取り上げます。私たちの太陽系は、銀河系と呼ばれる約2千億個の恒星からなる大集団の一員です。このような恒星の大集団、すなわち銀河は、宇宙には無数に存在することが知られています。しかし、この認識に至るには、遠方の天体までの距離を知るという、天文学において最も難しい問題を解決する必要があり、長い時間を要しました。

1. 天体までの距離測定、黎明期

夜空に輝く星々が太陽と同じような恒星であることは、16世紀には認識されていたようです。ニュートンは、無限の空間に星が一様に分布していると考えていました。星の分布する範囲が有限なら、星々の重力によって星同士の間隔はどんどん小さくなっていき、星の存在する範囲がつぶれてしまうと考えたからです。しかし、18世紀の天文学者ウィリアム・ハーシェルは、望遠鏡での観測によって、恒星の集団が直径数千光年の円盤状に分布していると考えました(図1)。ハーシェルは、どのようにして、星までの距離を見積もることができたのでしょうか?

図1:スペイン国立天文台にあるハーシェル望遠鏡の複製
図1:スペイン国立天文台にあるハーシェル望遠鏡の複製

ハーシェルは、全ての恒星が太陽と同じ程度の明るさを持っているとすれば、星の見かけの明るさによって、星までの距離が推定できると考えました。星の明るさは等級で測ります。物理学では、単位時間当たりに放射される総エネルギー量を光度といい、単位面積当たりに受け取るエネルギーを、エネルギー流速といいます。これが明るさです。

一方、天文学では、エネルギー流速の代わりに、等級という概念を使って明るさを表します(ここでは電磁波として放射するエネルギーだけを考えます)。歴史的には、古代ギリシャの天文学者ヒッパルコスが、肉眼で最も明るく見える星を1等星、暗い星を6等星としたことに始まります。実際は、等級は観測する波長帯によっても異なります。ただし本稿では、波長帯による違いは考慮しません。ここでは、話を簡単にするために、こと座の主星ベガの明るさを0等、その100分の1の明るさを5等星とする等級の定義で進めます。

地球軌道での太陽からのエネルギー流速は、1平方メートル当たり約1.4kWです。これを等級に直すと、太陽の見かけの等級は、-26.74等となります(以下では、計算を簡単にするため、-27等とします)。

3等星は太陽より30等級暗くなるので、明るさは(10-2)6=10-12(1兆分の1)になります。見かけの明るさは距離の2乗に反比例するため、このことは、3等星までの距離が太陽までの距離の106倍遠いということを意味します。

太陽と地球の平均距離を、1天文単位といいます。1光年は、約63,241天文単位です。従って、この星までの距離は、約16光年ということになります。ハーシェルの望遠鏡がどのくらい暗い星まで見えたのかは分からないものの、13等星まで見えたとして、それが太陽と同じ程度の明るさの星だったとすると、この星までの距離は、約1,600光年ということになります。

もちろん、ハーシェルは間違っていました。全ての星が太陽と同じ明るさを持っているわけではなく、さらに星間空間には星間物質があり、遠くの星からの光を吸収してしまいます。そのため、遠くの星は見えません。しかし、本当の明るさと距離が分かっている天体があれば、その見かけの明るさから距離が分かるという考え方は間違いではありません。太陽のように、中心部で水素の核融合が起こっている恒星(主系列星)は、表面の色が分かれば本来の明るさを推定でき、見かけの明るさから距離を推定することができます。

ただし、それが分かったのも20世紀に入ってからのことです。また、主系列星は、何百万光年以上という距離では、個々の星に分解できるほど明るくはありません。従って、主系列星を用いた距離の測定は、遠くの天体には使うことができません。いずれにせよ、距離の測定には、本当の明るさが分かっている天体(標準光源)が必要です。ハーシェルは、本当の明るさが分かっている天体を知らなかったため、太陽を使ったのです。

2. 標準光源の発見

天体までの距離が分かるようになったのは、20世紀に入ってからです。1910年代の初め、ヘンリエッタ・スワン・リービット(アメリカ)という女性天文学者が、本当の明るさが分かる天体を発見しました。当時、写真技術が天文学に使われ始め、ハーバード大学では多数の恒星の写真を撮り、その色と明るさのカタログ作りを何人かの女性が担当しました。その中の一人、リービットは、変光星(時間とともに明るさを変える恒星)の解析を担当していました。そして彼女は、マゼラン星雲に十数個のセファイド変光星を発見し、それらがある特徴を持っていることを見つけました。

それは、変光周期が長いものほど、(平均的な明るさが)明るいということです。当時、マゼラン星雲までの距離は分かっていませんでした。従って、これは見かけの明るさと変光周期の関係ではあるものの、それらの変光星がマゼラン星雲中にあるということは、地球からそれらまでの距離がほとんど同じであることを意味します。この場合、見かけの明るさの違いは、絶対的な明るさの違いに他なりません。

また、セファイド変光星には、もう一つの利点があります。それは、セファイド変光星は普通の恒星よりもかなり明るく、遠くの星まで見つけることができるというものです。例えば、太陽の絶対等級は4.8等です。しかし、絶対等級が-5等や-6等、あるいはそれ以上の恒星も珍しくありません。これらの星は、太陽よりも1万倍以上明るいのです。

しかし、絶対等級と周期を関係付けるには、距離の分かっているセファイド変光星が少なくとも1つは必要です。それには、太陽に比較的近くて、何らかの方法で距離が測定できるセファイド変光星があればいいことになります。よく知られた方法は、年周視差です(図2)。これは、地球が太陽の周りを公転していることを利用して、例えば春分に見える星の方向と、秋分に見える同じ星の方向のわずかの違い(この角度の差の半分を年周視差という)から、その星までの距離を測定する方法です。

図2:年周視差と地球の公転運動の関係
図2:年周視差と地球の公転運動の関係

年周視差は、1838年に白鳥座61番星に対して初めて観測されました。そのときの値は、約0.3秒角でした。これは約10光年に対応します(現在の観測による正確な値は、年周視差0.286秒角で、11.4光年)。しかし、太陽に最も近いセファイド変光星(北極星)の年周視差は0.008秒角(430光年)です。これは20km離れたところからアリの巣の穴をのぞくようなものです。このように、20世紀前半の観測技術では、年周視差は測定できませんでした(現在の観測技術では、約1,000光年かなたまで年周視差が観測できます)。

そこで利用したのが、太陽系全体の宇宙空間の中の運動です。この運動を利用して、より長い時間間隔で同じ星を観測すれば方向の差が大きくなります。ただし、観測する星も宇宙空間に静止しているわけではなく、その運動も分からないため、そう単純ではありません。しかし、複数のセファイド変光星を用いると、方向の差は遠くのセファイド変光星ほど小さくなること、さらに、周期の違いによって、セファイド変光星同士の距離の相対的な比が分かることから、距離を推定することができます。1913年、太陽に比較的近い16個のセファイド変光星を用いて、次のような絶対等級M(正確には可視光領域の等級)と、周期P(日)の関係式が得られました。

M=-0.6-2.1logP

この関係式を使うことで、どんなに遠くの天体でも、セファイド変光星さえ見つけられれば変光周期から絶対等級が得られ、見かけの等級との差から、その天体までの距離を測定することができるようになりました。このようにして、リービットのこの発見によって、人類は初めて銀河系の大きさと宇宙の大きさを知ることができたのです。

3. 天体距離論争の終焉

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4. 銀河の分類

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