ブラックホール:宇宙物理学の基礎知識4

宇宙物理学の基礎知識

更新日:2022年7月22日(初回投稿)
著者:京都産業大学 理学部 宇宙物理・気象学科 教授 二間瀬 敏史

前回は、星の進化を紹介しました。太陽よりも8倍以上ある重い星は、超新星爆発を起こして中性子星やブラックホールになり、一生を終えます。中性子星やブラックホールは、星の最期の状態です。しかし、本当の意味での最期ではありません。それどころか新たな激しい天体現象を引き起こす源、それも場合によっては宇宙最大規模の活動の始まりにもなります。今回は、ブラックホールについて解説します。

1. 超新星爆発から中性子星誕生へ

太陽質量の約8倍以上の重い星は、中心部がつぶれていく過程で高エネルギーの光子が鉄を分解し、陽子が電子を吸収して中性子に変わります。通常、中性子は電子と反電子ニュートリノを放出して、陽子に変わります(β崩壊)。しかし、重力収縮の場合、高温、高密度となり電子が縮退するため、高エネルギー電子が陽子に吸収される反応が起こります。このときの反応は吸熱反応なので、圧力が一気に下がり、重力収縮に弾みがつき、中心部に中性子の塊ができます。これが中性子星です(図1)。中性子星の質量は太陽と同程度で、その大きさは半径十数kmという、極端にコンパクトな星です。

図1:かに星雲(M1)、超新星爆発で吹き飛んだガスが不規則な形に広がり、その中心には中性子星がある

図1:かに星雲(M1)、超新星爆発で吹き飛んだガスが不規則な形に広がり、その中心には中性子星がある

予想できるように、中性子星は非常に重力が強い天体です。重力の強さを示す目安の一つとして、その天体の表面からの脱出速度があります。地球の場合、秒速11.2kmです。これ以上の速度で物体を投げ上げると、地球の重力を振り切って宇宙に飛んでいきます。太陽の場合、秒速618kmです。そして中性子星の場合、秒速10万kmと、光速度の30%にもなります。

この強力な重力を支えているのが、中性子の縮退圧です。中性子は電子と同様、フェルミオンです。フェルミオンが縮退すると、コンプトン波長(質量mの粒子に対して定義される波長)で決まる体積に1個のフェルミオンが占めることになります。フェルミオンの質量をmとすると、コンプトン波長はλ=h/mc(hはプランク定数、cは光速度)なので、数密度は次のように表されます。

ここに、中性子の質量m=1.67×10-24gを代入すると、1cm3当たり約n≈1040gとなり、それに中性子の質量を掛けると、中性子星の典型的な密度として1cm3当たりρ≈1016gが得られます。これはまさに、原子核の密度と同程度です。ちなみに、電子の縮退圧で支えられている白色矮(わい)星の典型的な密度は、同様に計算すると、1cm3当たり約107gが得られます。

2. 中性子星からブラックホールへ

もともとの星の質量が太陽質量の約30倍以上の場合となってくると、超新星爆発によって中心にできた中性子星に、大量の物質が降り積もります。一方で、縮退圧で支えられる質量には、チャンドラセカール限界(フェルミオンの縮退圧によって平衡を保つことのできる質量の上限)があります。これは基本的には、重力定数、プランク定数、光速度と核子の質量だけで決まり、回転がない場合は太陽質量の約1.4倍となります。実際には、回転の影響や、超高密度物質の状態方程式の不確定性から、太陽質量の約3倍と考えられています。

要するに、チャンドラセカール限界の質量を超えた中性子星は、際限のない重力崩壊をして、つぶれてしまいます。その結果できる天体が、ブラックホールです(図2)。天体といっても、他の天体とは違い、ブラックホールの中に物質が詰まっているわけではありません。

図2:ブラックホール

図2:ブラックホール

ブラックホールの表面は、ただの空間です。その表面の内側では、脱出速度は光より速くなります。つまり、外側に向かって光を出しても、光は内向きに進んでいき脱出することができません。光よりも速い物体は存在しないので、どんな物質も、必ず中心に向かって落ちていきます。

従って、ブラックホールの中には、どんな物体も存在しません。では、ブラックホールに落ち込んだ物質はどこに行くのでしょう。その行き着く先を、特異点と呼びます。現在の物理学では、特異点がどのようなものかは理解されていません。

より正確には、落ち込むのは物質だけではありません。中性子星やブラックホールなど、重力が極端に強い領域では、アインシュタインの一般相対性理論が適用されます。一般相対性理論は、時間空間を時空と呼ばれる4次元連続体上の座標として捉えます。

一般相対性理論では、時間や空間は、時空の中で観測者が持っている時計と物差しで設定する座標にすぎず、絶対的な意味を持ちません。時空そのものが実在で、その時空が力学的自由度を持ち、運動すると考えます。ブラックホールの内部では、時空そのものが特異点に落ち込んでいきます。特異点では、時空の概念自体が当てはまらず、まさに時空の果てということができます。

ニュートン重力理論での基礎方程式は、物質の質量密度が重力ポテンシャルを決めるポアソン方程式です。これに対応する一般相対性理論の基礎方程式は、アインシュタイン方程式と呼ばれます。この式も、物質のエネルギーと運動量分布が重力ポテンシャルを決めるという構造をしています。ただし、このときポテンシャルに対応するのは、4次元時空が力学的自由度となることから、4次元時空の幾何学的構造を表す量である4次元時空の2点間の距離を表す、10個の変数です。

楕(だ)円型であるポアソン方程式と違うのは、アインシュタイン方程式が10個の連立の双曲型非線形方程式であることです。このため、アインシュタイン方程式は、物質がない状況でも、重力が存在する状況を表す解を持ちます。ニュートン重力では物質のないところに重力は存在しません。しかし、一般相対性理論では、物質がなくても重力が存在するのです。

それがブラックホールであり重力波です。重力波とは、時空がこんにゃくのようにブルブルと振動し、それが光速度で伝わっていく現象です。ニュートン重力には存在しないブラックホールや重力波が実際に存在することは、現在さまざまな観測で確認されています。

3. ブラックホールエンジン

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