トランジスタを用いた増幅回路:アナログ電子回路の基礎知識6

アナログ電子回路の基礎知識

更新日:2023年1月10日(初回投稿)
著者:山梨大学 大学院 総合研究部 工学域 電気電子情報工学系 教授 佐藤 隆英

前回は、増幅回路を実現する回路素子であるトランジスタについて、バイポーラトランジスタとMOSFETを取り上げました。今回は、トランジスタを用いた増幅回路の構成と、その解析方法を解説します。解析の方法は、設計の方法と同じです。増幅回路に限らず、多くのアナログ電子回路はバイアス電圧と信号電圧を別々に解析(または設計)します。この解析方法は、電子回路特有のものです。この解析の手順をしっかり身につけることが重要です。

1. トランジスタを用いた増幅回路の基本構成

トランジスタは、電流を制御端子(ゲートまたはベース)の電圧で制御できる素子です。バイポーラトランジスタは、ベース・エミッタ間電圧でコレクタ電流、またはエミッタ電流を制御できます。そのため、バイポーラトランジスタで増幅回路を構成する場合は、入力端子をベース、またはエミッタとし、出力端子としてコレクタ、またはエミッタを用います。

一方、MOSFETはゲート・ソース間電圧によりドレイン電流、またはソース電流を制御できます。そのため、MOSFETを用いる場合には、ゲートまたはソースを入力端子として用い、出力端子にはドレインまたはソースを用います。これらの組み合わせを、表1にまとめます。入力端子と出力端子の選び方により、各トランジスタは3種類の増幅回路を構成することができます。

表1:トランジスタを用いた増幅回路の種類
表1:トランジスタを用いた増幅回路の種類

電圧信号の増幅には、エミッタ接地増幅回路とソース接地増幅回路が適しています。コレクタ接地増幅回路とドレイン接地増幅回路は、大きな入力インピーダンスと、小さな出力インピーダンスが特長です。そのため、他の回路の前段または後段に接続し、入出力インピーダンスの改善に用います。ベース接地増幅回路とゲート接地増幅回路は、入力インピーダンスが小さいため、電流の入力信号を扱う際に用いられます。

nチャネルMOSFETを用いた3種類の増幅回路の構成を、図1に示します。各回路において、vinが入力電圧(信号)です。VDDは、増幅回路に電力を供給する電源です。MOSFETを増幅回路に用いるとき、MOSFETは飽和領域で動作しなければなりません。そのため、信号が加わっても常にVGS>VT、かつVDS>VGS-VTとなるように、nチャネルMOSFETの各端子間電圧にあらかじめ電圧を加えて用います。この電圧をバイアス電圧と呼びます。また、VTは、しきい電圧と呼ばれ、0.5V程度です。例えば、ソース接地増幅回路において、入力電圧vinが0、または負となっても、VGS>VTとするため、MOSFETのゲート端子にはバイアス電圧VGbiasを加えます。飽和領域におけるMOSFETのドレイン電流は、ID=K(VGS-VT)2です。増幅回路にvinが加わると、VGSが変化するため、MOSFETの電流も変化します。ソース接地増幅回路とドレイン接地増幅回路では、vinが増加すると、ゲート・ソース間電圧VGSが増加します。そのため、MOSFETを流れる電流も増加します。一方、ゲート接地増幅回路では、vinが増加するとVGSが減少するため、MOSFETを流れる電流も減少します。この電流の変化量をiDとします。

図1:nチャネルMOSFETを用いた増幅回路の構成
図1:nチャネルMOSFETを用いた増幅回路の構成

ここからは、ソース接地増幅回路の動作を説明します。ソース接地増幅回路に入力電圧を加えると、ゲート・ソース電圧VGSはVGbias+vinとなるため、MOSFETのドレイン電流は、

ID+iD=K(VGbias+vin-VT)2=K(VGbias-VT)2+2K(VGbias-VT)vin+Kvin2  …式1

となります。ここで、入力電圧vinが十分に小さいとすると、vin2は他の項に比べて小さくなるため

ID+iD≈K(VGbias-VT)2+2K(VGbias-VT)vin  …式2

と近似できます。これは、2乗の関係がある入力電圧vinと、MOSFETのドレイン電流の関係を直線近似することに相当します。第1項は入力電圧が加わる前のドレイン電流を意味し、第2項が入力電圧により変化したドレイン電流です。この電流の変化をRDにより、再び電圧の変化に変換し取り出すことで出力電圧が得られます。ソース接地増幅回路の場合、出力端子の電位は

VOUT+vout=VDD-RD(ID+iD)=(VDD-RDID)–RDiD  …式3

となります。ここで、第1項は入力電圧を加える前の出力端子の電圧(Vout、バイアス電圧)を意味しており、第2項は増幅回路により増幅された信号電圧(vout)を表しています。式2より、iDは2K(VGbias-VT)vinなので、式3は

VOUT+vout=(VDD-RDID)-2K(VGbias-VT)RDvin  …式4

となります。これより、ソース接地増幅回路の電圧増幅度vout/vin

vout/vin=-2K(VG-VT)RD  …式5

となります。ここまで説明した増幅回路の動作をまとめると次のようになります。

  • 1:入力電圧vinはMOSFETのゲート・ソース電圧の変化となり、MOSFETのドレイン電流が変化する。
  • 2:ドレイン電流の変化iDは2K(VGbias-VT)vinとなる。この2K(VGbias-VT)はトランスコンダクタンス(gm)と呼ばれ、gm=dId/dVgsです)。iDの符号は、入力電圧をゲートに加えた場合は正、ソースに加えた場合は負となる。
  • 3:ドレイン電流の変化iDは、出力端子に接続された抵抗RD、またはRSにより、出力電圧の変化vout=RDiDとして出力される。
  • 4:トランスコンダクタンス(gm)と出力端子に接続された抵抗RDの積が電圧増幅度となる。(符号の考慮が必要)

ここで、入力電圧の振幅は十分小さいと仮定し、トランジスタの電流と電圧の関係を直線に近似しました。アナログ電子回路の解析では、このように回路を構成する素子の特性を、直線に近似し信号が加わった際の電圧、および電流の変化から求めます。この計算を行うため、トランジスタの特性を直線で近似した等価回路(小信号等価回路、または交流等価回路と呼ばれます)が用いられます。

小信号等価回路は、回路に入力電圧を加えた際の各節点の電圧(または電流)の変化量を表す回路です。一方、小信号等価回路は、各節点のバイアス電圧など直流電圧を正しく表すことはできません。そこで、アナログ電子回路の解析および設計では、バイアス電圧およびバイアス電流の解析(直流解析または大信号解析と呼びます)と、信号を加えた際の電圧および電流の変化を求める解析(交流解析または小信号解析とよびます)を別々に行います。上記の例では、式1~4においてバイアス電圧・電流と信号電圧を同時に求めているところで、これらを別々に解析します。

図2に、MOSFETとバイポーラトランジスタの小信号等価回路を示します。図2左は、MOSFETの小信号等価回路です。MOSFETは、ゲート・ソース間電圧の変化vgsをgm倍して電流の変化に変換するので、gmvgsの電圧制御電流源で表すことができます。rdはドレイン抵抗と呼ばれます。MOSFETのドレイン電流はID=K(VGS-VT)2と表され、ドレイン・ソース電圧の変化に依存しないのが理想です。しかし、実際のMOSFETでは、ドレイン・ソース間電圧の変化に応じて変化しますrdは、ドレイン・ソース間電圧の変化に応じたドレイン電流の変化を表す抵抗です。

図2:MOSFETとバイポーラトランジスタの小信号等価回路
図2:MOSFETとバイポーラトランジスタの小信号等価回路

図2右は、バイポーラトランジスタの小信号等価回路です。バイポーラトランジスタは、ベース電流のhfe倍のコレクタ電流を流す素子であるため、hfeibの電流制御電流源となります。この電流制御電流源に、ベース・エミッタ間電圧の変化によってエミッタ電流を変化させるためのreと、ベース領域の抵抗を表すrbが接続されています。reはボツルマン定数k、絶対温度T、電子の電荷qと、バイアス電流IEから求められます。これらの小信号等価回路は、手計算に適した最も単純な構成の小信号等価回路です。実際の解析では、目的に応じて適切な小信号等価回路を選択します。複雑な小信号等価回路を用いることで、精度は向上します。その反面、計算が大変になるため、まずはここに示した簡単な小信号等価回路を用いて、回路の動作のイメージをつかむとともに、解析の手順になれるとよいでしょう。

2. 実際の増幅回路の構成と解析の手順

続きは、保管用PDFに掲載中。ぜひ、下記よりダウンロードして、ご覧ください。